貫かれた刃 後編
「ようやく見つけたなミノタウロス」
草原の中、リファドはミノタウロスが歩いている所を発見する。
だが、その場にいるのはミノタウロスだけではない。
ゴブリン等の魔物も何体かいるのが分かる。
ミノタウロスはAランクの魔物。他の魔物の邪魔が入れば苦戦することもありえる。
「シャル。ゴブリンを頼む」
「了解」
リファドの命令でシャルは小型のナイフを二本取り出すとそれを投げる。
するとナイフはゴブリンの元へと高速で移動してその胸を貫いた。
シャルの魔法は念動力。触ったものを自由自在に動かすことが出来る魔法だ。
だが、念動力で動かす物の重さと大きさはシャルの場合はナイフ二つが限界で、それ以上の物を動かそうとするともっと魔法の技術を上げる必要があった。
「ナイフが二つに増えているな。随分とやるようになったじゃないか」
「私もそれなりに練習しているのよ」
シャルは得意げに言うと更にナイフを念動力で動かしてゴブリンたちを次々に倒していく。
そして周囲の魔物を一掃し残ったのはミノタウロスだけになった。
「よし、他の魔物は倒した。後はミノタウロスを倒すだけだ。強化魔法頼むぞ」
リファドの指示でミアとディオルが強化魔法を掛ける。
強化魔法は魔力の消費が多い魔法。故に二人体制で魔力の負担を補う形にしている。
強化魔法で身体能力が向上したリファドたちはすぐにミノタウロスに攻撃を仕掛けた。
「ミノタウロス程度すぐに倒してやる!」
リファドはミノタウロスに接近すると剣を振るう。
剣はミノタウロスの腕に当たるが、腕が固いのか少しの切り傷が出来た程度だった。
「なっ……!」
瞬間、ミノタウロスが臨戦態勢に入る。ミノタウロス持っている剣でリファドを斬ろうとする。
それをリファドは風魔法を使いギリギリで避けた。
リファドの魔法は風魔法。風を身体に纏うことで動きを素早くしたり、風で物を運んだりすることが出来る魔法だった。
それで何とか攻撃は避けたが、ミノタウロスは絶えず攻撃してくる。
「お、おい! 何とかしろ!」
「分かってますよー」
アスティナは魔方陣を複数展開し、漆黒魔法を放つ。
無数に放たれた黒い光は全てミノタウロスに直撃するが少し仰け反るだけで特段ダメージは与えられていなかった。
「なんか効いてないんですけどー!」
「チッ! 俺がやるぜ!」
ダリウスは魔方陣を展開して炎の塊を放つ。
だが、やはりそれも効いていないのか少し熱そうにはするがそれだけで身体に損傷はないように見えた。
「炎魔法が効いてないのか!?」
炎魔法が効かないのならばとダリウスはミノタウロスへと距離を詰める。
そして剣を振るうが、ミノタウロスにダメージがあるようには見えなかった。
「なんで……攻撃が……」
「馬鹿! 近づきすぎだ!」
「……ああっ!」
次の瞬間、ミノタウロスは攻撃対象をリファドからダリウスへと変える。
巨大な魔物はダリウスの眼前に接近すると剣を振るう。
それをダリウスは咄嗟に盾で防ぐが、一撃で盾がぐしゃりと音を立てて潰されてしまう。
「盾が一撃で!? なんでこんなに苦戦するんだ!」
今度はダリウスが剣を振るうがミノタウロスの身体が硬くて切り傷を付けるのがやっとだった。
「こっちは強化魔法を掛けてるんだぜ? な、なのに……!」
「ダリウス!」
リファドが風魔法を使ってミノタウロスに接近するがそれに合わせるようにミノタウロスはリファドに蹴りを入れて吹き飛ばす。
更にシャルがナイフを操りミノタウロスの攻撃するがそれに対して何の反応を示すことなくダリウスに向けて剣を真っ直ぐ突き刺す。
「う、うわぁぁ! やめろッ!!」
ミノタウロスの剣を避けられず刃で腹部を貫かれるダリウス。
ミノタウロスが剣を抜くとダリウスはそのままぐったりと地面に倒れてしまう。
「う、嘘……い、いやぁぁぁぁッ!?」
「一旦退却だ! ミアは回復魔法の用意をしておけ!」
リファドは風魔法を使ってダリウスを運ぶと他の仲間と共に戦線を離脱するのだった。
ーーー
「ミア……ダリウスはどれぐらいで治せる?」
「どれぐらいって……無理だよ。こんなにぐちゃぐちゃなのに」
「何を言って」
「一応回復魔法はしてるけど……全然傷も塞がんないよ」
先程の戦いから少し離れた場所。そこでミアがダリウスに回復魔法を施している。
だが効いていないのか傷は塞がらず血は流れ続けている。
「なんで治らない! アレンは簡単に治していたんだぞ」
「それはアレンが特別だからだよ」
「そんなことは知っている! だが、このままではダリウスが……!」
ダリウスの呼吸が浅くなる。何とか治そうとミアも頑張るが結局治療することは出来ず彼は動かなくなる。
ダリウスは風の囁きの中でも古参の仲間だった。
故にリファドにとって彼はギルドの中でも大切な仲間でそれが簡単に亡くなったことに言葉を失う。
勿論冒険者で死人が出ることは珍しいことじゃない。
そう頭では理解しているのに心は悲しみと悔しさで一杯だった。
「ミア! これはどういうことだ! アレンならもっと上手く出来たぞ!」
「そ、そんなこと言われても」
「他の奴らもだ。何故みんなアレンのように戦えないんだッ!」
そう怒鳴るリファドにミアがゆっくりと近づくと彼の頬をビンタした。
「……っ!?」
「いい加減にしてっ! 私たちはアレンじゃないんだよ?」
「それは……っ!」
「アレンが強いのは知ってるよ? でも私たちにアレンを求めないで」
ミアの言葉で自分がどれだけアレンを必要としていたのかに気付くリファド。
そのまま彼はゆっくりと動かなくなったダリウスを見てそっと彼の手を握る。
「ダリウス……ごめん……俺のせいでっ!」
「……別に誰のせいでもないよ」
「でも……アレンが……出ていかなければ……ダリウスは」
「でもアレンは自分の意思で出ていったんでしょ? 誰かに追い出されたわけじゃないんだし、だからリファドが落ち込む必要はないんだよ」
「あ……ぁぁ……ぁぁぁ」
ミアの言葉にリファドは言葉にならない呻き声を挙げる。
そして静かに泣き続けることしか出来なかった。




