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エリアーナの異端審問が行われるまであと、2日。
ホリーはそれまでに、エリアーナが魔女ではない言う証拠を見つけ出さなければならない。
今までの事例を見ると、異端審問が行われても火刑に処される等の有罪になるのは
稀だ、と言う事が通説である。
情状酌量の余地がある、つまり自らの行いを悔い改め聖教を心から信仰すると誓いを見せると、大抵は釈放される。
しかし、それはあくまでも疑いの場合だ。
明らかに《異端》である。
と、言う何等かの証拠を握られている場合に関して言うと、釈放される確率はほぼゼロである。
エリアーナは《血を食した》と、して捕らえられている。
血を食すことは絶対の禁忌である。
捕らえたのは、リンゼイその人。
見間違いだなんて押し通るはずがない。
だからこそ、ホリーは困っている。
どうしたら、エリアーナを救い出せるのか、その手段が全く思いつかない。
それに気になるのは、牢屋で異常に怯えたエリアーナの様子だった。
(まさか、こうなることを予知し、恐れていた?)
ホリーはその考えに対して、おかしいと思う反面、
そう考えると、エリアーナがここ最近、様子がおかしかったこと、
また、牢屋で『自分の運命を受け入れる』と言った発言に対しての筋道が通ると思った。
じゃあ、なぜ自分の運命を予知できたのか?
という疑問はさらに浮かんでくるのだけど。
さらに気になるのは、何に対して怯えているのか?
それがわかれば、全ての謎がひも解けるような気がするのに、
エリアーナの、あの様子から見て、絶対に自分からは話してくれないだろうと思った。
ホリーは昨日、エリアーナがエリックから新聞を受け取り、恐怖に取りつかれたような
表情を浮かべていたことを思い出した。
そこから、もしかして、あの新聞にエリアーナが怯える何か。
その手掛かりがあるのかもしれない。
なんとか、エリア―ナをあの、暗く薄暗い牢屋から助け出したいと強く思った。
もし、それがエリア―ナに望まれなかったとしても。
「何か糸口でもわかればいいのに……」
ホリーは家に帰ると、玄関に敷き紙として使われていた新聞を見た。
エリックから貰った新聞。
昨日、エリア―ナが恐怖の顔を見せた、新聞の記事だった。
《異端審問官 リンゼイ・H・マリガン
彼が魔女狩りを行い、これで火刑に処した人数は5人目になる》
彼が異端審問官を務め、どのような経緯で判例が書かれている。
もしかしたら、これが何か、解決の糸口になるかもと、
何度か読み返してみたけれど、エリアーナとの関連がありそうな事柄を
見つけ出すことが出来なかった。
リンゼイと何か、もしかして共通点があるのか……。
リンゼイが有能だと評判の理由は、
彼自身が魔女狩りを行い異端審問官として判決を行う、その一貫した手腕から言われている。
彼は、魔女狩りを行う時、明らかな《異端》の証拠を必ずつかみ、魔女としてとらえる。
『疑いで人を裁くべきではない』
これは、彼の持論である。
確固たる証拠をつかみ、魔女を捕らえる。
リンゼイの信念だった。
この一本通った針金のような彼の考え方が人から評価を得ているのだろう。
しかし、リンゼイは仕事としてそれを行っている。
まさか、私的な感情を交えていないだろう。
リンゼイとエリアーナが知り合いと言う話は聞いた事がない。
ローカ村にリンゼイが訪れたのも初めてだった。
昨日、彼に初めてあって、あまり人に対して情を抱かない人だとホリーは感じていた。
そう言う意味でも、エリアーナと何かの関係があるとは思えない。
他に何か……と考えた時、
王都、エリアーナの実家である、商家で何かがあったのではないだろうか。
と言う考えが思い浮かんだ。
今の段階では、その可能性が一番高いような気がした。
しかし、そう考えて、はっとした。
ホリーはエリアーナのご両親が何という屋号を持って
