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ホリーは家の中に入り、玄関の扉をパタリと閉める。
自然と息が漏れた。
(エリアーナが魔女だなんて、そんなのあり得ない)
ホリーはそう確信していた。
なぜならホリーは魔女であり、
魔女には他人が魔女かどうか(自身と同胞かどうか)を
見極める能力が自然と備わっていた。
今で言う異端審問は、聖教とは別の何かを信仰しているもの。
聖教の聖典に異を唱える者をあぶり出し、異端審問にかける。と言うものであるが、
大昔は、本当の意味での魔女を捕らえ、異端審問にかけていた時代があるという。
今の時代に生きる魔女は、その力を国のために使用すると義務づけられている。
そのため、異端審問にかけられる人の中で、
魔術を使う様な本当の意味での魔女が異端審問にかけられる事は、ほとんどない。
魔女と言うのは、名の通り《魔》を持つもの。
即ち、人間技ではない人知を超えた力を持つ者のことである。
ホリーは実の両親の顔を知らない。
恐らく、父か母のいずれか。
もしくは両親二人とも魔女であったのではないかと考えている。
魔女としての力には物心ついた時から気が付いていた。
自分の体を駆け巡る不思議な何か。
それが魔女の持つ力だと言うことだと、自然と気が付いた。
しかし、ホリーの周りには《魔》を使えるものが居ないため、それの使い方はわからない。
ただ、魔女かどうか見極める力だけは何もしなくとも自然と身に付いた。
たまに、ローカ村を訪れる人の中で、この人は魔女だな。
と、気が付くことがある。
そう言った人は、決まって体から色のついたオーラが漏れ出している様に見える。
エリアーナには何の色もオーラも見えない。
だから、魔女ではない。
でもそれを言う事は出来ない。
その発言は、ホリーが、自身を魔女だと主張しているのも同然だ。
出来れば、誰にも知られる事なく、ひっそりとこのままローカ村で生涯を終えたいと考えている。
なぜか?
――魔女として生きるには制約が多く、ホリーには決して務まらないと考えているからだ。
それに、大体数の人から偏見の目を向けられる。
ホリーはそれを受け入れるだけの、精神力が自身には無いと思っている。
エリックが言っていた通り、エリアーナの家は大きな商家だと聞いた。
王都には彼女の父親が経営をする店があるのだと。
商いをするには、他国から商品を仕入れる必要がある。
仕入れるためには船に乗って海に飛び出さなければならないのだ。
つまり航海することが仕事の一環である。
商家が聖教を信仰していないなんて聞いたことがない。
それに、ルロリア国の商人は聖教を信仰していることが暗黙の了解だ。
もし、そうじゃない場合は下手をすると爪弾きに遭う。
(エリアーナがそんな心配する必要はないのに)
ホリーはそう思いつつ、エリックからもらった新聞紙面を見た。
文字はもちろん読める。
ただ、こうも文字が沢山連なった紙を見るのは
頭が痛くなるような気がして、得意じゃなかった。
とりあえず、必要な所だけ読もうと、先ほどエリックが指をさした記事を読む。
《また、火刑 デガラム村 農夫
デガラム村で、小麦等を生産している、農夫のアッシャルクル(48歳)は異端審問にかけられ有罪が確定。魔女と認定された。その日のうちに火刑に処された。その前には、アッシャーで一人火刑に処されている。ここまで火刑が続くのは異例……》
と、紙面にある。
アッシャルクルなんて人物は聞いた事がない。
まさかエリアーナと知り合いでもなかろうと思われた。
《罪状:血の摂取》
ホリーは小さく書かれた、それを読んで驚愕した。
聖教では『血』は神聖なモノとされ、飲む事、食す事は禁忌とされている。
小さい事から口酸っぱく言われるため、ホリーも考えるより体が身に付き、
生まれてから一度も血を触ったことがない。
じゃあ、肉は今まで一度も食べたことが無いのかと言われてるとそうではない。
血の扱いは『魔女』と言う人達の専門分野だ。
ここで言う魔女は、ホリーが見ると人物の周囲に色のついたオーラを纏った人たちのことだ。
彼らは本当に不思議な力を持っており、魔法陣を使い、魔法を使う。
魔法を使用することで、血には全く触れずに処理を行うのだ。
生き物の肉を販売する時には、捌いた魔女の名前を商品に必ず記載するのが決まりである。
そのため、商会と契約を結んでいる魔女も少なくないと聞く。
ただ魔女は先にも述べたが風変りなものが多く、雇われているものの、
ふらふらと色々な土地を彷徨い歩き、一所に留まることを知らない。
と、言う様な者たちも少なくない。
しかし、彼らとて血を飲むことなどはない。
血を摂取するもの――悪魔との契約を意味する。からである。
「ホリー?」
ゆっくりと玄関の扉が開き、村長が顔を覗かせた。
「おじじ。お帰りなさい。本、貰って来たわ」
ホリーが本を持つ手を掲げると村長は満足そうに頷いた。
「新聞も取ったのかい?」
「え、ええ……エリックが余っているからって。くれたの」
「欲しいなら遠慮せず買いなさい。こんな田舎は若い人には退屈になるだろう。せめて、情報だけはなるべく新しいものを取り入れる必要があると、常々思ってはいるんだけどねぇ」
「ふふふ、それより、畑に行くって言って、まだかかるものだと……手伝いが必要なら私も行くわ?」
「いや、今日は珍しい、客人が来ることになった。そのもてなしの用意をしなければならなくなってな」
「客人? 魔女さんかしら?」
村長には懇意にしている魔女が数名いる。
王都に住んでいる時に、縁があったと言うことで、時々このローカ村に来ては、色々と、力を貸してくれる。
「いや、魔女ではない。しかし、有名人だよ。その新聞紙面にも名前が出ている」
「新聞に? どこかしら」
「ほら、その異端審問の」
村長はデガラム村の件を指さした。
《異端審問官 リンゼイ・H・マリガン》




