見えない殺戮者
「護衛任務は楽で助かるぜ」
「警戒は怠るなよ。魔物や盗賊……何も出ないとは限らないんだからな」
木々が生い茂る夜の道。冒険者たちは商人の護衛をしながら街に向かって進路を進める。
今のところ敵の姿は見えない。だが冒険者たちは警戒を怠らない。
彼らはSランクギルドの冒険者。故に彼らは油断していなかった。
周囲に敵がいるかもしっかりと確認していたのだが。
突然、冒険者の首が斬り飛ばされる。目の前で絶命する仲間を見て他の冒険者たちは次々に悲鳴を上げた。
「ひぃぃ! な、なにが起きて……!」
「いつ……アイツは死んだんだ!」
「敵がいないのに……なんでっ!」
冒険者たちが慌てて剣を構えるが、剣を構えても敵の姿はない。
だというのに次々と冒険者たちの悲鳴が聞こえ斬り殺されていく。
気がつけば十人以上いた冒険者たちは全員が斬り殺されて誰もいなくなっていた。
それは商人も同じこと。冒険者が全滅して慌てて逃げようとするが、彼らも何が起きたか理解する前に一瞬で斬られてしまった。
「……終わりましたなの」
冒険者たちが全滅したと同時に何もない虚空から少女が姿を現す。
彼女の名前はユリノ。白髪のショートヘアーに可愛らしい顔立ち、漆黒の瞳に頭部には片方だけ獣の耳が生えている。
またその姿は大勢から暴力を振るわれたのか全身がボロボロになっていた。
「やっと終わったか……それじゃあ荷物を漁りますかね」
ユリノの合図を聞いて黒髪の無精髭の男が木々から姿を現すと商人の荷物を漁る。
彼の名前はフィルク。彼は大勢の仲間を集めると仲間たちと一緒に物資の中身を確認していた。
「いいねぇ! 金もあるし食料もあるじゃねぇか! この調子で商人を殺していけば生活にも困らねぇ!」
物資の中身を見て大喜びのフィルク。そんな彼にユリノは怯えながらもゆっくりと近づいた。
「あの……」
「あ? なに?」
「たくさん殺しましたなの……だから食べ物……全然食べてないから」
「あー食べ物ね。ほらよ」
そういってフィルクは面倒そうにパンを取り出すとユリノに投げて渡す。
ユリノはそれを手に取るとありがとうございますと何度も口にしながら食事を始める。
「旨いか?」
「はい……とても美味しいですなの……ありがとうございますなの」
そういって食事を取るユリノにフィルクは突然ユリノの腹部に蹴りを入れる。
彼の思いがけない攻撃に対応できず、ユリノはお腹を抑えながら先程まで食べていたパンを吐き出す。
「おいおい汚ねぇな! 流石は獣人、品性の欠片もないってわけだ」
「ごめんなさいなの……」
「どうでもいいけどさ、ちゃんと溢したやつも食べなよ? 美味かったんだろ?」
「……はい」
ユリノは這いつくばりながら吐き出したパンを再び口にして食事を取る。
そんなユリノの様子をリファドと他の仲間たちと楽しみながら眺めるのだった。
ーーー
「これが新しい拠点だ」
「……凄い。こんな大きな拠点が私たちの住む場所になるなんて」
目の前に建てられたレンガ細工の建物。それを見てティアナ達は驚きの声をあげる。
金貨を冒険者から貰って一週間、ようやく拠点にぴったりの家を見つけ購入した。
今まではティアナはアレンとは別の安宿で暮らしていたが彼女もこの家に住むことになった。
「一応聞いとくが本当に俺達の家に住むことになって良かったんだよな?」
「むしろ住むなって言われる方が困るぐらいよ。大きい家に住みたいってのはあるし……それに」
そういってティアナはアレンの方を見る。どうして自分の方を見るのかと不思議そうに思っていると彼女は顔を赤くしながら小さく呟いた。
「……私もアレンと一緒の家に住みたいし」
「そうだな。みんなで過ごしたほうがいいからな」
ギルドに拠点が出来たからといってその拠点で暮らすかどうかは冒険者の自由だ。
ちなみに風の囁きにいた頃はアレンは拠点で暮らすのではなく宿屋で暮らすことを選んでいる。
