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まことの道を歩みたく  作者: 藤原時照


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第六話 日本の目覚め

 私は店員に話しかけた。

「他には?まだいる?」

 バックヤードで同じようなことが起きていないかの確認だ。

 その店員は、ただ首を振った。

 彼女は私に怯えているのかもしれない。

 無理もない。

 私自身、自分の手や足に残る生々しい感触に寒気を覚えている。

――こんなとき、何と言えば良いのか。

 結局、私は何も言わず、コンビニを飛び出した。

 見回すと、コクシ人たちは散開している状態だった。

 逃げる者たちを追っているのだ。

 彼らの通った後には、日本人の亡骸が転がっている。

 私の中に強い怒りがこみ上げてきた。

 それにしても――

 コクシ人たちは戦術というものを全く意識していないようだ。

 ただただ蛮族のように振る舞っている。

 それが彼らの本質なのだろうか。


 私は、コクシ人が助け合うのは上辺だけで、見えないところで足を引っ張りあうことを知っている。

 実力がなくても、異常に自意識が強く、他者を見下す傾向があることを知っている。

 ここでもそれは同じようだ。

 そのおかげで、テロは効率的に行われていない。

 コクシ人たちは散開している。

 戦略を用いて戦う様子はない。

 日本人が力を合わせて反撃すれば、対処できるのではないか。

 そう思い、私は声を上げた。

「我々日本人は戦えるはずだ。この程度の連中なら、力を合わせれば必ず勝てる」

 私は思想的に右に偏ってはいない。

 外国人を排斥すべきだとも思わない。

 だが、この時の私は、コクシ人を敵と見定め、極右思想の体現者のようになっていた。

 しかし、私の呼びかけを聞いても、多くの者はそのまま逃げて行った。

 彼らにとって、私の言うことなど不快な雑音でしかないのだろう。

 それでも何人かの日本人は足を止めてくれた。

 そして、ある者は武器になるものを探し、ある者は悲鳴の上がる方向に足を向けた。

 私のせいで、何人かは命を落とすかもしれない。

 申しわけないと思う。

 それでも……。

――私もすぐ後を追う。あちらで待っていてくれ。

 私は心の中でそう呟いた。

「これ、使います?」

 その男は私に鉄の棒を差し出した。

 それはシャッターの開閉に使う道具だ。

 この男は、自分が戦えない分、何かで協力したいと考えたのだろうか。

 私は男の意図を尋ねず、棒を受け取った。

「ありがとう」

 私が棒を受け取ると、その男は片手を上げ、走って行った。穏やかな顔をした中年男だった。

 私は棒を担ぐように持ち、悲鳴の上がる場所を探した。だが、もう悲鳴は聞こえない。代わりに、大勢の足音がこちらに向かって来ている。

 コクシ人と思しき男たち十数人が、こちらに走って来るのが見える。

 その背後には、さらに多くの日本人らしき人たちの姿がある。

――逃げている?

 いや、そのコクシ人たちは戦意を喪失したようには見えない。

 彼らは逃げているのではなく、目障りな私を潰しに来たのだ。

 しかし、彼らはなぜ追う者たちを気にしない?

 彼らを追うのはやる気になった日本人。

 それも数倍の人数だ。

 それを相手に勝つつもりか?

 相手を過小に評価し、自分を過大に評価するのがコクシ文化。

 だから、彼らは概して現状認識能力が低い。

 これもその一例なのだろうか?

――私も似たようなものか。

 私は、一対多の戦いに臨もうとしているのだ。

 ここで死ぬために。

 

 コクシ人を追う日本人の中に、足の速い男がいた。

 彼は、一人のコクシ人に追いつくと、後方からタックルをしかけた。

 男が倒れると、作業着を着た若い男がナイフを持った手を押さえ、床に叩きつける。

 そこに年配のサラリーマンが加わり、そのコクシ人の首に腕を巻き付けた。

 柔道の裸締めだ。

 コクシ人が落ちると、年配のサラリーマンは、その男のベルトを外して手を縛り始めた。

 同じような光景があちこちで繰り広げられている。

 反撃する日本人の中には女性も含まれていた。

 ビニール傘を持った二人が剣道の要領で傘を振り、コクシ人と対峙している。

 二人はテニスのダブルスのように、代わる代わる攻撃し、敵を圧倒していた。

 戦う同胞たちの姿を見て、心の奥から何かがこみ上げて来る。

 それは感動?

 この場にいる喜び?

 同胞たちとの一体感?

