11話「二人の女」
「皇后娘娘安」
寒貴妃が腰を折り、簡単な略式の挨拶をする。
「寒貴妃、皇上の勅命によりこの東廊宮の門を開けることは禁じられていたはずですが?」
挨拶を半ば無視しながら皇后が門をくぐり庭に入ってきた。
「皇后娘娘、第二公主は許可なく第一公主と会っていました。私は彼女たちに罰を与えるためにこの門を開けたのです」
「皇上の許可は?それだけでは理由にならないし、それに会っていたと言う証拠も無いじゃない」
皇后の指摘に寒貴妃は一瞬怯んだかのように見えたが、すぐに江花から奪い取った本を突き出して声高々に言った。
「この本が証拠ですわ!第一公主は読書家です、しかしここに入れられてからというもの満足に本も読めないはず、ならば外の第二公主に本を運ばせていたと考えられます!それも定期的に!」
彼女はそう叫んだ後「とんでもない無礼!ありえませんわ!」と江花を罵った。皇后はそれを無視しながら寒貴妃から受け取った本をまじまじと見つめていた。
「恒純」
「在」
「この『葉限』と言う本はどこに入れられた物だったかしら?」
「回皇后娘娘数年前に朱雀宮に入れられた物です」
貴妃はその答えに目を見開き衝撃を受けているようだった、皇后は薄く冷笑を浮かべながらさらに貴妃に問いかけた。
「だそうだけど、母親の持っていた物を娘が持っていて何が不思議なのかしら?」
「ですが、、、ですが皇后娘娘!この娘は定期的に江玲と会っていたんですよ!?」
「寒貴妃、その証拠が今崩れたのよ」
皇后に詰め寄ろうとするもそう言われて言葉に詰まった彼女はもごもごと言いながら引き下がった。
「さて寒貴妃、証拠も無く、そして許可も無くこの門を開けた。この件は皇上に報告するわ」
「そんな、、、!私は皇上の事を思って!」
「ならば門を開けたのは得策ではなかったわね」
「ふん、まぁ良いわ、あの人は私を罰しやしない、寵愛を失った誰かと違ってね!」
「張氏」
皇后の絶対零度の声に辺りが一瞬にして静まり返る。皇后は冷笑を浮かべたまま貴妃に近づき、そして不意に右手をあげたと思えばそのまま寒貴妃の頬を張った。
「きゃあっ!」
「寒貴妃・張氏、あなたは確かに寵愛を受け、私は寵愛を失ったかもしれません。しかし私は皇后として正室の位を持ち、あなたは貴妃、側室に過ぎません。私はあなたよりも高い地位を占めている。寒貴妃、あなたは私を侮辱した、次同じことがあれば今度は平手打ちぐらいでは済まないと思いなさい」
「、、、良く覚えておきますわ」
寒貴妃は一瞬呆然とした顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべ皇后に挨拶をしてその場を去った。
「多謝皇后娘娘恩典」
寒貴妃がいなくなったのを確認した後、江花は跪いて皇后に感謝し、彼女の妹はそれに倣った。
「礼を言う必要はないわ。江玲、あなたはもう行きなさい」
「是、儿臣告退」
次いで江花にも軽く腰を折り挨拶をして江玲は東廊宮を去った。
「江花」
「はい」
「気を付ける事ね」
皇后はいきなりそんな事を言ってきた。
「何に、でしょうか?」
「敵よ」
「敵?」
「あなただってわかっているでしょう?あの女、寒貴妃はあなたの母親である淑妃を冷宮に入れ、あなたをこの打ち捨てられて久しい東廊宮に叩き込んだ張本人。そして今、情けない事に後宮はほとんどあの女が牛耳っています」
「つまり、後宮の妃全体が敵であると?」
江花の疑問に皇后は硬い顔をして頷いた。
「もちろん温妃や純妃、颯嬪のような例外はいるわ。でもそれらはあくまで少数派だと思いなさい」
「皇后娘娘の忠告良く覚えておきます。ですが私はこの東廊宮に入れられ録な自由もない身、ここで静かに暮らしていれば目をつけられる事もないはずです、皇后娘娘のご心配には及びません」
「そうとも限らないわよ」
「は?」
皇后の答えに一瞬怪訝な顔をする江花、すぐに表情は取り繕ったが、心は疑問でいっぱいだった。
「あの女は火の無い所に煙を立たせる天才よ?何が起こるかわかったものでは無いわ」
「、、、」
「とりあえず、気をつけなさい。あなたのためにも、淑妃のためにも」
静かにそう言って皇后は門の向こうへと消えていった。江花は古びた赤い門を見つめてしばらくの間物思いに耽っていた。




