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魔女狩り  作者: 沙波
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「エリック、知っていたら教えて欲しいのだけど」

「なんだい?」

エリックはリュックサックを背負い直し、ホリーに向き合った。

「エリア―ナの家が王都で商会を営んでいることは知っている?」

「ああ、もちろん」

「何という名前かは、知ってる?」

「名前? アーシラ商会だよ。大手の商会で、海外から商品を輸入し様々なものを売っている。

食品、衣類、建築の材料として、珍しい木材タイルなど。商品は多様」

「最近、経営が思わしくないとかそんな事はない?」

「全くだね。近年はむしろ、どんどん経営を拡大している。今、波に乗っていると言っても過言ではないだろうと思う」

「そう」

ホリーの声のトーンが落ちる。

「どうした? エリア―ナの実家が経営難の方が良かったか?」

エリックは不適な笑みを見せた。

「そうじゃない。ただ、何となく聞きたかっただけ。ただ、彼女の事を何も知らない自分に腹が立ったの。もっと親身に話を聞くべきだったって」

いつも助けてくれるエリアーナに対して、もっと親身になって何かをするべきだったのではないだろうか。

後悔した所でエリアーナが帰ってくる訳ではないのだけど、

「そうしないことが、その人にとって親切になる事も考えられないか?」

エリックの言葉にエリアーナは顔を上げた。

「……それはどう言う?」

「人には聞かれたくない過去の一つや二つあるだろう。その傷には誰だって触れられたくないものだ。墓まで持って行きたい嘘をついている人物だっているだろうし。君だってそうじゃないか?」

「……」

ホリーは何も答えられなかった。

自分が魔女であることは誰にもまだ話をしていない。

もしかしたら、村長を含めた周囲のローカ村の人々は気が付いているのかもしれない。

だけど、その事を誰かに聞かれたことはない。

確かに、それはホリーにとってありがたいことだった。


なぜ、魔女であることを名乗り出ないのか。

それは、魔女であるということは異端の力を持つ者であるため、

全ての行動を国家に監視される。

自らの力を国のために使う事を誓約させられた上で。

それに反する魔女は皆、火刑に処される。

ホリーは自身の力の使い方も良くわかない。

悪用を考えたことも全くない。

彼女の望みは、ほそぼそとローカ村で暮らしていく。

ただ、それだけだ。

「そんな悲しそうな顔をしないで。別に君を責めている訳じゃない。俺だってもちろん。人に言えない事はたくさんある」

「エリックも?」

ホリーは、まあるい目をエリックに向けた。

「当たり前だ。誰だってあるだろう。職業柄、人との秘密を持つことだってあるし。

特に、このローカ村に住んでいる人物は、誰もがそうじゃないのか?」

「え?」

「だって、考えてもみろ。誰が好き好んで、この村にわざわざ越してくる? ホリーの後見人の村長だって、もともとは王都の中心で仕事をしていた経歴がある程の人格者だ。隠居と言っても、なぜここをあえて選ぶ必要があったのかと考えたことはないのか? エリアーナも、だ。エリアーナと村長が王都時代に知り合いだと考えたことはないのか?」

「……」

ホリーは再度言葉を失った。

むしろ、思考が停止してしまったという表現の方が正しい。

彼女はそんな事を微塵も考えたことがなかった。

ホリーの心は深く沈んだままだった。


「いや。例え話だ、つまり、その言いたいのは、ホリーが見えている世界が全てでは無いということだ。見方を変えるとどんな見方でも出来る。ホリーが見る限り、エリアーナが異端審問にかけられる理由がない。しかし、見方を変えるとどうだ? もしかしたらホリーが考えもつかなかったような何かが見えて来る可能性があるだろう?」