 いろなものが混ざっている。

 殺し合いの最中だというのに。

 あつい思いを噛みしめているうちに、私は五人のコクシ人に囲まれようとしていた。

 その向こうから、さらに五人が近づいている。

 私は、集団を相手にするための位置取りを考えたが、やめた。

――集まって来るのを待つのは阿呆だ。

 私は鞄を捨てた。そして、最も近くにいた敵に近づき、先ほどもらった鉄の棒で突いた。

 私が放った突きは銃剣道の突き。

 銃床を持ち上げながら抉りこむようにして突く技だ。

 その突きは、相手の張り出した頬骨に当たった。

 だが、それで止まらず眼窩へと――

 そのコクシ人は、びくんと一度だけ動き、そのまま崩れ落ちた。

 棒を引きもどそうとした時、背後には敵が迫っていた。

 だから、私は転身しながら棒を引き、柄で後方を突いた。

 しかし、それは避けられた。

 それでも私は動きを止めず、足刀で正面から相手の膝を蹴り折った。

 続けて、崩れ落ちる男の顔面に、秘伝の蹴りを放つ。

 次は、左方と右後方からの同時攻撃だ。

 棒の間合いではない。

 私は棒を左手の男に投げつけた。

 その男は短く悲鳴を上げ、不用意に手を上げた。

 好機!

 私はその手を取って懐に入り込み、手首と肘両方の逆を極めたまま、背負い投げの要領で投げた。

 この投げ技では、通常の受け身を取ることができない。

 男の身体を持ち上げつつ、宙で方向を修正する。

 投げ下ろす場所は――

 投げた男の踵が下にいた男の頭に当たり、男は昏倒。

 投げられた方の男も、足を強打して悲鳴を上げている。

 私は、床に落ちているナイフを拾い、二人の首を――

 十秒間に四人の命を奪った。

 それを見て、近くまで迫っていた敵が足を止める。

 私はそちらに身体を向け、間合いを詰めつつ下からナイフを投げた。

 私の投擲は相手の意表を突いたようだ。

 その男は、自分の脇腹に突き立ったナイフを見て固まっていた。

 だから、私はまた例の蹴りで止めを刺した。

 今度は頭ではなく腹に当てたが、それはもともと鎧の上から蹴って内臓を破壊するための技。

 その一撃で十分だった。

 こうして、私は十四秒で五人のコクシ人の命を奪った。

 

 男の腹からナイフを回収し、その男の服で拭う。

 その男が持っていたナイフも回収した。

 二本のナイフを手に入れ、私は亡き師匠を思い出す。

 師匠は、刀ではなく、手に入れやすい山刀を使って、私に何度も型を見せてくれた。

――確か、こんな感じだ。

 昔の記憶を呼び覚ましながら、私は二本のナイフを構えた。

 左は中段に。

 右手は上段に。

 そのまま、周囲を見渡す。

 残りの五人のコクシ人は、私から三メートルほど離れて立ち止まっていた。

 五人の仲間が瞬時に倒されたのを見て戸惑っているようだ。

 コクシの掲示板を見ると、日本を侮蔑する様々な書き込みを頻繁に目にする。

 自分たちは軍事訓練を受けていて強いが、そうでない日本人は弱い。

 軍事力もコクシの方が圧倒的に有利だ。

 セイグウを背後に持つ自分たちに、戦って負ける可能性は皆無だ。

 戦争をすれば必ず勝てる。

 だから、いますぐ侵略するべきだ。

 そんな書き込みが続いていた。

 しかし、彼らは軍事訓練を受けていても現実を知らない。

 それは、これまで戦った相手が証明してくれている。

 だから――

 ここにいる彼らも、これから自分たちの考えが誤っていたと身をもって知ることになるのだ。

 日本人の中には、多くの武道経験者がいる。

 戦えるのは私だけではない。

 彼らの多くは、学んだ技を実戦で使わないと誓っているが、大義さえあれば、戦うことはできる。

 いま目の前で繰り広げられているように。

 彼らは自らを縛る軛を自分で解いたのだ。

 その真実に直面し、コクシ人たちは怯んでいた。

 後退る五人のコクシ人は、サラリーマンや作業着を着た男たち、そしてビニール傘を持った女たちによって、あっさりと取り押さえられた。

 

 全てが終わったと感じた途端、私の腕や脚の筋肉が震え始めた。

 つづいて耳鳴りがはじまり、足腰が痛み始めた。

 肉体の戦闘モードが解除されたのだ。

 いまの私はただの初老の男。

 身体を酷使しすぎたので、立っているのさえ辛くなっていた。

 警察が到着したのは、そんなときだった。

 遅い。

 私は文句を言いたかった。

「武器を捨てて投降しなさい」

 警察はメガホンを使って、こちらに呼び掛けた。

 もう武器を持ったコクシ人はいない。

――私に言っているのか?

 そう思った時、銃声が響き、私は胸に衝撃を感じた。

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