多重人格
前書きに何書けばいいか思い浮かばないぞ……
自己回復魔法を覚えてから1週間。ひたすら魔法の訓練、訓練、訓練。正直疲れる。発動しても本来とは違う効果しか起こさない魔法を何度も繰り返してなんになるのだろうか?
「……繰り返す事に意味が無いと思っていますか?」
「……はい」
どうやら顔に出ていた様だ。しかしいい機会だ。どういう意味があるのか聞くことが出来るのだから。
「魔法を繰り返し訓練する事で、ある程度適性を上げることが出来ます。貴女は取り敢えず一般ラインまで適性を上げてもらわないとこれからの訓練が話になりませんので」
「……」
確かに今、まともに使えるのは身体強化と自己回復だけ。攻撃手段が近距離しかない。しかし相手は容赦なく遠距離から魔法をバカスカ撃ってくるし、近付いてもこんどは近距離をバカスカ撃ってくるらしい。圧倒的に不利。
「……しかし、あなたの適性はまったく上昇する兆しが無いほど絶望的で……私も手を焼いてるわけです」
「……」
黙り込むことしか出来ない。反論も無いし、怒りもない。ただただ黙り込む。
「……訓練内容を切り替えましょう。多分このまま続けても意味は無いでしょうし、それなら実戦形式の近接戦闘の訓練を始めた方が良いでしょう」
「はい……あまり動ける方では無いですが、頑張ります!」
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「どうぞ、どこからでも良いですよ」
相手は近接戦闘を教えられるだけの実力の持ち主、なら無闇に突っ込んでも意味は無いだろう。でも、どうする……?
「……来ないんですか?」
「…」
この戦闘訓練を始める前、彼女は実戦形式と言った。なら、多分魔法もアリ……!
「……『強化』…」
短文の詠唱魔法で身体能力を強化する。これくらい短いと強化は大きくないが、魔力を多く込めれば効果は良くなる!
「……あの二人は、魔法を使わなかったのですが、貴女は気付きましたか。じゃあ、私も使いますか」
「うぇえっ!?そ、それは流石に無理です!!」
緊張の糸が切れ、焦ったその時、消えた。
「隙だらけですよ?」
後ろから人間とは思えないほどの力で蹴り飛ばされ、一撃でダウンしてしまった。
「ぅ……ずるい…です……」
「実戦形式です。こういういやらしい事もアリですよ」
相変わらず、この人は最低だと思った。
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「ゲホッ……ぅ…咳に血が混じってる…」
紙に赤いチョークのような物で魔法陣を描く。私だけが使える、自己回復魔法の魔法陣だ。さっきのサンドバッグの訓練後、ナンバー1が
『自己回復魔法がある人だから、無理しても平気なのは気楽ですね』
と、鬼畜な事を言われてしまった。間違いじゃないし、訓練時間が増えるのは生き残る為に嬉しい事だ。だが優しくして欲しい。
「はぁ……ナンバー1はサディストなのかな…」
「そうそう。ナンバー1は結構なサディストだよぉ」
「……ジンさん…」
「こんにちは、リリィちゃん」
「こんにちは…」
挨拶を返すと、ジンの後ろにいるスキャリィが少し不機嫌そうな顔になった。
「結構やられたね〜。僕達も最初はあんな風にやられてたよ」
「……見てたんですか」
「まぁね。ここでは貴重な新人、期待してるんだよ」
「ありがとうございます…」
あまりこういう人は得意じゃない。なんというか、軽そうというか……
「あ、2人だけでちょっと話があるんだけど……良いかな?」
「え?良いですけど…」
「えっ?私は!?」
「留守番よろしく〜」
スキャリィは1度も話したことが無い為、判断できないが、不良感が凄い…
「うぅぅぅ……」
訂正、不良と言うより番犬と言った方が合ってる気がする。
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「簡単に言うと、スキャリィの誕生日が来週にあるんだ」
「…は、はあ」
「だからね、2人で祝いたいなと思ってさ」
「…私と……ジンさん?」
彼は頷きながら話を続ける。
「僕は、君と仲良くなりたい。そしてスキャリィにも君と仲良くなってもらいたい。だから2人で祝わない?って相談」
そんなの答えは決まっている。私は少し微笑み、
「是非やらせてください。私も仲良くなりたいので」
「ありがとう。でも、スキャリィ結構めんどくさい性格だから気を付けてね?相談終わり。じゃあ僕は戻るね」
面倒くさい性格の人だが、見るからに悪い人という感じはしなかった。だから早く仲良くなりたいな…
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「私以外との戦闘訓練は初めてでしょうが、まぁ頑張って下さい」
「はい」
アレを戦闘訓練と呼べるこの人は間違いなくヤバい人だ。
「よろしくお願いします」
「……チッ…めんどくせぇ…」
相手はスキャリィ。手加減はしない。というか格上相手に手加減とか舐めプ。全力以上で戦わなければ…
「始め」
始まりの合図で走り出し、強化魔法で速度を上げ、目を離さないように接近する。
「小手調べだっ!」
彼女はこちらの肩に拳を振るが、見える。これなら簡単に避けられる。
「そこです!」
「あめぇよ!」
鳩尾に強化魔法を施した拳を打ち込むが、彼女は残像を残すほど素早く拳を蹴り、続く2発目の蹴りは頭を狙っていた。
「っ…!」
2発目の蹴りを身体全体を回し紙一重で避け、遠心力を乗せた蹴りを入れるが、回避される。反撃を喰らう。回避する。一進一退の攻防の様に見えるが、焦っている。何故か?