どんな商売を行っているかすら、今考えると、知らないのだ。
ローカ村でのエリアーナの事は何だって知っているのに、
そう思うと、この村を一歩出た、エリアーナについては、全く赤の他人と言っていいほど何も知らない。
知る必要がなかった。
この村で生活している限り、王都での情報は特に必要がなかった。
ホリーも聞かなかったし、エリア―ナもわざわざ話すことがなかった。
でも、そんな事すらも知らなかったのか。と、
そんな事実に今更打ちのめされてしまう。
ホリーは自身の頬を両手でぴしゃりと叩いた。
今、落ち込んでいる時間はない。
冷静に考えると、事実として、ホリーが今持っている情報だけでは、
圧倒的にエリアーナについて知らない事が多すぎる。
まず、エリアーナの事をどんな事でも知る事が必要だと思った。
思い返せば、物心ついたころからエリアーナはホリーとお隣のお姉さんだった。
だけど、どんな経緯でエリアーナがこのローカ村に来たのか。
思い返してみても、その話をエリアーナから聞いたことは無かった。
考え事をしながら、家の外に出ると、エリックが居た。
「大変な事になっているみたいだね、今そこで事情を聞いたよ」
エリックはそう言って、エリアーナが捕らえられている、古城へ向かって歩いている一人の騎士を指さした。
「エリアーナの事聞いたのね」
ホリーは肩を落とし、表情が硬くなる。
「君がそんなに気に病むことじゃない、きっと何かの間違いだ」
「ありがとう。でも、聞いたのなら知っているのでしょう? なぜエリアーナが地下牢に入らなければいけないのかと」
「ああ、血の」
「そう。それじゃあ、何かの間違いだ。と言ってもきっとまかり通らない理由だわ」
「……ごめん、別にそんなつもりで」
「わかっている。私こそひどい言い方をしてしまってごめんなさい。だからこそ、もうどうしたらいいのかわからなくなってしまって」
最後の方はホリーの叫びにも似た声で、涙が混じっていた。
「今日は、君の役に立てるかもしれないと思って情報を持ってきた」
「情報?」
ホリーは目をこすりながらエリックを見上げた。
「ああ、昨日のエリア―ナの様子と君との話が気になってね。ちょっと調べてみたんだ。これを見て欲しい」
エリックはリュックサックの中から新聞を取り出した。
日付はどれもばらばら。
しかし、一面にはどの新聞にも異端審問官 リンゼイ・H・マリガンが、
魔女狩りで火刑に処した人物のことが、記載されていた。
「この村にもリンゼイが来ていると聞いた。エリア―ナは昨日、この新聞の異端審問官 リンゼイ・H・マリガンの記事を見て、僕に何か他に知っていることはないか聞いてきたんだ。でも思い返すと、このリンゼイの記事が載っている時は僕にいつも、リンゼイについて尋ねて来た」
「リンゼイについて?」
「ああ、昨日、帰っている時にその事を思い出した。それから、残っていた新聞をかき集めて、君の所に持って行こうと思ったんだ。これは君にあげる。何かの役に立つといいけれど」
「ご親切にありがとう」
ホリーは礼を言ってエリックから新聞の束を受け取った。
「あと、この話は聞き流して、聞いたら君の胸の中だけに収めてほしい」
「ええ、一体なにかしら?」
「リンゼイについて、目覚ましい活躍の一方、後ろ暗い噂も聞く」
「どんな?」
ホリーの声が低くなる。
「彼は、意図的に魔女狩りをでっち上げているのではないかということだよ」
「でっちあげている?」
「そう。あの年齢で異端審問官に選ばれるのはかなり異例な事だからね。嘘か本当かはわからないけれど、協力者がいるのではないかって話」
「もしかして、エリア―ナは謀られて?」
「し! あまり大きな声を出さないように。あくまでも噂だ。だから、君の胸の中に収めるだけにして欲しい。間違っても本人にそんな事を聞いたりしないように」
エリックは小さな声で念を押すようにホリーにそう言った。




