12話「望郷」
本部へと帰還した春翔、そしてガブリエーレを待ち受けていたのは激務に次ぐ激務であった。
一応人事局の富永中将や本部副司令のチェン大将が処理出来るところはやっておいてくれたが、最高司令官たる春翔、及びその副官であるガブリエーレにしか扱えない業務も少なくは無く、その上今回の後清訪問において清国軍との間に改めて成立した協力体制に伴う計画の立案や書類の作成など新たな仕事も多く登場したのだ。
しかしそれらの膨大な数の書類はガブリエーレの超人的な努力と天才的な頭脳によって増した処理速度によりあっという間に消滅して行き、彼の勤務形態はそう変わらずにいた、ただし彼の上司と退勤時間が被ることが増えたと言う変化は有ったが。
この日もまた、退勤後に最寄りの都市交通線の駅に向かう道すがら春翔とガブリエーレはたわいない雑談に花を咲かせていた。
「そう言えばお母様には電話しているのかい?」
ふと思い出したかのように春翔が問いかけてきた。
「え?えぇ、、、でも四月以降は全然、地元にも、、、3年近く帰ってませんね」
そう言えば母とゆっくりと話すこともほとんどなかった、士官学校時代は週に1、2回のペースではなしていたが、卒業後は配属先が決まらない事への不安感と激務に忙殺されそんな事を考える暇も無かったのだ。そんな事を考える彼を横目に春翔は「そうか」と言ってすこし彼の方へと向き直った。
「中尉、もしよければ休暇をとらないかい?」
「え?」
ガブリエーレは思わず頓狂な声を上げた、それに少し苦笑しながら春翔が言葉を続ける。
「君がここに配属されてそろそろ一月がたつ、諸々の報告もあるだろう?」
「それはそうですが、、、」
「後清関連の業務も一段落ついたし、1、2週間程度なら融通できるはずだよ」
その言葉にガブリエーレは少し悩んでいるようだったが、やがて顔をあげると春翔の顔を見て言った。
「ではお言葉に甘えさせていただきます、今日母に連絡しますね」
その答えに春翔は微笑して「そうすると良い」といった。
「では、失礼します」
ホームへと向かう階段前で敬礼をして別れてからおよそ2時間後、アパート型官舎の一角、彼にあてがわれた部屋にガブリエーレは到着していた。もう暗くなっている部屋の電気を付け、買い物をした袋をテーブルにおいて端末を起動する。
2、3回の操作の後軽い電子音と共に1人の女性の立体映像が浮かび上がった。彼女はまだ彼からの着信に気がついていないようである。
「母さん、母さん」
ガブリエーレが軽く呼びかけると彼女はひどく驚いた様子で『ガブリエーレ!?』と問いかけた。
「母さん、こっちだよ」
『ガブリエーレ?ガブリエーレ!あぁ、久しぶりねぇ、、、元気だった?ちゃんと食事はとってるの?仕事はきちんと出来てる?上官に迷惑かけてないかしら?』
矢継ぎ早に話し始めた彼女こそガブリエーレ・パッドリノの母、イセリナ・M・パッドリノである。彼は母の勢いに少したじたじとしながらも話し始めた。
「うん、まぁ元気にやれてるよ、配属先の上官も、、、母さんも知ってると思うけどとてもいい人だよ」
『まさかあなたが元帥閣下の副官になるなんて思ってませんでした、流石あの人の子どもね』
「母さんの子どもでもあるよ、、、で、母さん実はね、、、」
ガブリエーレは彼の上官から提案された事を母へと話した、彼女は最初驚いた顔をしていたが、やがてそれは喜びへと変わっていった。
『じゃああなた近いうちにこちらに戻ってくるのね?』
「うん、来週から1、2週間、どうかな?」
『いつでもいらっしゃい、楽しみにしてる』
その言葉に彼は安心して「じゃあ、切るよ」と言って通話を切った。そこで彼は自分がかなり浮き足立っている事に気がついた。




