28話「会議」
「やあみんな、遠路はるばるすまないね」
司令官達の敬礼に答えながら春翔が言う。
「全くですな、あまりに突然の召集でしたので、とるものもとりあえず飛んで参りました、、、して、どのようなご用件で我々を呼ばれたんです?」
春翔に最も近い位置に陣取る李舜臣大将が訊ねる。彼と一瞬目が合ったガブリエーレは背筋をただし、目礼した。
「それについては僕の副官から説明しよう、パッドリノ大尉、報告を」
「は、はいっ!」
静かな部屋にガブリエーレの声が響きわたる、幾人かの提督が吹き出し、数人が「若いな」と呟いたのが彼の耳に入った。ガブリエーレは赤面しつつ前へと向かった。
足を進めながらガブリエーレは壮観だな、と考えた。
彼がそう考えるのも当たり前である。現在この会議室には李舜臣大将をはじめとしてロシア・北欧方面軍司令官・ジノヴィー・ロジェストヴェンスキー大将、インド・東南アジア方面軍司令官・カーリー・マハーデーヴィー大将、トルコ・中東方面軍司令官・ピーリー・レイース大将、欧州方面軍司令官・イニーゴ・カンピオーニ大将、北アフリカ方面軍司令官・セティ・メネス=アブドゥル大将、南アフリカ方面軍司令官・ネルソン・マンデラ大将、北米方面軍司令官・チェスター・ニミッツ大将、中南米方面軍司令官・フアン・ホセ・ラトーレ大将、豪州方面軍司令官・ジェームズ・クック大将にガーディアンズ副最高司令官・ホレーショ・ネルソン大将と最高司令官・火神春翔元帥を加えた12人の大将以上の者が一堂に会しているのだ。
それに引き換え彼は未だ任官してから1年も経っていない駆け出しの士官、緊張しないほうがおかしく、そして彼は彼の16年の生涯の内で最も緊張した瞬間を味わっていたのだった。
「ご報告します。先日、仁帝国に潜入中の王大佐より情報の提供が有りました。その情報によると仁帝国は新たな戦闘艦の大量生産体制に入りました、恐らく併合した令王国より接収した新技術を用いて量産を行うようです。そして9月の頭より首都・重庆近郊の工廠が稼働を開始しました、量産スピードは情報よりも速い毎月70隻程度のようです」
「月に70隻だと!?」
ロジェストヴェンスキー大将が信じられないとばかりに叫ぶ、周りの提督たちの間にもどよめきが広がり、騒然とした空気が流れた。
「恐らく、仁は近々我々との決着をつけるつもりだろう。大尉、現状敵が動かせる兵力は?」
「およそ1500隻です」
「となると我々が各方面軍に配備している艦隊の約2倍だ、コイツに対する対策を聞きたくてみんなを呼んだんだ」
今度は水を打ったような沈黙が流れる。その沈黙を破って李がゆっくりと話す。
「なまじ正面からぶつかれば敗北を喫し、本部を廃墟にされて終わりでしょう」
「では、どうすべきかな?」
「元帥閣下もお人が悪い、、、すでに持ち合わせている答えを部下にいわせますか」
「僕は念には念を入れたいタイプだからね」
この頃には熟練の提督を中心に、彼らが何を考えているのかを理解した者が現れ始めていた。
「敵の数が多ければ減らせばよろしい。例えば太平洋・本部方面から中華方面軍が、インド方面からマハーデーヴィー大将麾下のインド・東南アジア方面軍を差し向けて二正面作戦を挑むのです。さすれば敵は勢力を二分せざるを得ず、万が一本部攻略を目指して戦力を集中させたとしても、丸裸の重庆をマハーデーヴィー大将が占拠すれば痛み分け、少なくとも負けはしなくなります」
「我々が動ければ良いのですが、いかんせん蒙は中立の立場ですからな」
ロシア・北欧方面軍司令官のロジェストヴェンスキー大将が悔しげに呟く。
「この作戦が発動されるとして、動かない方面軍にも何らかの形で関わってもらう、そこは安心してくれ」
「発動されたらメインで動くのは私と李提督となるのでしょうか?」
マハーデーヴィーが不安げに訊ねる。
「恐らく、そうなるだろう。だが今すぐに発動、とはならない。我々には仁以外にも対応すべき問題が大小関わらず存在する、まずはそれを片付ける所からだ。僕に何か伝えたいことが有るならこの後、東京滞在中に伝えること。では以上、解散!」
提督たちの敬礼に答えながら、春翔はガーディアンズが変わってしまった事を再び実感した。
かつてたった4人で立ち上げたこの組織は、今や全世界を二分する勢力の一つとなり。そして時代の要求に答え階級制を導入した結果、ガーディアンズは急速に人間味を失っていった。彼はそれを諦めと悲しみが入り混じった感情で見つめていた。
(だが前に進まねばならない)
そう、命が尽きない彼に許されているのは前進のみなのだ。最早過去は彼を受容しない。
(仁太宗の時代から100年近くに渡って続いてきた争いに新たな流れが生まれた、、、さて、これは福となるか渦と化すか、、、)
慌ただしげに廊下を進む人影を視界の端に認めながら、副官を伴って彼も廊下を進む。
廊下に設置された鏡に映った過去の彼が、いつまでも彼を見つめているかのような気がした。




