14話「墓参り」
門をくぐったすぐ先、町の中心にはまだまだ距離のある場所、つまり町の外れに多くの人が葬られている共同墓地がある。彼はトランクを片手に林のように立ち並ぶ墓碑の間を縫うように墓地を進んでいった。夏の近づく少しぬるめの風が彼の髪を撫でる。
やがて彼はとある2つの墓碑の前でふと足を止め、そして少し息をついた。
「ただいま、父さん、リオおじさん」
どこまでも静かに、そして生者に語りかけるがごとき口調で墓に語りかけるガブリエーレ。その墓碑にはそれぞれ「Laocoonte・Padrino」そして「Rio・G・Maestronio」と刻まれていた。
リオ・G・マレストローニャとラオコーン・パッドリノはまるで兄弟のように仲が良かったと言われている。彼らは毎日をこの田舎町で暮らし、そして質素ながらも幸せな生活を送っていた。
しかし突如としてその幸せは破壊される。グレイ朝マケドニア帝国によるシチリア侵攻である。当時ラオコーンは16歳、リオは13歳、特にリオは家を焼き出され、両親を喪った。彼はその後三年間ラオコーンの前から姿を消す。
彼らが再会するのは3年後、ラオコーン19歳、リオ16歳の時で、リオはその時傍らに新造戦艦・ヴィレを連れていた。
ラオコーンはひどく動揺し、リオに何が有ったのかを問うた。リオはそれに明確には答えず、ラオコーンをガーディアンズへと誘った。
ラオコーンは困惑したが弟にも等しい者の瞳に何か激しい物を認め、敢えて何も言わずにそれを受けた。その頃、同じくガーディアンズで活躍していた後の妻・イセリナ・M・ランカスターと出会ったようである。
ラオコーンとリオと行動を共にして2年目、ラオコーンとイセリナは結婚し、その1年後、息子の誕生を期にヴィレを降りた。
リオは息子の誕生の知らせを素直に喜び、若い一組の夫婦を心から祝福した。そしてその父親が息子に名前をつけてやって欲しいと言ってきたとき、彼は自らのミドルネームから「ガブリエーレ」と言う名を与えた。その息子こそが今日のガブリエーレ・パッドリノである。
(例えこの墓が飾りだったとしても、父さんとリオおじさんはきっとここに帰ってきているよね)
そう、この墓の下に遺体は眠っていない。
東京を中心とした結界が未だ健在であった頃、いわゆる前期ガーディアンズ時代最後の戦いである「大東京決戦」においてラオコーンとリオは戦死、両者共に体は艦と共に爆散していたのだ。
ガブリエーレは父と最後に別れた時の事を今でも良く覚えている。
その日、久しぶりに家に帰ってきた彼の父とリオ、そして彼の母は一日中難しい顔をして話し込んでいた、つまらなくなったガブリエーレは家を出て父と、リオの戦艦が係留してある小高い丘へと向かった。
するとそこに見慣れない人影を認めたのだ。ガブリエーレは気になってその人影に声をかけた、そして振り向いた人間の顔を見て心臓が止まるかのような思いを味わった。あまりにも似ていたのだ、彼の父親に。
その青年は自らの事を「アレク」と名乗った。そして彼は幼いガブリエーレに人間がすべてを知るにはあまりにも広く、そして恐ろしくも美しい世界を語った。
やがてそんな2人のもとにラオコーンとリオがやってきた。
ラオコーンは彼の息子を抱き上げ、「母さんを頼む」とガブリエーレに言った。思えば彼はその時から帰らないつもりだったのかもしれない。ガブリエーレは空に飛翔していく2隻の戦艦をいつまでもいつまでも見つめていた。
その数日後、大東京決戦が行われ、大陥没の再開、そしてその阻止からの世界の修復が1日にして行われた。
『あなたの父と、もう一人の親はこの空の向こうで戦っているのですよ』
大陥没の再開とともに紫に染まった空を見つめながら、不安がる彼の肩を抱いて言ったイセリナの言葉が今も彼の耳に残っている。
結局、ラオコーンとリオは二度と帰ってくる事は無かった。共に世界のために戦い、そして散っていったのだ。そしてリオに付き従っていたアレクもまた、東京に散ったことをガブリエーレは数年後に伝え聞いたのだった。
「父さん、リオおじさん、色々報告したい事は有るけど、俺はもう行くよ」
「母さんが待ってる」と付け加えて墓の前から去ろうとするガブリエーレ、彼は数歩歩いた先でふと足を止め、そして自らの足元に立っているもう一つの墓碑へと目をやった。
「、、、アレクさん、あなたも僕を見守ってくれてるんですか?」
その声に答える者は誰一人として、少なくとも生者の中には存在しなかった。冷たい沈黙を返すだけの墓碑には「Alexandre・Blorer」と刻まれていた。




