こくはく?
僕はどのぐらい意識を失っていたのだろうか?
気づくとベッドに横たわっていた。
「あら、起きたのね」
聞き覚えがある声は、やはりつばささんの声で、しかも手を握ってくれていた。
「あら、お目覚めかしら?」
次に現れたのは、言わずと知れた保健の先生の山咲 ほのか先生だった。
「あなた達は本当に仲がいいわね。なんだか、羨ましいわ。じゃあ、もう少し休んでいきなさい」
「はーい。ありがとうザッキー!」
「この〜っ!調子に乗って……。私の名前はやまざきですからね。元気なら、教室に戻りなさい」
この一言には慌てた。
至福の時を自分の愚行で終らせるのはバカもいいところだ。
「あっ、先生ごめんなさい。
そうですよね。みんなこんな感じで呼んでいるけど、先生はとても可愛いらしいのに、変ですよね。
本当にすみませんでした」
「まあ、ひかりさんは一番大切なことがよく分かっているみたいね。
まだ心配だから今日はここに好きなだけ居ていいわ。じゃあ、先生は会議があるから、あとはつばささん、お願いしますね」
「はい。お任せあれ!」
「……本当に仲がいいのね。なんだか怪しいけど?」
「そうですか? なら、それはそれで嬉しいです!」
つばささん、その意味はなんだよ?
「あっ、そう。……ふぅ、じゃ行くわ」
これ以上は甘ったるい話は聞かぬとばかりに、ほのか先生はおでこに手を当てながらスタスタと保健室の扉を開けて、静かに出て行った。
「ひかる君ってば、だんだんひかりに似てきたよ。
なんだか、ほのか先生が可哀想に思えたのは私だけかな?」
「いや、可哀想じゃ無いでしょう。
可哀想なのは、ひかりに似てきたよというつばささんの言葉だと思うんだけど?」
「ふーん。それって、ひかりが嫌いな訳なの?
ひかりはひかる君のことが大好きだけれど……」
「いや、いや、僕らはまんま姉弟だし、人から見たら同じ生き物が二人いるとしか認識されてませんけどね〜」
「あっそう。でも、ひかる君ってば結構女子に人気があることは自覚してないの?
入学当初は告白されない日は無かったとひかりに聞いているけど?」
「あ〜っ、また僕の黒歴史を知っていますね。
そもそも、それって半分はひかりと友達になるための手段だよ。
自分がもてる要素があるならば、姉と同じ顔を持つぐらいだし、ひかりを知らない人から見たら、ただ単に女っぽいだけだよ。そんな男なんて、あまり好きじゃないという人もかなりいるって聞いてますよ。
……どこまでが本当かは知らないけれどね」
「じゃあさ、ひかる君には好きな人はいないの?」
「……うーん。一応、人並みにいるけどね」
「そ、そ、それって、『し』が付く人?」
しっかりと僕の手を握りながら、目の前に覆い被さるつばささんの目は座っているよ。
ちょっと、距離が近すぎるんだけれど?
「ねえ、どうなのよ? ひかり?」
「あっ、ひかりじゃないよ。僕は……、そうそう、ひかりちゃんでしたよね。つばさ、ひっ付き過ぎだから少し離れなさい。
みなさんに誤解されたら困るでしょう。私達は健全な親友であるのに、それ以上の関係と噂されないように」
いつの間にか保健室の入口には新聞部とマスコミ部と報道部が張り付いていた。
ひかりとつばささんの記事は半端無く売れるからな。
下手なことは言えない。
「いーや、噂する奴は言わせておきなさい。
だって、私が好きな人は、私の目の前にいるんだし、それはずっと変わってないんだからね!」
ザワザワという声がすると同時にパシャ、パシャって、雨あられのようにフラッシュが降り注ぐと報道部をはじめ、みなさん一斉にゴキブリのようにカサカサと退散した。おそらく、最初に記事にしたところがスクープとして扱う特権が与えられるからだろう。
しかし、今回に限って、その特権は無いと見た。
記事もお蔵入りする運命になると予想できる。
なぜなら、特権を与えることと、記事の配布を許可するのは生徒会長が決めること。
ひかりがこの記事を許すはずはない。
「やっと、邪魔者がいなくなったね。
眠くなったから、ちょっとお邪魔してもいい?」
つばさは言葉より早く僕が横たわるベッドの中に入り込んで来た。
「いや、ダメだよ。僕が出るから、ちょっと待って」
「えーっ、私はダメでひかりならいいの?