「はぁ…はぁ……!」
「どうしたぁ!もう終わりか!」
彼女は魔法無しで強化魔法付きの私の攻撃を捌いている。つまりそのままのスペックで強化魔法を使った私と渡り合って、いや、それ以上の強さを持っている。
(無闇に攻撃しても駄目、体力の回復を優先しなきゃ…!)
ナンバー1より遅い攻撃なら、避けることが出来る。しかし避け続ける事は辛く、何発か腕で防御する。
「逃げてんじゃねぇ!」
「……ッ…!」
速度を増す攻撃、このままではジリ貧だ。なにかしなくては負けてしまう……!
「『火よ起これ!我が敵を焼き焦がせ!』」
初級詠唱魔法『ファイア』を唱える。しかし、適正が低すぎる私が使えば、魔力は暴走し、爆発する。そしてこの爆発は初級魔法よりも威力が出る。だから敢えて爆発させた。それに彼女は私が魔法を暴発させてしまうことを知らない!
「うぉっ!?」
(今!)
爆煙で姿が見えない内に、更に強い強化魔法の詠唱を開始する。
「一か八か…『力の渦よ、私に従い、我が敵を打ち倒す矛となれ!』」
失敗は許されない。一瞬で極限の集中力を掻き集めろ。
「『フィジカルハイブースト!!』」
(爆発するな爆発するな爆発するな…ッ!)
身体が軽くなった感じがした。これなら…
「『フィジカルハイブースト』」
「…えっ?」
「阿呆、私が魔法を縛ってるとでも思ったのか?」
引き絞られた拳が目に映り、それが放たれた瞬間悟った。
(これ…死ぬ…)
「スキャリィ!やりすぎ止めろ!」
フィジカルハイブーストは力を上げる。防御力は上がらない。鳩尾に綺麗にめり込んだ拳の衝撃は、心臓を止めるのに充分だった。
「ぁ…ッ……かハッ…」
「……!…す、すまん!今助ける!」
「はぁッ……はぁ…………はっ…」
徐々に視界が暗くなっていく。嘘、こんな変な終わり方…?
「たす……て………さん…」
『苦しいよね…今は、休んでて』
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「お、おい……これくらい平気だろ…な、なぁ…」
「心臓が止まっていますが、まだ他の臓器は大丈夫なので、これでもう一度心臓が動き出せば強い打撲による痣だけしか残りません。まぁ回復魔法で痣は消えると思いますが、貴女への恐怖心は消えないと思われます」
つい、やってしまった。ちょっとジンと2人で話に行ったコイツに少しイラッとして、寸前で止めるつもりが本気で……
「あ、動き出しました。これなら平気ですね」
「良かった……スキャリィ、絶対謝らなきゃ駄目からね?下手したら取り返しのつかないことになっていたんだからさ…」
「わかってる…」
ぱちりと目を開き、海のように青い瞳をキョロキョロと動かしたあと、彼女は立ち上がった。
「大丈夫なのですか?一時的に全身への酸素の供給が止まっていたのですよ?」
「……うん。平気みたい」
「そうですか…なら良いです。スキャリィは後でお仕置きです」
軽く言うが、かなり怒っている。当然だろう。
「り、リリィ…その……ごめん…なさい……殺しかけた」
「あー、うん。平気だよ。死んでないからね」
……なにか様子がおかしい。
「……お前…リリィ…か?」
「あれ?もう気づいちゃった?」
その一言で警戒心がグンっと上がり、距離を取り構える。
「おいおい、また僕の心臓を止める気?勘弁願いたいね」
「テメェ誰だ…!」
「誰って?リリィだよ。あっちのリリィは忘れてると思うけど、リリィは多重人格なんだよ」
「……へっ?」
「多重…人格……?」
つまり、目の前のリリィはリリィだがリリィじゃないという事なのか……?
「主人格のリリィが精神的か、肉体的にダウンした時、代わりに僕が浮上する。そんな感じ。今回は肉体的にダウンしたから……だいたい2日くらいで元に戻るか」
「ちょ、ちょっと待てよ……お前が別人格というのはわかったけど、お前は私達の……敵…なのか?」
かなり緊張して聞いている。ここでもし敵だと言われたら恐らく、倒さなければならなくなってしまう。
「いや、味方で良いよ。僕はリリィの道を変えるのは極力したくないからね」
彼女は、似合わない不敵な笑みを浮かべ、パチリとウインクを一つした。
そう言えばTSっ娘って良いよね。いえ特に関係ありませんが。




