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魔女狩り  作者: 沙波
5/10

エリアーナはローカ村の外れにある地下牢に、打ち捨てられた子犬の様に丸まっていた。


ローカ村にはもともと、いつの時代に建てられたのかもわからない程、

古く小さな城がぽつねんと村の外れに建っていた。

地下牢は、ボロボロになったその城の中に残されていたものだ。

もともと城が誰の所有物だったのか、何のために建てられたのかは誰も知るものはいない。

2階以降の居住スペースは朽ち果て、使いものにならないが、

1階の祭壇のある、少し広いスペースの部屋(若干天井から青空が見える)と

地下牢は、なんとか機能を果たしていた。

しかし、こんな物があっても使うことは無いだろう。

万が一盗賊の襲撃に遭った時などは使えるかもしれないと村の誰しもが笑っていた。

(こんな辺鄙な場所まで盗賊が来る事もないだろうと言う失笑も含まれていた)

まさか、こんな形で使うことになるとは、ローカ村の住民は誰一人思ってもみなかっただろう。

また、祭壇の部屋は、2日後に行われる、エリアーナの異端審問に使われる予定になっていた。


「エリアーナ」

ホリーは小さく呼びかけた。


会った時に着ていた、白のモスリンワンピースは薄汚れ見る影もない。

整えられていた髪の毛もぼさぼさになり、エリアーナは顔を膝に当て、足を抱き込むように座っている。


「エリアーナ」

泣いているのかもしれないと、そう思ってもう一度ホリーが呼びかけると、エリアーナはようやくこちらを見た。

ホリーはこちらを見たエリアーナが本当に今まで接してきたエリアーナなのかと思う程、

瞳はうつろ、口は半開き、人としての感情を全て失ってしまったかのような表情をしていた。


「……ホリー?」

かすれた声で名前を呼ぶエリアーナにホリーは胸が痛くなった。


「うん。ホリーよ。エリアーナ、元気を出して。これは何かの間違いだわ。貴女が魔女だなんてそんなはずないもの。早くここから出られるように私、村長や今、村にいる異端審問官の方に掛け合ってみるから。もう少し頑張って」

「……」


ホリーはありったけの勇気を出して、エリア―ナを助ける覚悟を決めてここに来た。

何度も、かける言葉を頭の中で反芻しながら、今、一音も間違えることなく言ったのに、

エリア―ナは何も表情を変えず、ホリーの事をぼうっと眺めているだけだった。


ホリーが思っていた、考えていたのとは何かが違う。

こんなエリア―ナを見たのは初めてだった。

いつも、強い瞳で凛とし佇まいをしたエリア―ナなのに。


「エリアーナ、大丈夫? 何かひどい事をされたの?」

牢にエリア―ナを入れたのは、リンゼイが引き連れて来た、二人の騎士だった。

もしかしたら、その騎士たちにひどい事をされたのかしら。

「……」

エリア―ナは首をゆっくりと左右に振った。

「何があったの? ねえ、私が力になるわ」

「……」

エリア―ナは再度、首をゆっくりと左右に振った。


「……何もないのよ。ホリーが心配することじゃないわ。これでも私は私の人生を受け入れようと思っているだけなの」

「エリアーナ、そんな」

「いいえ、これが私の末路だわ。仕方がないの。逃げようなんて思わない。あんな、あんな……」


エリア―ナはがくがくと身体を震わせ、視線を彷徨わせる。

まるで何かに怯えているようだった。


「エリア―ナ、怖くないわ。私が何とか、ここから出してあげられるように……」

ホリーはエリア―ナがこれから異端審問にかけられ、処刑になることが怖いのだと思った。

「いいえ、ホリーいいの。大丈夫だから」

「だって、貴女は魔女なんかじゃない。血を飲んだなんて何かの間違いに違いないわ」

エリア―ナが血を飲むなんてあり得ない。

彼女の実家は商家だ。

誰よりも厳格に聖教の教えを守っていた。

それはやりすぎると思われるほど。

「……いいえ、本当なのよ」

「だって、お肉だってほとんど食べなかったじゃない? もし血が混じっていたら良くないからって」

「……」

「知っているわ。食事には人一倍気をつけていたことを私は知っている。エリア―ナ本当に魔女なんかじゃないわ」

「……ホリー……ああ、ごめんなさい。いいの、もういいのよ。私だけじゃない」

エリア―ナはそう言って泣き崩れた。


(私だけじゃない? それはどう言った意味なのか)


「エリアーナ、頭が混乱しているのね。大丈夫。

異端審問には、陪審員が集められなければ開けない。この村に集まってくるにはあと二日かかると聞いているわ。だから、それまでに、私がなんとか……」

「ホリー、本当に私の事は気にしないで頂戴」

「いやよ、こんな、絶対に」

ホリーは涙混じりの声を叫んだ。

エリア―ナはホリーを見てはっとした表情を見せた。


「ホリー。貴女が私の事を友人だと信じてくれている。その気持ちだけで私は嬉しいの。

リンゼイは若いけれど、有能で頭も切れる異端審問官だわ。

もし私のせいでホリー、貴女が危ないことに巻き込まれてしまうのはどうしても嫌なの。

お願いだから、わかって」

「……じゃあ、教えてちょうだい。エリア―ナ、貴女は何に、そんなに怯えているの?」

「……」

ホリーの問いかけに、エリア―ナが答えることは無かった。

視線を泳がせ、そのままゆっくりともう一度、顔を膝の中に隠した。


ホリーは部屋を出る前に、もう一度だけ振り返ってエリア―ナを見た。


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