↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まことの道を歩みたく  作者: 藤原時照


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/36

第二十話 告白

 家に入ると、私は汗の臭いを感じた。

 自分の脇を嗅いでみたが、私ではない。

 洋子の脇を嗅いでみた。

 洋子でもない。

「何?もう、変態なんだから」

 そう言って、彼女は私の頭を両手で抱えると、自分の胸に押し付けた。

 私は儀礼的に洋子の胸を揉みながら、頭を胸の谷間から離した。

「そうじゃなくて。誰かこの部屋に入ったかもしれない。汗の臭いがする」

 私はそう言って、部屋の中を映しているカメラの録画データをチェックした。

 録画には鍵屋の男が映っていた。洋子が誘拐された後、部屋の鍵の交換作業を頼んだ男だ。そこには、彼が代わりの盗聴器を仕掛ける様子が映っていた。コンセントカバーを外し、コンセントの内部に取り付けている。

 彼が弄っていたコンセントは四か所だ。そのうちの二か所は、開けてすぐ閉めていた。

 私は、会社関係の荷物をまとめた段ボールを開き、実験で使うラテックス手袋を探した。

 手袋を嵌め、指紋を消さないよう気をつけながらコンセントカバーを外してみると、四か所とも盗聴器が仕掛けられていた。そのうちの二か所は、盗聴器の上に埃が積もっているので、前回見落とした物のようだ。

 しかし、それは辻褄が合わない。

 録画に映る鍵屋の男は、カメラを全く意識していなかった。この部屋では何度もカメラのことを話しているので、ずっと盗聴していたのなら、部屋に監視カメラが仕掛けられていることも知っているはずだ。時々盗聴していただけなら、知らないこともあり得るかもしれない。しかし、今回は、盗聴器を外してすぐに来たわけだから、盗聴頻度は高いはず。知らなかった可能性は――

 鍵屋は依頼されただけ?

 盗聴を行っている人物は別にいるとすれば辻褄が合う。

 いずれにしても、警察で鍵屋を尋問してもらえば、そのあたりの疑問は解明されるだろう。

「また米田さんを呼ばないとね」

「えー、あの人嫌い」


 米田が到着したとき、彼は露骨に嫌そうな表情をしていた。

 しかし、録画を見てからは、きびきびと対応した。

 米田が帰ったあと、私は外したままになっていたコンセントカバーを付け直していた。

 その後ろで洋子がうろうろしている。

「ねえ、ここ、引っ越さない?」

 洋子はここに住むことが不安になって来たようだ。

「そうだね。でも、新居で同じことをされる可能性もあるから、もう少し状況を確かめてから考えようよ」

「えー、そうだけど、それはわかるけどー、もう気持ち悪いのよ」

 私は手を洗ってから洋子を抱き寄せ、彼女の身体をやさしく撫でた。

 それは、武術を通して身につけた秘術。

 男女を問わず、特異な感覚をもたらす。

 効果はてきめん。

 ついさっきまで、この部屋が気持ち悪いと言っていたくせに、洋子の気分はすっかり変わっていた。


 いま、洋子はソファーに身を横たえている。

 彼女は、腰に力が入らないのを確かめ、起き上がるのをやめた。

 いまは余韻に身を委ねている。

 洋子がソファーに横になっている間に、私はシャワーを浴び、部屋着に着替えた。

 部屋にもどると、ソファーはまだ洋子が寝ていて、座るところがない。

 だから、私は床に座り、ソファーにもたれかかった。

 すると、洋子が身を起こし――

「あのー、いま、シャワー浴びて来たばかりなんですけど」

「いいの。もう一回浴びればいいでしょ」

「ちょっと、いい加減にしないと」

 私はそう言って洋子の足の裏をくすぐった。

「あ、それ反則」

 洋子は悶え始めた。 

 その隙を使って、私は立ち上がったが――

 洋子は執拗だった。

「第二ラウンド開始」

 彼女の欲望には底がなかった。


 鍵屋の尋問結果は、私たちには開示されなかった。察するに、頼んだのはどこかの有力者なのだろう。ならばと荒井弁護士に開示を要求できるか聞いてみたが、拒否される可能性が高いと言われた。

 警察にもお役所仕事的な体質がある。強く押してみたとしても、関係が悪化するだけで、きっと何も得る物はないだろう。警察は当てにできないのだ。いまは自分たちで守りを固めておくしかない。


