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37話「遭遇」

新暦162年3月20日。

その日、銭塘江(チエンタンチャン)の畔に位置する街・杭州は濃霧であったと伝えられる。

その杭州から西に300キロ、仁と後清の実質的な国境であり、霧の故郷である鄱阳湖(ポーヤンコ)上空ではガーディアンズ中華方面軍景德鎮前線基地所属の1隻の巡洋艦、2隻の駆逐艦からなる哨戒艦隊が日次任務とでも言うべきパトロール任務に就いていた。

旗艦である軽巡洋艦ポーラーの艦橋には気だるげ(アンニュイ)な空気が流れていた。彼らにとってこのあたりの哨戒は日常的な物であり、目新しい物も無ければ上部組織に報告すべき事も中々起きないからだ。

この日もまた、彼らは決められたコースを決められた時間通りに通れば任務は終わりだと、そう信じていた。

3隻の内最前方に位置していた駆逐艦・九龍(クーロン)がそのレーダーに普段は映らない不審な影を確認したのは16時40分前後であるとされる。

しかし、艦長以下座乗の士官たちはそれをさしたる問題とは考えなかった。九龍の属するロドス級駆逐艦は建造後20年以上が経っている老朽艦であり、存在しない艦がレーダー上に現れる事も珍しい事では無かったからだ。

その影が普段とは違い幻では無い事が分かったのはそれから10分後、旗艦ポーラーのレーダーが九龍と同じ場所に未確認の艦船を捕捉してからの事である。

「司令!司令!」

「聞こえておるわ!」

食後の午睡から叩き起こされた司令官・ティルス大尉は不機嫌であった。それでも軍人として、司令官として最低限の職責は果たすべくオペレーターに状況の報告を命じた。

「前方20キロに艦影を確認、識別不能」

「10分程前には九龍も補足しています」

「九龍だけならいつものごとく誤作動と思えるだろうが、本艦もとなるとそうもいかんな、、、数は?」

「1です」

「1?」

ティルスは顔を顰め考え始めた、今から行ったとして果たして敵なのか否か、そもそも1隻しかいないのならばやはり誤作動では無いのか?

3分ほどの逡巡の後、彼は艦隊の進路をレーダーに感があった方向に向けるように命令を下した。

移動には5分ほどの時間を要したとされる。3隻の艦隊が現場に到着した時、彼らは濃霧に浮かぶ巨大な艦体を認めた。

「な、なんだあの大きさは、、、」

ティルスだけでは無い、その場にいた誰もがその巨大さに圧倒された。そして同時それが彼らの所属するガーディアンズ総旗艦・ミライに酷似している事に気がついた。

「司令、あの艦、、、」

「あぁ、どこからどう見てもミライだな」

瞬間、彼らは肩の力を抜いた。味方と分かれば警戒する理由はない。

「全く、元帥閣下もお人が悪い、肝が冷えたぞ」

ティルスの言葉に艦橋には笑い声が起こった。

「ですが、なぜミライがここにいるんでしょう?識別コードも隠蔽しているようですし」

「ちょっと聞いてみるか、通信部!」

「はい」

「ミライに通信を送れ、『こちら206部隊旗艦ポーラー、貴艦は何故ここに居るか』とな」

通信士官は彼の命令を忠実にこなした、そしてその通信に霧中の巨大な戦艦は青白く光る火線で報いた。

「ミライ砲撃!」

「なに!?我々は味方のはずだ!」

オペレーターの絶叫に艦橋は阿鼻叫喚の大混乱に叩き込まれた。誰もこの状況で自分たちが攻撃されるなど考えてもいなかったのだ。

「司令!命令を!」

「反転!反転だ!?」

爆音が響き渡り、彼らの網膜をオレンジ色の光芒が焼いた。

「状況を報告せよ!」

「後続のモンスーンがやられました!また本艦も艦尾部分に被弾!」

「火災発生!スプリンクラー展開中!」

「水術士を向かわせろ!機関保護を最優先!全隔壁閉鎖!」

「ミライ砲撃を続行中!」

「先程の砲撃により機関部に損傷!推力が75%まで低下!尚も低下中!」

ティルスは冷や汗を吹き出しながらもなお、健在な僚艦を窓の外に認めた。

「九龍の損害状況は?」

「今のところ無傷に近いです!」

「なら良い、、、本艦はこれより九龍撤退を支援する!主砲!対艦砲撃戦闘用意!目標、戦艦ミライ!」

「ですがそれでは本艦が、、、」

「本艦は最早戦線離脱は不可能だ、希望者は直ちに脱出せよ」

士官たちは顔を見合わせた、攻撃してきているとは言え自分たちの総旗艦を撃つというのは躊躇が伴った、しかも反撃すれば確実に死が待っているのだ。しかし最終的に彼らは自らの直接の上司の言に従うことを決めた。

「主砲照準完了!」

「撃てい!」

瞬間、威力は小さくとも苛烈な砲撃が始まった。

ポーラーに搭載されているのは大きさこそ小さいが速射性に優れる小型砲である。1分間に50発もの主砲弾を発砲可能で、その全力砲撃たるや1隻で駆逐艦隊程度であれば全滅させられる程度である。

しかし戦艦はあまりにも強大すぎた。

「全弾弾かれてます!全く効果ありません!」

「ミライ主砲を発砲!直撃コースで!?」

激しい衝撃が彼らを襲い、轟音と共に艦橋に瓦礫と火焔と煙が雪崩れ込んできた。

床に叩きつけられたティルスは、よろめきながらもなんとか立ち上がり、そして士官に尋ねた。

「九龍は、、、?」

「戦場離脱に成功、現在景徳鎮方面に向けて移動中です」

「そうか、なら良かった、、、」

18時33分、巡洋艦ポーラーは爆沈した。

これは会話ログの回収により判明した物で、会話ログの録音終了時間から逆算された物である。ただしこの会話ログには欠落している部分も少なくなく、もしかしたらもっと後かもしれないがそれはまだわからない。

少なくともポーラー爆沈に関してはっきりとわかっているのは、哨戒艦隊司令・ティルス大尉以下乗組員35名は全員戦死したという事だけである。

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