15話「帰宅」
「ただいま」
「おかえり」
久しぶりに互いの姿を認めた親子が最初に交わした言葉はごく当たり前の、それこそ少し散歩に行って帰ってきただけなのではないかと錯覚するほどシンプルで、そして家庭的な物だった。
母は息子が無事に帰ってきた安心感で、息子は母と再開できた喜びで互いに少し不自然にはにかみながらぎこちなくハグをする。
「お父さんの所にはもう行ったんでしょう?」
「うん、リオおじさんの所にもね」
そう言うとイセリナは「そう」と言って微笑んだ。
そのまま互いに何も言わず、ガブリエーレは懐かしい家の中へと入っていった。
「なにも、変わってないんだね、、、」
「えぇ、たったの3年だもの」
木目調を中心とした暖かい日差しの差し込む居間で親子は向き合って話をしていた。
「そうそう、あなたが帰ってくると聞いてニュートがとても喜んでいたわ」
「本当?あいつとあうのも久しぶりだなあ、、、」
「だと思って、夕飯の席に呼んでおいたわ」
「ありがとう、母さん」
「どういたしまして」そう言って茶を淹れるためにキッチンへと向かう母の背中にも形容しがたい懐かしさを感じながら、彼はゆっくりと辺りを見回した。
高めの天井、木の枠にはまっているガラスから差し込む暖かな日差し、少し埃の積もった窓辺の棚。全てが記憶の通りの姿を留めてある。当たり前と言えば当たり前かもしれない、あくまで東京の時の流れが速すぎるだけで、本来時間とはこうやって流れていくものなのだと言う事を彼は久しぶりに思い出した。
「火神元帥とはどう?うまくやれてる?」
「うん、母さんは元帥とあった事があるんでしょう?」
「えぇ、私がまだ独身の頃に何度か、あの頃は『ハル』って名乗ってたのよ?」
「ファーストネームから2文字取って?」
「多分ね、あの頃は王さんがハルさん、、、火神元帥の補佐をしてたのよ?」
「王って、、、あの陸軍部総司令の王桃園大将の事!?」
「えぇ、、、もう20年くらい前の話、彼も結構若かったのよ?」
信じられないと言う顔をするガブリエーレを尻目にイセリナは優雅な手つきで茶を一口飲んだ。
「それにしても、パッドリノ家は面白いほどガーディアンズの軍に縁が有るわね」
「そんなに?」
疑問を投げかけるガブリエーレに「えぇ」と答えてさらに茶を一口、そして口を開いた。
「あなたの曾祖父様はマケドニアで、お祖父様は北米で、そしてお父様は東京で死んだの、あなたのお父様で三代続けて孫の顔を見てないそうよ?」
「もっと言っちゃえばあなたのお祖母様は復讐に燃えた結果南米ギアナで亡くなったそうだしね」そう言いながらさらに茶をすする母を愕然とした目で見つめながら、ガブリエーレは何を言えば良いのかわからなくなっていた。
するとイセリナは不意に「ああそうだ」と言ってガブリエーレに向き直った。
「明明後日、シラクーザに市がでるの、一緒に来てお手伝いをしてもらえない?」
「ああ、いいよ」
「じゃあ決まりね」
ガブリエーレは市の活気を思い出して、胸の高鳴りを感じていた。




