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19話「夫婦」

仁帝国の都・重庆、そこに広がる黄瓦城の主である皇帝の元には日夜彼の裁可要する案件が運び込まれていた。それは政治を司る朝廷に関してのみならず、妃嬪たちの住まう女の園である後宮に関しての案件も少なからず含まれていた。

「臣妾给皇上请安」

朝廷での執務を終え、居宮に戻った彼の元に皇后・李氏が訪れいつものごとく拝礼をした時、皇帝・(チン)江民(カンミン)は不快そうな顔を隠すことは無かった。と同時に皇后もまたその夫のそんな表情を気にかけることも無く、「起来」と言う言葉に従いその身を起こした。

「皇后、何故ここに来たのだ?」

「令王国を併合するとお聞きしました、事実ですか?」

その疑問に皇帝は面倒くさそうに「事実だ」と答えた。

「国王は死に、後継者も居ないからな。それに我々仁にとって令の併合は悲願の一つだ」

「そのために国王とまだ8歳の子どもを手にかけたと言うのですか」

ピリリとした緊張感が走る。皇后の言葉には明確な非難のエッセンスが含まれ、それを聞いた皇帝からは人に不安感を覚えさせる雰囲気、すなわち不機嫌な感情が漏れ出ていた。

「皇后、お前はそんなことを話に朕の所へ来たのか」

「いいえ、勿論そうではありません。そもそも、朝廷の(まつりごと)に関して我々は口を出してはなりませんから」

「では何のためにここに来たのだ、今の所朝廷の政治についての話題しか無いではないか!」

不意に皇帝が机を叩き激昂する。

「ええ、無論これは本題ではありません。皇上、私たちは朝廷の政治には関与しませんが後宮に関しては、私の責任によって皇上の裁可を頂かねばならない事が多々ございます」

「後宮?」

皇帝の言葉に軽くうなずいて皇后は言葉を続ける。

「寒貴妃の処罰についてです、先日彼女は彼女自身の誤解によって開くことを許されていない東廊宮の門を開きました」

「聞く所によると、後宮の規律を正すための行為だそうだが?ならば処罰すべき点など無かろう」

「皇上、寒貴妃の理論は完全に破綻しており、なおかつ証拠として出された物もとても証拠とは言えない物でした。彼女は一公主に対して今までも過剰に攻撃を仕掛けている傾向にあります、綱紀を粛正するためにもここはどうか処罰を」

その言葉を皇帝は興味なさげに手を打ち切った。

「とにかく、悪意のある行動では無いと本人も言っている。差し当たっては処罰する必要もなかろう」

(あの女、やはり先手を打っていたわね)

心の中で舌打ちをしながら彼女はさらに食い下がった。

「しかしながら皇上、彼女は、、、」

「まだ言うか!朕が処罰など必要無いと言っているのだ!それに従うのが筋というものであろう!」

今度こそ顔を真っ赤にして皇帝が怒鳴る。

「もう良い!下がれ!」

その言葉に従い彼女は軽く腰を折ってその場を後にした。

「娘娘、、、」 

「大丈夫よ、心配しないで」

心配そうに近寄ってきた侍女に返した言葉には、夫に邪険に扱われた事へのショックも、怒鳴られた事への悲しみも無かった。有るのはただ空虚のみ、元々愛など存在しなかった彼らの仲をそのまま表現しているかのような空虚のみである。

「ただ少しマズいわね、淑妃を冷宮から出すのがまた伸びてしまう」

「淑妃娘娘も一公主様もおかわいそうです、それに皇上も皇上で、いくら寵愛してる妃の言葉だからって証拠も無しに冷宮送りだなんて、、、」

「それくらいにしておきなさい、もし誰かに聞かれでもしたらただじゃ済まないわよ」

(はい)

(でも、事実でもあるわ。早く彼女をあそこから助けなければ、命が危ない)

第一公主・陳江花(カンホア)の母・淑妃葉赫那拉(イェヘナラ)氏が第四皇子殺害の罪で冷宮に送られてからはや4年が経とうとしていた。皇后・李小雪や江花をはじめとした彼女の無実を信じる人たちの間には、焦燥感が広がっていた。

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