ショックだぜ!
お昼休みになってから、サササッとお片付けして隣のクラスに行く準備が終わった。
「つばさ、行くよ」
声をかけてから、隣のつばさを見ると未だに机の上のノートを片付けていた。
「ひかるの所に集まって、御飯だから早くしないとみんなが待ってるよ。早くっ!」
「ああ、そーだったわね。でも、私は賑やかな食事って、なんか苦手なんだー。そんなに気になるのなら、ひかりだけ行ってくれば?」
首を傾げて、ペロッと舌を出した小悪魔の考えていることなど検討もつかない。
仕方ないか、ブン太とか雫ちゃんとかいるもんな。
僕は躊躇なく椅子から立ち上がり、つばさに小さく手を振る。
それから教室の後ろのドアに向かって静々と歩き始めて数歩歩いた途端に僕のスマホが鳴った。
ちなみに、僕のスマホとひかりのスマホは同じ色で、ケースだけを交換している。
愚痴れば、こんな涙ぐましい作業も僕の分担になっている。
なるべくかわいい感じで応対しないとね。
「はーい。ひかりです!」
「ひかり? へえーっ、ひかる君の間違いじゃないのかな? このまま行っちゃうんだ?
そーなんだ? 私は一人でお昼を食べるのね!」
声の主はすぐに判った。
怖いが、勇気を出して振り向いてみた。
そこには極上の笑みを浮かべているつばさがいた。
……女の子の一番の笑顔は、本当に楽しい時かとても怒っている時だけしか出てこない。
姉からしっかりと身体で覚えさせられたことだから、ある事を除いて一瞬で理解した。
ある事とは、なんで怒っているのかという理由だけ。
仕方なしに席に戻って、つばさの真正面に座った。
なんか言われるのだろうか?
あの気配り上手なつばさが怒るなんて想定外だよ。
「ひかり、よく戻って来たわね」
「まあ、つばさからの電話だしね」
姉が答えるであろう言葉を口にすると、再び不機嫌そうな顔に変わった。
「ふーん。ひかる君ってば、そんな風に言っちゃうんだ。なんだかな〜!」
声のトーンを落として話したから、周りには聞こえていないだろうが、内心ハラハラものだった。
「つばささんと二人なら、僕も嬉しいけど、あとでお姉が怖いんだよな」
「まあ、そんなところでしょうけど、あたしはひかりよりも魅力ないかな? やっぱり、雫ちゃんとかが好みなの?」
「い、いや、ひかりは怖くはなくないし、雫ちゃんとかちょっと好みなっていう程度だし、やっぱりつばささんが一番かな」
「ふーん、かなり意味不だけど、私が一番という言葉があったから、まぁ許そう!」
……つばささんがなんだか変だよ。
「じゃあ、ここで二人でお昼を食べましょう。
あなたの片割れには、私から言っとくし……」
うっ、思わね甘いシュチュエーション……、なんかのイベントか?
「さあ、ひかりのお弁当の中身はどんなかな〜?」
溢れんばかりの微笑みを僕に向けながら、勝手に僕の弁当箱を開けている。
その仕草は毎度のことだから、慌てるなんてことはしない。だが、今日に限って、狼狽えることになろうとは思わなかった。
『ILOVEひかる』だなんて、クソ姉貴の悪戯か?
「あら、またひかる君ラブなんだー!毎日、よく書く時間が有るわね」
「えっ、毎日なの?」
「そうよ。おとーと大好きひかりちゃんじゃないですか!? だから、今日もこの部分はあたしのものなのだ」
訳がわからない僕の目の前で、つばささんは、手に握っていたスプーンを使って見事に海苔で描いた文字をすくい取り、自分の弁当箱の蓋に載せた。
鮮やかな手口に唖然としていると、唐揚げが目の前に差し出された。
「はい、ひかり。大好きなおとーと君の部分の代わりね。はい、あーん」
思わずつられて、「あーん」と言って口を開けた途端につばささん特製の唐揚げが口の中に入って来た。
「どお? 今日のは特に気合が入っているのよ?」
「あっ、いや〜っ、すごく美味しい」
「そーかい。そーかい。ひかる君の好物とお姉さんは聞いていたので、気合も入るってもんだよね」
二へラっと笑うつばささんの言葉は疑問だらけだ。
「これって、ひょっとして、ひかる用に作ってくれたのかな?」
「今日はひかりは告白されるし、水着を着る授業があるし、なら……今までの確率なら、ひかる君の出番と思ってた訳だ。不憫なおとーと君には、美味しい唐揚げでも食べてもらいたいという、あなたには有り難いお話になってる訳なんですけどね。
さあ、唐揚げもう一つあげる」
僕のカラフルなお弁当にのせられた唐揚げは魅力的だが、つばささんのお弁当にはもう唐揚げは残っていなかった。
「あの、つばささん。最後の唐揚げは貰えないよ」
「いや、貰ってくれないと困る」
「僕も困るんだけどなー!」
「ふふっ、これを聞いたらひかる君は絶対に食べないといけなくなるけど……、今からでも遅くないから、素直に食べなさい」
「あっ、じゃあ半分こにしようよ」
「むーり。だって私はチキンダメなんだもん!
ふはははぁ、言っちゃった!」
……ということは、これは僕のための一品なのか?
なぜ、なぜ、そんなことをしてくれるのかな?
やっぱ、不憫だからだろな。
うん、そうだろう。納得だ!
「じゃあ、このシューマイをあげるよ」
「あっ、もーらい! それは大好物なのだ!」
そんなやり取りをしていると、後ろから不意に声が掛けられた。
振り向くと女の子が一人と男の子が二人。
言わずもがなだろうが、雫とひかりの本物、ついでにブン太だった。
ひかりの口から弾丸のように避難の言葉が降り注ぐ。
「な、なによ。私達は待ってたんだからね。
それが、なんでここで二人してキャッキャウフフなんてしてるのよ!」
教室内に大きく放たれたひかる姿のひかりの言葉にクラスメイトはシーンとなった。
それもそのはず、ひかるの姿でのおねえ言葉はショックだったに違いない。
その後の記憶は無いが、僕は席に座ったままショックのあまり気絶してしまったらしい。