それはシャルが自分が拠点で暮らすのを嫌がったからで自分も喧嘩になるぐらいならと遠慮して宿屋で過ごすことを選んだのだ。
そしてそれは他のギルドでも同じことが起きていてアレンは結局拠点で暮らしたことはなかった。
なのでアレン自身もこんな大きな家で過ごすことが出来るという事実に少し嬉しさを感じていた。
「アレン様とこんな大きな家に住むことが出来るなんて私幸せです」
「アレンがいればボロ宿でもいいんじゃなかったの?」
「何を言うかと思えばそんなことですか。勿論アレン様と一緒ならばどのような場所でもそこは聖域と化します。ですがアレン様は偉大で素晴らしく崇高なお方、となれば住む場所もよりよい場所に変えるべきです。いっそのことこの国の城とかに住んでみるのはどうでしょうか?」
「城か……そう言えばベルフェは魔王城暮らしなんだよな」
「うん。魔王幹部だからね。……最初は良い暮らし出来てたよ」
「最初……というのはどういうことなのです?」
「私たちは掃除が苦手だったんだ。最初こそはみんな居心地よく過ごしていたんだけど次第にゴミが増えはじめて魔王城がゴミ屋敷になっちゃったんだんだよね」
「あの……使用人などは雇われなかったのですか?」
「……!」
「いや何ですか……その今気付いたみたいな反応は」
「一応それから掃除当番が決まって魔王幹部がそれぞれ一日毎に掃除するようになったんだよ。結局みんなサボるからよく魔王様に怒られたけど」
「……俺達はそうならないようにしないとな」
「大丈夫ですアレン様。よくよく考えてみれば私はこの家を掃除するために生まれてきたような気がします。なのでしっかりとアレン様の屋敷を綺麗にお掃除しますね」
「勿論私も手伝うわよ」
「俺も掃除ぐらいなら出来そうだしな」
「……」
結局最後までベルフェが口を開くことはなかった。
ーーー
「アレン様……お部屋はどうしましょう? 私とアレン様の部屋と他二人の部屋、決めないといけないですからね」
「そうだな。別に部屋なんて好きに……ん?」
屋敷の中に入り、どの部屋を自分の部屋にするか話し合っているとシアが当然とばかりに一緒の部屋で過ごそうとしてきた。
その事について驚くとシアは逆に不思議そうな表情でこちらを見る。
「何を驚いているのですか? 私とアレン様は一緒の部屋で過ごすのが当たり前のはずでは?」
「いや、今までは部屋が一つしかなかったから一緒に暮らしていただけだろ? シアも自分の部屋を持ったほうがいいんじゃないか?」
「ですが私にとっての幸せはアレン様のお側にいることですし、一人でいても寂しいです」
シアは見るからに落ち込んだ表情を浮かべる。
そんな彼女に自分はそれでも一人でいろとは言うことは出来なかった。
「……別に自分の部屋を持ったからって俺の部屋に来ちゃダメだって言うつもりはないよ。寂しかったら俺のところにくればいい」
「アレン様!」
「じゃあ私もアレンの部屋で過ごすことにしようかな」
「なっ! なんでベルフェさんもアレン様の部屋に!?」
「私も寂しがり屋なんだよね」
ちなみに安宿の時はベルフェもベッドで眠ることになり、元々小さなベッドということもありぎゅうぎゅうの状態で眠ることになった。
今回も彼女達が一緒に眠るとは限らないが、大きなベッドにしておいて良かったと内心で安堵する。
「あ、あの……」
ベルフェとシアが言い合っているのを眺めているとティアナが言いにくそうにこちらに声を掛けてきた。
「どうしたんだ?」
「私も……アレンの部屋に行ってもいいかしら」
「それは構わないけど……なんでだ?」
「そ、それはその私もアレンのことが好……じゃなくて寂しいからよ!」
「寂しいのは仕方ないが……」
沢山部屋を用意したのにあんまり意味が無かったなと少し思う。
だけども同時にみんなと一緒に過ごすのは悪くないと思う自分もいる。
どうやら寂しがりなのはみんなだけではなく自分もなのだと思った。




