25話「名将」
「結果、帝国艦隊はその戦力の6割を失い撤退、しかしながら我が方も北米第三艦隊が壊滅、その他の部隊にも少なからず損害が発生したため完全な勝利とはならなかったようです」
北米での戦いから数日後、ガーディアンズ本部ではガブリエーレ・パッドリノ大尉が事の顛末を春翔に報告していた。それを満足げに聞きながら春翔は「少なくとも負けはしなかったと言うわけだ」とガブリエーレに問いかけた。
「はい、敵を領内から押し返しただけでも出撃の目的は果たされています。戦術的勝利と言っても過言ではないでしょう」
「そう、そしてチェスターは副次的効果ももたらしてくれた」
「副次的効果?」
「そうだ、アテルイが処刑された」
北米帝国の帝都・モントリオール、その偉大なる宮殿と呼ばれる王宮には緊張が走っていた。ガーディアンズの庇護下に有る北米民主連邦領内への侵攻が失敗に終わったばかりか、ガーディアンズ北米方面軍からの反撃に遭いその戦力の過半数を失い敗走したアテルイへの皇帝の怒りは凄まじい物であった。
「アテルイ!貴様は出撃前に余になんと言った!?」
「必ず、、、敵将の首を陛下の手に、、、と」
「それが今ではどうか!?敵将の首どころか過半数の艦を失っているではないか!」
「返す言葉もございません」
「アテルイ!貴様も他の愚将共と同じであったか!?」
「、、、」
「もうよい!もおおよい!アテルイ!此度の結果、余への不敬と見做す!刑吏!」
謁見の間に入ってきた刑吏の手に斧が握られているのを見たとき、アテルイは自らに待ち受けている理不尽な結末を悟った。
「陛下、どうか命は、、、!」
「アテルイ、これは命令である、貴様は敗軍の将としての責務を全うすれば良い」
跪いていた彼の頭を、首を斬りやすいように下に下げながら刑吏が彼に話しかけた。
「将軍、どうか武人らしく潔くお逝き下さい。あなたの功績は天にまします我らの神が、きっと報ってくれましょう」
それを聞いた彼は、がっくりとうなだれると、目をつむって静かに「やれ」とだけ言った。
「ですが、なぜ一度の敗戦で処刑となったのでしょう?」
春翔から詳細を聞いたガブリエーレは、抱いた疑問を素直に口にした。
「彼はガーディアンズを幾度となく苦しめてきた、、、敵ではありますが名将です。そんな人間を一度の敗戦で処刑とは、確実にデメリットの方が大きいはずです」
「恐らく、これは法的根拠を持たない物だな」
「法的根拠を持たない?」思わず訝しげな声がでる。
「つまり皇帝の恣意的なもの、気分によってその命が決せられた訳だ」
「でしたらなおさらわかりません。アテルイ将軍は皇帝の寵臣だったはずです、そんな彼をなぜ、、、?」
「可愛さ余って憎さ百倍、という訳かな?彼は勝利だけを収め、成功のみを上げてきた故に些細な失敗すら許されなくなってしまったということだろう。哀れな方だ、一度会って見たかった」
そう呟きながら春翔は立ち上がり、東方、すなわち北米大陸の有る方を向いて敬礼をした。ガブリエーレもそれに倣い非の打ち所の無い敬礼を披露する。
しばらくそうしていて、そして1分がたった頃、二人はいつもの業務へと戻りだした。




