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38話「来訪者」

哨戒艦隊の壊滅から4日後、春翔たちの姿は北京中華方面軍総司令部の司令官オフィスにあった。

彼とその副官ガブリエーレの手元には哨戒艦隊が敵と遭遇し、大きな損害を負ったと言う報告のみが届いており、春翔を含む司令部のメンバーはそれを大した問題と認識していなかった。

事態が急変したのは昼過ぎ、予定に無い来客が春翔の元を訪れた時である。

「おい!なんだ貴様は!」

午後2時。

春翔とガブリエーレは中華方面軍司令部23階に位置する司令官オフィスの前の通路がにわかに騒がしくなったのを感じた。

「何があったんでしょう、、、?」

「さぁ、、、?」

困惑するガブリエーレ、訝しがる春翔。

そんな2人をよそに声はどんどん近づいてくる。

「許可無い立ち入りは禁止されているエリアだ!止まらんと拘束するぞ!」

しかし警備担当士官の呼びかけも虚しく、司令官オフィスのドアは吹っ飛んだのでは無いかと言う勢いで開かれた。その向こうにいたのは鬼のような形相をした、身長は200センチを越えようかと言うほどの巨体の男であった。

棘のように逆立った髪は、筋骨隆々と言う言葉が相応しいその肉体と共に周りを圧倒する雰囲気を放っていた。

「止まりなさい!許可なく司令官室に立ち入るとは何事ですか!名前と階級、所属を、、、」

「邪魔だガキンチョ!どけ!」

「あっ!」

ガブリエーレは拳銃を構え男の前に立ち塞がったが、その巨漢はまるでまとわりつく虫を払うように易々と彼の体を押し除けてしまった。

その男は大股に春翔のデスクに近づき、彼を見つめた。

春翔もまた、デスクから立ち上がり、両者はそのまましばらくの間見つめ合った。

実際の時間にして十数秒、しかし不幸にもその場に居合わせたガブリエーレと警備担当士官にとっては永遠にも思われる時間を経た後、先に口火を切ったのは男の方であった。

「中華方面軍、景徳鎮前線基地所属、(リュウ)尊心(ズンシン)少尉であります。火神元帥閣下であらせられますな?」

「あぁ、ガーディアンズ最高司令官・火神春翔だ。それで、劉少尉、、、だったかな?君はなぜここに?」

扉の前で呆然としていた警備担当士官に下がるように合図をしてから、春翔は劉に話しかけた。

「なぜ?それはあなたが1番お分かりでは?」

「心当たりが無いから聞いているのだが?」

そう言うと劉は一心驚いたような顔をして、その直後に憤怒の色を浮かべた。

「心当たりが無い?閣下、流石にそれは無いでしょう。5日前、他でも無いあなたの艦であるミライが我々の、味方の艦隊を砲撃し壊滅させた。私の指揮下にあった九龍を除いてね!これでもまだ心当たりが無いとおっしゃるのですか!?」

劉の叫びに春翔は驚愕した。

「大尉、直近1週間の内にミライが北京(ここ)を離れたと言う記録はあるか?」

「いいえ、閣下。戦艦ミライは3月17日に北京第一埠頭に係留されて以来演習を含めて北京外港を離れた事実は有りません」

「そう言う事だ、劉少尉。我々を疑うのであればここに勤める全将兵に聞いてみても構わない。少なくとも僕の指揮の下ミライが出撃した事実は無いよ」

呆然とする劉に春翔は穏やかに語りかけた。

「じゃあ、、、あの艦は、、、」

「それも含めて調査が必要だ。劉少尉、君の艦は?」

「景徳鎮です。即座に射殺される覚悟で参りましたので」

その言葉に春翔は頷きかけ、指示を出した。

「劉少尉、君は北京に残ってもらう。部屋は、、、パッドリノ大尉」

「はい!」

「君の部屋は2人部屋だったね?」

「え、えぇ、、、」

「では丁度いい。劉少尉、君はしばらくパッドリノ大尉の部屋を間借りするように」

直後、微妙に気まずい空気が流れた。

突き飛ばした者と突き飛ばされた者、被害者と加害者は互いに無言で見つめ合い、まるで探りを入れるかのように瞳を見つめていた。

「先程は、上官と知らなかったとは言え非常に無礼な事をいたしました。お許し下さい」

先に口を開いたのは劉の方だった。

その言葉にガブリエーレは少し驚きながら、それでも返答をした。

「あー、、、えーと、、、謝罪を受け入れます。その、、、これから短い間ですが、よろしくお願いします」

その様子を見守っていた春翔は、柔らかく微笑むと劉に退出するように命じた。

「それにしてもなんだったんでしょう、、、」

「それは調べなければわからない、、、大尉」

「はい」

「景徳鎮前線基地に至急当日のレーダー映像、通信記録、九龍艦橋の会話ログを送るように通達してくれ」

「わかりました、すぐに手配します」

「それから参謀本部に指示して特設調査部隊を現地に派遣させてくれ。場合によっては海蘭、、、王准将に動いてもらうことになるかもしれない、諜報部にも話を通しておくように」

「はい」

ガブリエーレは即座に、かつ正確に指示をこなし始めた。

それを見つめる春翔の胸には、不安にも似たざわめきが広がっていた。

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