間違えたの?
あはは!
溜息を吐きながら、家路を急ぐ。
この時になって、今更ながらマズイことを思い出していた。何がマズイかって聞かれるなら、学生ならこれ以上マズイことはあまり無い。
だって、先生にもクラスメイトにも授業途中で帰るとは伝えていない。つまり現在、絶賛バックれ中となっているという訳である。
……仕方ない。
嫌だが、悪友のブン太にお願いする以外に方法が見つからない。たぶん、見返りを求められるのだろうが、ひかりの怒りを受ける苦しみと財布の中身が減る苦しみでは、前者の方が比較にならない程の破壊力がある。
ブン太の要求は、言わずと知れたスペシャルランチの大盛りという法外なものであったが、この状況では飲まないわけにはいかない。
ちなみにスペシャルランチの大盛りは、普通のランチ定食の三倍の値段なので、明日から暫くは水だけの生活になる。くぅ、今月は苦しいのに災難続きだよな。
家の近くにやって来てから、走るペースを急に落とした。またまた仕出かした。
お、俺……何にも考えて無いよ!
焦りすぎて、肝心なことを忘れていた。
いつもは頭の中で、可能な限り想像を駆使して、シュミュレーションを繰り返してから、ことに対処するのだが、今日はトラブル続きで、頭の中に浮かんで来なかった。
いきなり、処刑場に登壇することになる。
しかし、遅れるのと謝り方をシュミュレートするのはどちらも優劣つけ難い。
備えが十分出なければ、とても卑劣な手段で弾圧されるに決まってる。
じゃあ、遅くなった場合は……?
やはり、卑劣な手段で弾圧されるだろう。
となれば、結果は同じなのか!?
これって、もう助からないということだろうな。
なら、堂々として帰ろう。
ガチャっと音がして、重い木目調のアルミドアを開けると玄関には鬼が、いやいやひかりが立って待っていた。すぐに下を向いたから顔は、見てないよ。
ええ、見れませんとも、見た瞬間にちびってしまう。
「……ひかる。あなたは自分がした事を判ってる?」
えっと、雫ちゃんの件かな?
それともおねーたまに何かしただろうか?
あとは、つばささんのことだろうか?
わ、わからん。
正直に言うよりも少しブラフをかけてみよう。
「ひかりちゃん、つばささんのことだよね?」
「なんで、語尾が疑問形かなっ! 他には無いの⁉︎」
「いや、有るけれど……、ど、どれかなあ〜?」
「ぜーんぶに決まってるわ!」
「いやいや、ぜーんぶと言われましても、その中の半分は不可効力だと思うのですが……。
そ、それにね。雫ちゃんのことは、僕には身に覚えのない事だし、雫ちゃんが僕に興味を持つなんて事は断じて無い。
だから、つばささんのこともこれで解決するよね。
あとは、ひかりを怒らせた事だけど、アレも雫ちゃんがした事で、僕じゃないし……。
でも、ごめん。悪かった。許してください。
せ、世界で一番可愛いお姉さま」
「ほう、少しは反省しているようね。
なら、こうしましょう。
つばさが泣いてるわ! それを止められたら許してあげる」
「えっと、今から?」
「そう、今から!」
「つばささんの家に行って?」
「当然でしょう」
「おねーたまの格好で行くんだよね」
「んなわけ無いでしょう。おバカ!!」
「じゃあ、つばささんになんて言って会えばいいんだよ?」
「あんた、胸に手を当ててよーく考えなさい」
するりと胸に手を当てるが、ぺたんこだ。
まあ、当たり前なんだけれどもね。
このぺたんこになんの意味があるのだろうか?
つばささんの胸もひかりの胸と同じで形は良いが、Cカップ程度だろうから、何か胸を大きくする体操か、怪しい効き目の錠剤をプレゼントしなければいけないという事なのか?
「で、バストアップについて、どう切り出したらいいだろう。お姉さま、お知恵をお貸しください」
「どこの思考回路がショートしたらそんな考えになるの? このあんぽんたん!」
「えええっ、ち、違うの?」
「ふぅ、あのね。つばさは勇気を出して、屋上でなんと言ったの?」
「あの、雫ちゃんと付き合うのかどうか?だったと思う。で、それが何か?」
「つばさは、なんでそんな事を聞きたかったのかな?」
「ああ、そうか、そうなんだ!わかった。
つばささんの言いたかった事……。
なんだ、そんな事なら早く言ってくれたら良かったのに」
「あっ、そんなこと? もっと早く? なんか間違ってないか?」
「いやいや、間違ってない。雫ちゃんと付き合うことになってもちゃんとひかりのお守りはするし、偶には女物の服を着て、お小遣い稼ぎは手伝うから、大丈夫だよ」
満面の笑みで答えた僕の頬っぺたには、次の瞬間には真っ赤な紅葉が咲いていた。
ひかりの体重が少ないことに感謝だね。
僕と同じなら、たぶん吹っ飛んでいただろう。
「ねぇ、今、私はつばさよりもひかるの方が可哀想になってしまったわ。この話はこれで終わりにしましょう。私はつばさの所に行くから、あんたは母者の手伝いにお店に行ってちょうだい。
もち、私の服のモデルだからちゃんと可愛くして行きなさい」
その後、ひかりはすぐに家を飛び出した。
僕も予定時間が迫っていたから、いつもの制服に着替えた母者のお店に向かったが、何故か心は晴れないまま。
休憩中に母者に相談したら、大爆笑で背中をペンペンと叩かれた後に、笑いを堪えながらのサムズアップされた。当然、僕には意味不なのだが、まあ、なるようにしかならないだろうから、ゆるっとした微笑みで母者に返事を返した。




