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ひかるの憂鬱

 ぐっと近づくつばささんは、今や10センチあるか無いかというほど顔が近い。

 少しタレ目ぎみで、小さな泣きぼくろが可愛らしい。

 小さな鼻に小さくてリップで光る形の良い唇も愛くるしい。


 美人顔のひかりとは対照的な可愛さがある。

 それに加え、雫ちゃん先輩は……少しだけ、お姉さんっぽいけど、柔らかな可愛いさを持つ年下の女の子ともいえる不思議な存在だ。


 いかん、自分のボキャブラリーが貧困な事に気付いてしまった。


 しかし、じっと見つめ合うなんて、なんか興奮してきたよ。


 しかし、本当のところ、つばささんに近づくことは結構慣れてはいるから、なんとか我慢出来るはず……。

 昔から、頬っぺたがくっつくほど近づくことは日常茶飯事だったし、小さい頃は頬すりすりも頻繁だったし、今でもたまにおててを繋ぐ時もある。

 まあ、ひかりに化けている時に限るけどね。


 心ここに在らずとばかりに妄想に沈む僕につばささんからやっと声が掛かった。

 なんだか、先程までとは雰囲気が違い、怒り気味な感じで……。


 その目は睨んでますね?

 睨んでるでしょう。


「ひかる君、雫先輩から告白されたって聞いたわ。

 それは、本当なの?」


 …………ん。


 えっと、なんでつばささんが知っているの?

 スィ〜っと目を逸らそうとしたらつばささんから両手で顔を挟まれた。


「その態度からすると、本当のことなのね!

 実を言うと、ブン太君から既に聞いていたんだけれど、どんな態度をとるか試したかったから聞いたのよ。

 でも、目を逸らすのはあんまりだと思うよ」


「あ、いや〜、僕もまだ実感が全く無いから、急にそんな事を言われてもね。

 確かに雫ちゃん先輩は可愛いと思うけど、僕が誰かと付き合うなんて考えたこともなかったから、ホントに少しも考えていないから、実感がないんだ。

 でも、返事はちゃんと考えなきゃって思ってる。

 だから、まずは雫ちゃん先輩、本人に伝えないといけないから、つばささんに返事なんて無理だよ」


「ふーん、ひかる君は断ることは考えて無いんだ。

 なんか、納得出来ないなぁ。

 ひかりとひかる君は、ずっと仲良しでいられると思っていたんだけれど……。

 それが変わるのかな? 予想出来ないよ」


 小さな頃からいつも三人で遊んでいた想い出が鮮やかに頭の中に蘇る。

 つばささんと遊ばなくなったのは、中学に入ってからだったと思う。

 お互いが異性ということに気付いてからは、なかなか話す機会も無くなって来ているし、ひかるとしては、この頃やっと自然に話が出来るようになったのが嬉しかった。


 ひかりじゃなくて、ひかるとして接すると、この気持ちが小学生の頃からの恋心だったと気付くのに全く時間は掛からなかった。

 しかし、つばささんにとって、ひかりの付属品としての僕にとって、余りに唐突過ぎるこの質問は、期待してもいいのだろうか?


 じっと僕が話し始めるのを真剣な表情で見つめるつばささんに嘘は吐きたく無い。


「ひかる君は、いつから私をさん付けで呼ぶようになったのかな?前は呼び捨てだったと思うし、一緒に遊んでもくれなかったし、やっと高校生になってから久しぶりに話してくれると思った矢先、また話しが出来なくなりそうだから、なんだかな〜!って思ってしまうの」


 淡々とした口調は、怒った様子は無いものの諦めが入り混じっている。


「つばさ…、さん。やっぱりいまの僕には呼び捨ては出来ないよ。小学生から中学生になる頃から、ひかりとつばささんは、男子達には目立つ存在だったし、常に周りに人だかりが出来るから、いま話していても遠い存在に感じられる。高校生になって、ひかりが事あるごとに僕に絡むから、中学生の頃よりは話し易くはあるけど、ひかりがいないと何を話していいかわからない」


 僕が思っていた言葉をつばささんに話しただけだったが、思いもよらず、それはつばささんにはキツイ内容だったらしい。

 しかし、僕にもつばささんに掛ける言葉が見つからない。


 僕の話を聞いた直後、俯くつばささんからポタポタと涙が零れ落ちたのだが、どう取り繕うかわからない。


「ひ、ひかる君。迷惑を掛けていたみたいで、ごめんなさい。もう、私とは無理に話さないでいいよ。

 じゃあ、さよなら」


 たたたっと走り去る後ろ姿を呆然と立ち尽くしながら見送った。

 当然、何も声は掛けていない。

 掛けられなかったというのが本音だけど、他の誰もがこんな時には話をする事は出来ないだろう。


 この後、授業が終わりを告げるチャイムが鳴ってから教室に帰り、つばささんの教室をそっと覗いたが、つばささんの席の横に掛けてあった鞄が無いことに気付いてしまった。


 なんとなく、罪悪感が募って来る。

 あの時、つばささんは僕に何を言いたかったのだろうか?

 たかだか、雫ちゃん先輩からちょっとだけ親密な事を言われただけで、付き合うことにはなった訳では無いし、お弁当も一度限りにしてもらう予定だ。

 ずっとお昼を一緒に食べるのなら相応の対応をするしかないが、まだ雫ちゃん先輩のことは知らない事だらけだから、それは無い。


 僕が思案に耽る中、携帯からメールが着信する音が聞こえた。

 無造作に画面を見ると、題に一言だけ。


『ひかる、早退してすぐに帰れ、あたしが殺す!』


 言わずもがなの、ひかりからのデスメール!

 コレが届いたら只では済まない。

 某有名少女マンガの赤紙の様なもので、コレを見て逃げ出すという勇気はない。


 経験上、早めにご機嫌をとることが、一番効果的だと思う。要件は大体わかっている。

 たぶん、つばささんのことだろう。

 ひかりのつばささんを大切にしていることはよく知っているし、僕も少しは懺悔してもいい気分だ。


 僕は鞄に教科書やらを詰め込み、隣の席のブン太の頭をグーで軽く叩いてから、教室を後にして学外に出る。学校の外に出て、空を仰ぐと雲ひとつない青空が広がっているのだが、僕の気持ちは暗雲が立ち込めている。


 僕は一旦、右手で校門に寄りかかり、一度深くため息を吐いてから、気怠い足取りで家に向かって歩き始めた。

久々に更新です。


皆さん、寒くなりましたから風邪ひかないようにね!


ではまた次回の更新で!

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