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《異端審問官 リンゼイ・H・マリガン》
新進気鋭の異端審問官。
聖教の修道院である、セックラリムに8歳で出家。
神童と謳われ、異例の速さで、異端審問官へ出世。
甘いマスクとは裏腹に、異端審問では常に冷徹な鉄槌を震わせている。
彼は他の異端審問官とは異なり、魔女の様に各地を彷徨い歩いている。
新聞記事より抜粋
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村長の家の食卓はまれに見る賑わいを見せた。
そもそも、異端審問官が国をふらりと周っているなんて、前代未聞。
少なくともホリーは聞いたことのない話だった。
理由について、それとなく尋ねると、自身の見聞を広めるためだと、リンゼイは真面目な顔で言った。
当人のリンゼイはよく食べよく笑う豪快な男である。
「村長オススメの魚のソテーは絶品ですな」
感心しながら、出された皿をつつく。
グラスのワインがなくなる頃を見計らい、ホリーはワインを注ぎ続けた。
「メインデッシュは、アホアホ鳥の丸焼きでございますよ」
村長はリンゼイの隣席でほくほくと、そう言った。
「アホアホ鳥ですか、ほう。それは非常に豪勢だ。まさか辺境地で……失礼」
「いえいえ、本当に辺境地ですから」
「いや、旅の途中でその様な逸品に出会えるとは。村長のお人柄、なのでしょう」
「いえいえ、隣に王都の商会と懇意にされているお嬢さんが住んでいらっしゃいましてね。隣人のよしみとでも言うのかね」
エリアーナは村長がアホアホ鳥が好物だと聞くと、王都に戻った時に、よく2、3羽連れ帰ってきた。
魔女がローカ村に来た時など、血抜きなどの処理を依頼し、好んで食べた。
特にエリアーナがハーブを沢山詰めて焼く丸焼きは絶品だった。
エリアーナは嫌な顔せず、いつも笑顔で作ってくれた。
今日も客人が見えると村長が話すと、ハーブにくるめて冷凍保存していた分があるので、キッチンで焼いてくれるとわざわざ来てくれたのだ。
「そうですか。アホアホ鳥を扱える商会の娘さんがこの地にいるなんて。初めて聞く話ですね。それならもっと噂が広まっても不思議ではないかと……それに、なぜお嬢さんを隠す様にわざわざこの様な辺境地へ?」
「さあ、詳しい話は」
「そうでしょうね。もしかしたら身体の容体が思わしくないとか……」
「エリアーナはとても元気だし、身体が悪い様になんて」
リンゼイの悪意ある言い方につい、ホリーの口が出てしまった。
「なるほど。それなら余計におかしい話だと思いませんか?」
リンゼイは今まで気にも留めていなかったホリーに顔を向けた。
ホリーはリンゼイをこの時、正面からまじまじと見た。
柔らかい金髪に若草色の瞳に人懐っこい笑顔は人を惹きつける。
しかし、ホリーは覗いてしまった。
その瞳の奥にある冷たい何かを。
「おかしいとは?」
ホリーはリンゼイから発せられる恐怖にも似た感情に狼狽えた。
だからその時、リンゼイがにたりと、笑った事にも気がつく事が出来なかった。
「身体が弱く静養されていると言う方が自然だという事です。お元気で利発な娘さんが、何故この様な辺境の地にいるのか。どんな理由があると思われますか?」
「……」
悔しい。
口惜しい。
ホリーはこのリンゼイからの質問に上手い答えを見つける事が出来なかった。
そんな風にエリアーナの事を言われるのが、とても不快に思われた。
その反面、リンゼイが言っている事に対してもその通りだと言わざるを得ない。
そう思ってしまうホリー自身にも腹が立った。
「まあ、娘も悪気はないので」
村長はリンゼイを宥める様に言った。
「村長、これは失礼。つい気を抜くと職業柄この様な話し方をしてしまうもので。異端審問官の性なのでしょう。お嬢さんも、変な男の気まぐれな言葉だと流して下さい」
リンゼイは悲しそうな表情を見せると慇懃にホリーに向かって礼をした。
「いえ、私はそんな」
「お嬢さん。そんな事を言わず私に謝らせて下さい。私自身、ずっと必死になって異端審問官、一人の僧侶として必死に生きてきました。お恥ずかしい話、私にはこれしかなかったのです。だから、自分でも自覚しているのですが、普通に誰かと温かい会話をする感覚がわからないのです」
「そんな」
「いえ、本当のことです。若くして修行僧の道に入り20歳で異端審問官に抜擢した私を神童などと言う人もいる事を知っています。私から言わせると、帰る家もなく10年以上ずっと修行僧として生活していますと、自然と誰でもなれるものだと思います」
「そんなご謙遜を。私たちはリンゼイ様が努力をされ、今の異端審問官におなりになられたと言うことを知っております。異端審問官は大体50歳を超えた熟練の僧侶しか選ばれることのなかったモノを、風穴を開ける様に貴方様は」
「いえ、今迄のその風習がおかしかったのです。私は在るべき姿に戻しただけです」
「それでもそうなるまでの努力は誰でもない。リンゼイ様のお力です」
「ありがとうございます」
村長の言葉にリンゼイは一礼した。
「最近は特に活躍されていると新聞記事を拝見しました……そろそろ、アホアホ鳥が運ばれて来るころだと思うのだが」
「私、様子を見て来る」
ホリーは一礼して部屋を出ると、キッチンへ向かった。
キッチンにエリアーナの姿はなく、ハーブに包まれた、アホアホ鳥だけがあった。
この日、アホアホ鳥がテーブルに運ばれて来ることは無かった。
エリアーナが、アホアホ鳥の血を啜ったと、魔女狩りにあった。




