10話「事件」
「となるとひい祖父様の死は、、、」
「恐らくレストニア教の手が入ってるわね、そのために父上は彼らのいいなりにならざるをえない」
「どうにかならないんでしょうか?」
「あの人には無理よ」
江玲はそう答える姉の声に絶対零度の冷たさを感じた。当たり前と言えば当たり前である、自分から母を、自由を奪った男を父親として敬えるかと言われれば誰だって否と答えるであろう。
数秒の沈黙の後、江花は「もう帰りなさい」と言った。
「侍衛に見つかると厄介だし、あなたのお母様にもそろそろ怪しまれてしまうわ」
「うん、、、今度は民玉も連れてくるわ」
「えぇ、、、ほら急いで」
その言葉に従い、江玲は名残惜しげに門の前を去った。
「江花様、どうなさったのですか?」
1人だけ連れてくることを許された侍女・海夏が近づいてきてそう訊ねた。
「江玲が来てたの、頼んでいた本を持ってきて貰ったのよ」
「そうですか」
少し嬉しそうに言って彼女は中に入るように進めた。
「お茶が入っております、菓子は有りませんが、、、」
「十分よ、戻りましょうか」
彼女たちが建物へと戻ろうと門に背を向けた瞬間、閂が抜かれる音がした。
2人して門を見つめ、そしてしばらくして顔を合わせた。
「何があったんでしょうか、、、?」
「私に言われてもわからないわ、とても、、、」
そんな話をしている間に軋みながら古い門がゆっくりと開きだした。
「きゃあっ!」
悲鳴と共に1人の少女が投げ込まれる、江花はそれが誰かを認め、思わず叫んだ。
「江玲!?」
うずくまる江玲を横目に門を見る、そしてその視線の先に居る者を認めたとき、彼女の目に衝撃が走った。
(寒貴妃・張蘭々!?何故ここに!?)
しかし衝撃を受けたからといってただ突っ立ってる訳にもいかない、ここで礼を欠けば自分はともかく江玲まで罰を受ける羽目になるのだ。そう考えた江花は急いで跪き、挨拶をした。
「见过貴妃娘娘」
「こんな所にあなたがいるのは変だと思ったら、ここに東廊宮が有るのを忘れていたわ」
わざとらしい口調と隠しきれない笑みを浮かべて寒貴妃が近づいてきた。
(この女、わかってたわね)
つくづく趣味が悪いと思いながらも、妹を守るために彼女は口を開いた。
「启禀貴妃娘娘、江玲は私に会いに来た訳ではありません」
「誰が話して良いと言ったの?罪人の娘ごときが」
吐き捨てるようにそう言って貴妃は舐め回すように彼女を見た。
「ふん、その落ち着いた顔、気に入らないわっ!」
「きゃあっ!?」
「声もあの女そっくり、イライラするわっ!」
「っ!」
貴妃は江花を蹴り倒し、その上地に着いた手を踏みつけた。
「貴妃娘娘息怒!貴妃娘娘息怒!」
慌てて江玲が懇願する、それを見て貴妃はようやく足をどけた。
「大方この本を届けに来たんでしょう?東廊宮の少女は読書家だと聞くから」
言葉に詰まる、事実故に反論が出来なくなっているのだ。
「皇上が江花との接触を禁じているのは知らないわけでは無いでしょう?あなたたちはそれを犯した、罰を与えねばならないわ」
仰々しくそう言って彼女は侍衛を呼んだ。
「在」
「この娘たちをそれぞれ20回ずつ鞭打ち刑に処すわ、今すぐここでやりなさい」
「是」
彼が手をたたくと数人の男が中に入ってきた、その内の幾人かは鞭を手にしていた。
「貴妃娘娘」
「なぁに?」
「この罰、全て私が受けます、どうか妹はご容赦を」
「姐姐!?」
しばらく互いに無言で見つめ合う、やがて貴妃は笑って言った。
「18にしては度胸が有るじゃない、良いわ江玲の分も合わせて40回、彼女に鞭を与えなさい」
「多謝貴妃娘娘恩典」
侍衛が合図を出し、2人の男が彼女を拘束した。妹の心配そうな視線を頬に感じながら、もうそろそろ来るであろう痛みに覚悟を決めたとき凛とした声が当たりに響いた。
「待ちなさい!」
「誰!?今止めた無礼者は、、、!?」
そこまで言って彼女は声の主に気付き青い顔をした。
「あら、無礼者で悪かったわね貴妃娘娘?」
多くの侍女と侍衛を従え、冷笑を浮かべながら近づいてくる女の名は李小雪、この仁帝国の皇后である。




