35話「先遣艦隊」
ガーディアンズは全世界規模の巨大な軍事組織である。
所属する艦艇数は優に1万を越え、本部含め12の方面軍を持つ。
そしてやはりと言うべきか慢性的な人材不足にも悩まされていた。殆どの艦艇が無人化され、人の乗り組みが不要とは言え限度が有る。現状有人艦1隻が指揮できるのは15隻から20隻、通信や指揮系統簡略化の為有人艦1隻につき無人艦10隻が基本単位となっている。
ガーディアンズ所属の有人艦は約1500隻、艦隊運用のために6万人の人員が必要になる。単に艦隊を動かす為だけに、である。
艦隊による戦いのみがガーディアンズの全てでは無い。
王桃園大将を総司令官とする陸軍部による陸戦、参謀部による作戦立案とその指揮、諜報部による潜入、人事局・事務局による事務処理、技術部による開発、艦艇の整備・建造、無政府状態となっている地域への政府樹立の支援、場合によってはその場所の直接統治その他諸々。
これらを円滑に運営するために必要となる人員は5000万を越える、人口がようやっと30億を数えるまでに回復したばかりの世界でそれだけの人員を確保するのはまさに至難の業だった。
故にガーディアンズには幾つも役職を掛け持ちしている者が珍しく無い。
ガーディアンズ佐世保基地司令官兼本部直属第8艦隊指揮官・石井中将もその例として必ず名前が挙がる人物である。
彼女の軍歴は長い。
ガーディアンズが階級制度を導入する前、世界修復以前からガーディアンズのメンバーとして活動し、少なからぬ功績を上げていた。
15歳でガーディアンズの一員となり、今年で丁度人生の半分をガーディアンズに捧げたことになる。
今でこそ彼女の持つ肩書きは佐世保基地司令官と第8艦隊指揮官の2つのみであるが、彼女が少将の位に有った時、彼女は本部直属第2艦隊主席参謀、第2艦隊第3分艦隊指揮官、事務局書記総長、諜報部総監、護衛部隊総監部次席総監、主計課長と言う6つの肩書きを持っていた。
故に彼女は少将でありながら給与・待遇は大将並みとされた、ガーディアンズには人事バランスの関係上このようなケース、即ち「給与大将」と呼ばれる者が一定数存在するのだ。
そして今、彼女に新たな肩書きが1つ追加された、すなわち「北京における総司令官代理」である。
「ようは体良く面倒事を押し付けられたと考えて良いのかしら」
旗艦である巡洋戦艦オリエントの艦橋で、総旗艦からの命令を受けた彼女は気怠げに呟いた。
「まさか、本隊到着までの時間差は長くて2日です。それに元帥閣下とて到着したらば挨拶回りは免れません。恐らく指揮系統の混乱を防ぐ目的があったのでしょう、北京には方面軍司令官たる李大将もおられますし」
副官が苦笑しながら彼女を諫める、しかしながら彼女は釈然とはしない表情を崩す事はなかった。
「それはそうかもしれないけれど、皇帝陛下が早急に謁見せよとでも言ってきたらどうする?私断れないわよ?」
「その時は腹を括るしか無いでしょう」
「冷たいなぁ、、、」
そう言って彼女は遠い目をした、副官はため息をつくと正論と言う名の大砲を彼女の横っ腹に叩き込んだ。
「事実でしょう、拒否すれば最悪あなたの首が飛びますよ?」
「それは役職的にと信じたいところねぇ、、、」
語りかけると言うよりむしろ呟くと言うべき声量で言ってから石井は指揮シートから身を起こし艦隊参謀長の名を呼んだ。
「矢澤少将!」
「ここに」
「艦隊の状況を報告なさい」
「全艦隊離水完了、巡航高度にて待機中です」
「ならば結構、聞いていたわね?本艦隊は本隊に先立ち北京へ向かいます。全艦隊に第二種警戒体制を発令、全艦メインエンジン出力上げ!第3船速を維持しつつ第4通常航行陣形を展開!」
自身の上官の命令に彼女は敬礼で応えた。
14時06分、もしくは09分。ガーディアンズ本部直属第8艦隊は石井中将の指揮の下先遣艦隊として移動を開始した。
後に、この先遣艦隊の移動開始こそ、これから始まる大作戦の幕開けであるとされる。