 鍵屋は複製した鍵を所持していたようなので、新たに交換しなければならない。

 だが、適当に業者を選べば、また同じようなことになりかねない。

 そう考え、評判の良い業者を調べ、その中から遠方の業者を選んだ。

 近場で土地勘のある業者では、ちょっとした留守に侵入され、前回の鍵屋と同じ結果になりかねないと考えたのだ。

 しかし、これだけでは不十分だ。

 これからは、週に一回は盗聴器の検査をする。

 私はそう肝に命じ、我が家は臨戦態勢に入った。

 洋子も暗器を使う練習をしている。

 だが、洋子が戦うような流れにはしない。

 してはならない。

 それにしても、彼らは何故私たちを放っておいてくれないのだろう。

 いままでの状況を見るに、私たちに手を出すことで事が大きくなり、彼らにとって好ましくない結果に陥っている。

 なぜ同じ轍を踏むのだ。

 彼らは学ばないのか。

 私は異常者を相手にする前提で彼らに対処するべきなのだろうか。

 その前提で考えると、常識を以って事に当たるのは間違いだ。

 ならば、私はどうすればいいのだろう。

 私はどうやって洋子を守れば良いのだろう。


 そんな具合に悩んでいる時、高木という阿佐ヶ谷の秘書が訪ねてきた。

 私と洋子は彼を警戒しつつ家に入れた。

「突然押しかけてすいません。今日は、阿佐ヶ谷の代理としてではなく、木村の友人として来ました」

「木村さんの?」

「はい。聞いていただけますか?」

「伺います」

 礼を言ってから、高木は木村と自分の生い立ちを話し始めた。

「私と木村の両親は入植者で、私たちは日本で生まれ育ちました。行ったことのない国より、日本のことを母国だと思っています。できることなら日本人になりたいと思っています。それは木村も同じでした。ただ、いろいろなしがらみがあって、帰化はしたくてもできないんです。それでも、日本という国につながりが欲しくて政治家に近づきました。ただ、国籍の問題があって、私たちは政策担当秘書にはなれませんでしたが」

 高木の顔は真剣で、嘘を言っているようには見えなかった。

 彼が話す内容は、私には関係のない話のようだったが、口を挟まず聞くことにした。

 彼の生い立ちの話が終わると、話はようやく核心にたどり着いた。

「私はあなたが羨ましい。妬ましいとさえ思います。あなたは強い。その強さで大勢の命を守りました。あなたには、自分の命を賭けてでも守ろうとする国がある。だけど、私たちにはない。私は日本が好きですが、同時に、ここが私の国ではないことを知っています。それに、私たちは、幼少期から日本への敵意を刷り込まれています。いまとなっては、その大半が呪術で縛りやすくするための嘘だと理解していますが。そういういろいろな事実を知って、自分たちの人生を振り返ると、虚しくなって来ました。

 私と木村は自分の居場所を作ろうと阿佐ヶ谷の下で働きました。でも、阿佐ヶ谷は善人ではありません。悪いことを沢山やらされました。木村も安藤さんにしたことを悩んでいました。

 阿佐ヶ谷三郎は、詳しくはわかりませんが、セイグウの呪術者の力を借りてさまざまな工作を行っています。阿佐ヶ谷は、自分がコクシ人であることを自覚していますが、母国のために何かをしようと思っているわけではありません。彼の行動原理は金と権力。それだけのために動いています。だから、阿佐ヶ谷はセイ連に全ての情報を教えずに、都合の良いように操ろうとしていました。セイ連にはテロで協力した振りをする。そうやって、コクシやセイグウから金を受け取り、彼らへの影響力を維持する。そして、テロで日本国内の危機感を煽った後は、今度はイエンカに近づいてうまく立ち回る。あの人は、すべて金と権力のために動いているんです」

 その時、高木はこの部屋を常に映しているカメラの方を見た。彼はいまの話が録画されていることを知っているようだ。

「木村の父親は、安藤さんの義理の母親の弟なんです。阿佐ヶ谷はその繋がりから、安藤家に圧力をかけました。安藤さんは、どこから圧力がかかったか知らされず、ただスパイをやらされていました。安藤さんは知りませんでしたが、木村は安藤さんの親戚だったんです。木村は辛かったみたいです」

 時々話が脇道に逸れたり、同じ話を繰り返したりはしたが、高木は、知っている限りの事実を話した。

 高木が一通りのことを話し終わるまで、私は口を挟まなかった。

「ところで、阿佐ヶ谷以外にも、セイ連に繋がっている政治家がいるんでしょう?例えば、玉川俊蔵とか」

「はい。他にも野党の大岩元明がそうです。でも、私は彼らの内情をほとんど知りません。阿佐ヶ谷とは対立していて、お互いに情報を隠していますから」

「なるほど。彼らが手を組まないのは不幸中の幸いかもしれない。ところで、高木さんは、これからどうするんですか?」

「それは……、聞かないでいただけると……」

 高木は何かを決意しているように感じられた。

 そのあと、高木は木村との思い出を語った。

 その思い出を語っている時、彼の表情は時にやわらぎ、時に悲し気になり、木村が彼にとってこの上なく重要な人だったことが感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。