36話「先導」
石井中将麾下の第8艦隊は、移動を開始した翌日の深夜に北京外港に達した。停泊位置まで旗艦・オリエントを先導したのは後清艦隊の戦艦・成都であった。
「青島からここまでの先導、感謝します魏准将」
「陛下と皇后娘娘から仰せつかったまでです、礼には及びません」
その言葉に頷いてから、彼女は側に控える自らの部下に問いかけた。
「矢澤少将、本隊の位置は?」
「現在明石海峡上空を通過中、到着予定は明々後日、、、いえ、明後日午前中」
「となると最低2日は私たちだけ、と言う事ね」
「そう言う事になります」
「魏准将、皇室サイドから何か言われていたりしますか?恐らく、火神元帥がお着きになったら何か言われると思うけれど」
「陛下は特に何も、ですが皇后娘娘はあなたに興味持っているかのようなそぶりを見せております」
「興味を?どう言う事?」
「私にもわかりかねます。ですが、皇后娘娘の最終階級は少将、同じ女性将官と言うこともあるのでは無いでしょうか」
「では皇后が私を個人的に呼ぶ可能性は否定できない、と言うわけね?」
彼女は本格的に頭を抱えた。公的に呼ばれる場合は大体聞かれる事の予想もつけば返答も事務的に徹することができる(何より上官に全てを押し付けることも可能なのだ)、しかし私的にとなると話は別だ。
聞かれることの予想も付かなければどう返答すれば良いのかもわからない、何より誰かにそれを押し付けて逃げることもできないのだ。
「まぁ閣下、まだどうなるかもわからない事を恐れるよりも差し迫った事を考えた方がいいでしょう」
「差し迫った事?」
「李大将が早急な面会と報告を求めています、業務開始時間になり次第中華方面軍総司令部に出頭せよと」
「つまり、元帥閣下が北京にお着きになるのは明後日と?」
ガーディアンズ中華方面軍総司令部庁舎、その総司令官オフィスで石井中将は中華方面軍司令官・李舜臣大将と相対していた。李が彼女を召還したのは本隊の位置に関する詳細を確認するためである。
「そのように聞いております、大将閣下」
石井はやや緊張した面持ちでその疑問に答えた。
同じ将官でも中将と大将では天と地ほどの差がある、彼女の給与が大将並みであったとしてもその差を埋める事は出来ない。
そんな彼女の心中を知ってか知らずか、李はため息をついた。
「全く困ったお方だ、、、まぁ仕方が無いな。ここまでの艦隊の指揮、ご苦労だった。本来ならば私が艦隊を動かすべき所を陛下の御手を煩わせる事になってしまった、急ぎ参内の用意を整えておくように」
「、、、やはり、私も行かねばなりませんか?」
「当たり前だ、私の不手際とは言え清の艦隊に世話になったんだからな。なに、心配はいらない。その時は元帥閣下も一緒だからな、君はあくまでついでだ」
ついでと言われるのもあまり気分は良く無い物だ。彼女はそう思いながらも流石にそれを口に出す事をしなかった。