「そうね。ごめんなさい。色々あって考えがそこまで追い付かなかった。ありがとう。それからこの新聞も」

エリックなりの励ましだったのだ。

そう思うと、ホリーの心はすっと軽くなった。

「別にそう大した事じゃない。エリア―ナによろしく伝えてくれ」

エリックは手を振ると、馬車に向かい、乗り込むとローカ村を去って行った。


忙しい中、わざわざ来てくれたのだろうと思うと、エリックの優しさが身に染みる。

ホリーは今、自分に出来ることをやろうと、新聞の束をかかえ、家に戻った。

記事に、じっくりと目を通す。


1人目 ジャスター・アングレット 男 38歳 航海士 


2人目 ジュリア・サザンクロス 女 28歳 教師


3人目 ブライアン・ラス 男 65歳 修行僧


4人目 アーバン・アッシャルクル 男 48歳 デガラム村 農夫


ここ一年の間、上記4名は、リンゼイが異端審問官を務め、火刑に処された人物である。

4名の在住の場所はルロリア王国の西から東、北から南まで一貫していない。

それだけ、リンゼイが各地を放浪していると言えばそれまでであるが。


聖教の僧が居ることが意外だった。

まさか、身内から魔女が出るなんて、問題にならなかったのだろうか。

そう思い、3人目のブライアン・ラスの記事の細々とした部分まで目を通す。

記事は淡々と事実を記載しているのみだった。



エリアーナはこの記事を見て、思い悩むことがあったようだ。

見る限り、2人目のジュリア・サザンクロスは女性でエリアーナともまあ、年齢が近い。

接点がありそうに思うが、エリアーナの口から彼女の名前を聞いた事は一度もなかった。


ホリー個人的にも、この4名の名前は全く心当たりのない、知らない人物だ。


もしかして、アーシラ商会に関わる人物かと思ったけれど、

記事にはアーシラ商会の『ア』の字も出てこない。

もし、関りがあるとしたなら、エリックが有名な商会だと言っていたので、

記事に書かれているだろうと思った。

しかし、どんなに探してもアーシラ商会の文字は見当たらない。


もしも、エリアーナを含めた5人に共通点があるとしたなら、皆、

揃いもそろって、《血の摂取》が罪状であるということだ。


そこから共通点を見出すとしたなら、血の摂取を必要とする秘密結社、および異教徒であった。

と、言うことだろうか。

他国では、乙女の血を欲しがる、貴族夫人がいるとかなんとか。

そんなホラーに近い話も聞いたことがあるけれど。


でも、エリアーナは『鳥の血』を摂取したとされたのだ。

鳥の血と、秘密結社は関係あるのだろうか……。


もしくは、リンゼイの功名な罠に嵌められたのだろうか。

理由は……、自身の出世のため?



(だめだ、私一人の力ではエリアーナを助けることは出来ないかもしれない)

エリアーナは思わず弱気になり、ため息をついた。

でも、エリアーナの実家は有名な商会だと言う。

ホリーが無理でも、アーシラ商会がなんとかしてくれるのではないか。

ホリーは淡い期待を抱いた。



パタリと玄関の扉が開き、村長が畑から帰ってきた。

ホリーはがたりと音を立て、慌てて椅子から立ち上がった。


「お帰りなさい。ごめんなさい。まだお茶の用意は出来ていなくって……今、用意するわ」

「いやいや、さっき、リンゼイさんに呼ばれて、お茶を飲んで来たから構わないよ。

それより、……ホリー、大丈夫かい?」

村長はいたわるように声をかけ、ホリーの隣の椅子に座った。

「大丈夫よ……って、隠しても無駄ね。エリアーナの事がショックで。なんとかしてあげたいって思っているの。だけど、私一人では、どうしたらいいのかわからなくって」

村長は、ホリーの肩をさする。

ホリーは思わず、目頭が熱くなった。


「エリアーナは、なぜこの村へ来たの?」

先ほどより少し落ち着いたホリーは、村長を見てそう尋ねた。

村長は、ホリーの肩に当てていた手を、ゆっくりと自身の膝に下ろした。

「いつかは、話をするべきなのだろうと思っていた。もしくはエリアーナ自身から話をするだろうと。

彼女は、家族から見捨てられた存在だ」

「見捨てられた存在?」

村長は頷き話を続けた。

「アーシラ商会だって、いつも好調だった訳ではない。辛酸をなめた時期だってあった。

ホリーがまだこの村にいない頃。アーシラ商会はちょうどそんな時期を迎えていた」

ホリーはこくりと頷き、村長の話を促した。

「他国で仕入れた商品が偽造品でね。かなりの負債を被った。

商会の信用もガタ落ちだった。

その危機を救ったのがエリアーナだった」

「エリアーナが? どうやって」

「そこまでは、わからない。しかし、彼女が負債を全て背負って家を出た。

半ば勘当も同然で。

それから、アーシラ商会は建て直し、エリアーナは世間から身を隠すようにこの村に住むようになった。

勘当とは言っても、全く縁が切れた訳ではないのだろう。

たまに、彼女は王都へ行き、私達のためにアホアホ鳥を持ってきてくれた。

この村に来た時、最初は厄介だと、私も少しだけ思ったよ。

だけど、しっかりした大したお嬢さんだった。

それが、こんな形になってしまうとはね……」

「じゃあ、アーシラ商会がエリアーナを助けることは?」

「恐らく……難しいだろう」

「そんな……」

「ホリー、君がそんなに思いつめることじゃない」

最後の望みが消えた。

ホリーは、もう本当にどうしていいのかわからなくなった。

自分の娘が、死ぬかもしれないというのに、

両親は何もしない、もしくは何も出来ないのはどうしてなのか。


「一体、なぜそうなったのかしら……」

「ん?」

「エリアーナが今、大変なのに、ご両親の方はどうして……」

「エリアーナの両親だって、彼女の事をとても本当は大切に思っているだろう。

何も出来ないことを悔やんでいると思う」

「だったら、手を差し伸べてあげたらいいのに」

ホリーは思わず声を荒げた。

村長の顔を見て、ごめんなさい。と、小さく言った。

「いや、いいんだ。詳しいことは、私にも本当に分からない。

ここからの話は、まあ、推察でしかない。

エリアーナがアーシラ商会の娘だと世間に知られることがあまり好ましくないのだろう。

多分、これはエリアーナもわかっている。だからあえて、両親に頼ったりはしない。

その、さっきの話に戻るが、アーシラ商会を再建するために、

エリアーナは商会の、家のために行ったのだろうと思われることが、

醜聞の種になるような事なのかもしれない」


エリアーナが自身の運命を受け入れると言っていたのはこの意味なのだろうか。

と、ホリーはふと、思った。


「王都で、エリアーナとは知り合いだった?」

さっきのエリックの言葉を何となく思い出した。

ホリーは笑ってかわされるのだろうと思っていたのに、村長は思いのほか、神妙な顔をしていた。

「それを誰かに聞いたのかい?」

「いえ、ただ、エリアーナがこの村に来たのは、知り合いがいたからとかなのかなって考えた時に、もしかしたら村長と以前から顔見知りだったのかと思って」

ホリーは視線を彷徨わせながら、しどろもどろにそう言った。

村長はホリーの言葉に納得したのか、していないのかはわからなかった。

それ以上は何も言わず、難しい表情で何かを考え込んでいるようだった。


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