ひかりからひかる君のベッドで一緒に寝てると聞いているけど、私だけダメなのかな?」
「あのね。ひかりは、実姉で、つばささんは実姉の親友、ついでに僕には幼馴染の同級生だ。
つまり、幼馴染とはいえ、恋人でもないのに高校生の男女がすることでは無い」
「じゃあ、恋人になっちゃう? 我ながら、良い案だ!」
即座に切り返すつばさに、少しイラっときてしまう。
片想いの相手から、簡単にこんなことを言われたら振られたことと同じ意味にしか思えない。
なら、少し意地悪したくもなるって訳ね。
「じゃあ、恋人になっちゃいましょう」
そう、僕は気軽に冗談を言ったつもりだった。
こんなの告白とは言えないと勝手に判断していたからだ。
「あっ、ありがとう。じゃあ、同じベッドでも大丈夫だよね。それに今からは私のことは『さん』はなしだから……。ああああっ、ひかりにどう報告しようかなぁ。喜んでくれるかな?それとも反対されるかな?
ねえ、ひかる君、どう思う?」
えーっ、マジでしたか?
いやいやいやいや、あり得んわー!
とりあえず、冷静になって考えよう。
マジでは無い時のショックは計り知れないし、余りにも唐突過ぎる。
「あ、いやいや、つばささん? あの〜」
「それ違うっ! つばさだよ。つばさ!」
いつにも増して鼻息が荒い。
冗談じゃなかったのか?
いや、いやいやいやいや、背後でひかりが謀をしている可能性も充分にある。
例えば、母者との賭かも知れない。
勝った方から、つばささんが少しだけおこぼれをもらうことは、いままで幾度となく聞いてきた。
今回のノリもそれが原因だと思う。
はい、決定だ!結論だ!
ならば、賭のオモチャとして扱われている僕のおこぼれをもらうことにしよう。
「ひかる。何を考えているの?私にも教えて欲しいよ。私達は付き合っているんでしょう。恋人なら隠し事はしないの。いい?」
「じゃあ、つばさ。もう少しひっ付いていい?」
「えっ、いきなり……」
おっ、やはりボロが出てきたか。
この調子で、Aまでお願いしようかな?
しかし、これって後からひかりにど突かれる覚悟が必要だ。それに加え、つばささん本人に引かれてしまう可能性が高い。
だが、リスクがあるから恋愛は成り立つ。
しかも、遊び半分なら、これからは僕を遊びの対象にしないようにお灸を据える意味もある。
ならば、僕も据えぜんくわねばナンチャラだよな。
そう考えを巡らせているとつばさから返事が返ってきた。
「……わかった。ひかる君からねだられたら、断れないよ」
そう言った途端に僕にしがみついてくる。
「えええーっ、ち、ちょっとまったー!
つばささん、本当に何をしているの〜?」
「ひかる君の望むことだよ。私はひかる君の彼女になったから大丈夫。私、がんばるもん」
「わかった。わかった。ごめん、つばささん。
少し悪ノリが過ぎたみたいだ。いきなり変なことを頼んでごめん。と、とにかく離れて」
「えーっ、せっかく勇気を出したのに、変じゃないよ。だって、私は驚きはしたけれど、とても嬉しいもん。それに『さん』じゃない」
……こ、これって、冗談じゃなかったということか?
それなら、成り行きでつばささんが僕の彼女になったということなのか?
「じゃあ、これからよろしくお願いします。
でも、ひかりにはまだ内緒にしといて」
「いえ、私こそ、よろしくお願いします。でも、それは遅いと思うよ。だって、あれ」
つばさが指をさした方向をは、ニヤニヤしながら見ているひかりが立っていた。




