貫かれた刃 前編
「アレンだったな。俺のところに来てくれて助かった。これから宜しく頼む」
協会の中でリファドはアレンの書類を確認すると手を差し出した。
これは過去の出来事。リファドがギルドを結成しようと人集めをしていた時の光景だった。
「本当に俺でいいのか?」
「参加したいって言ってくれたのはアレンだろ?」
「それはそうだけど……俺はスラム街出身だから」
「気にするな。そんなのでお前を否定するものか」
「リファド……ありがとう」
そう言ってアレンはリファドと握手を交わす。それは二人の暖かな記憶、それでいて冷たい後悔の思い出だった。
「アレン……! う、うわぁぁぁっ!」
自分の叫び声と共にリファドは目を覚ます。それと同時にリファドはようやくさっきまでの光景が夢だったのだと理解した。
「また……この夢かよッ!」
リファドは苛つきながら壁を殴る。アレンを追放してから一週間、リファドはいつもこの夢を見ていた。
一応眠ること自体は出来ているので身体にこそ問題はないが精神は確実に衰弱していた。
滲んだ額を腕で拭うとカーテンを開ける。既に夜は開けており、日光がリファドに降り注いでいた。
しかしリファドの心は暗いままでずっと自分の心はアレンに囚われているようなそんな気がしていた。
ーーー
「リファド、どうしたの随分と疲れた顔してるじゃない」
「当たり前だろ。アレンがいなくなったんだからな。人員の補充に忙しいんだよ」
リファドが自分の拠点で作業をしていると恋人であるシャルが話し掛けてきた。
金髪の長い髪に赤色の瞳、顔は美しく大きな胸をしている。
彼女はリファドからアレンの名前を聞いたことで目に見えて機嫌が悪くなる。
「アレンは私たちのギルドに相応しくないわ。貴方も知っているでしょ。彼はスラム育ちなのよ」
「分かってるさ。アイツはスラム育ちだよ。そんなのを仲間にし続けたらこっちの評判も下がる」
「だったらアレンの名前を出すの辞めなさいよ! スラム出身は薄汚い穢れた生き物なのよ!」
「そうは言うがなアレンは強い奴だ。スラム出身だろうが何だろうが! それを追放したんだ! 失った戦力は大きい……それを惜しいと思うぐらい別にいいだろ」
そもそもの話。最初にアレンを追放すると言い出したのはリファドではなくシャルだった。
リファドはそれに対して最初は反対したが、彼を追放しないと別れると言われ仕方なくアレンを追放することになったのだ。
シャルは貴族の娘。その影響力はギルド内でも絶大で今暮らしている拠点や旅の道中の宿代に武器や防具、ポーション等の多額の資金をシャルに援助して貰っている状態だった。
もしここでシャルと別れればその援助も打ち切られる。それだけは避けたかった。
いや、それだけじゃない自分がシャルのことが好きだからこそ別れたくはなかったのだ。
そう別れたくなくてアレンを追放したはずなのに。
アレンを追放してからはずっとこうして言い合いばかりをしている。
「……リファド。ごめんなさい」
「気にしてないよ。俺こそ強い物言いだった」
そう言うとリファドはそっとシャルの手に自分の手を重ねる。
「人員補充ももうすぐ終わる。Aランクギルドだから応募者も多かったんだ。戦力が整えばアレンは必要ないよ」
「リファド……そうよ。アレンなんかいなくたって私たちのギルドは最強よ」
「そうだな」
リファドはそう言うとギルドの人員補充の作業を続けるのだった。
ーーー
それから数日後、ギルドの冒険者の補充が終わり、リファドは冒険者たちを拠点に集める。
目的は冒険者同士の顔合わせ。任務に出る前に互いの事について知っておいた方がいいだろうと判断してのことだった。
「顔合わせって何をすればいいんだろう」
新しく入ったメンバーを見て困ったような反応をする少女が一人。
彼女の名前はミア。黒髪ショートヘアーの少女で可愛らしい見た目をしている。
「自己紹介をすれば良いだけのことだ」
リファドは冷たくそう言うと自分から自己紹介を始める。
どんな魔法が使えるだとかどんな魔物を倒したかといった話を終えて、それに続くようにシャル、ミアと続いた。
「っと……次は俺か。俺はダリウス。魔法は炎魔法が使えるぜ」
白髪の男ーーダリウスが自己紹介を終える。これで既存の冒険者たちの紹介が終わり、次に新人の冒険者が自己紹介をする。
「俺はディオルって言います。宜しくお願いします。魔法は一応強化魔法が使えます」
「はいはーい! 私はアスティナって言いまーす! 漆黒魔法が使えまーす」
黒髪の少年ディオルが挨拶を終えると同時に、桃髪の女性アスティナが自己紹介を済ませる。
整った顔立ちに綺麗な長髪、胸は大きく瞳は髪の色と同じく桃色の目をしていた。
「これで全員の自己紹介が終わったな。各々がどんな人物でどんな魔法を使えるかは把握しただろう。だが、どれだけ実力があるかは分からないものだ。戦うまではな」
リファドはそう言うとギルドの依頼書を取り出した。
それはAランクの任務依頼。それを見たダリウス達は嬉しそうな表情を浮かべる。
「やっと新しい依頼か! アレンが去ってから任務受けてなかったからな」
「そのアレンって人誰です?」
「ん? 少し前にここにいた冒険者だよ。なんでか知らねーがここを辞めちまってな。かなり強かったんだが残念だよ」
「ほんと……なんで私たちを置いていったんだろう。せめて最後に何かしら言ってくれても良かったのに」
アスティナの疑問にダリウスとミアが落ち込んだ表情を浮かべる。
リファドは自分がアレンを追放したことを二人には話していない。
それどころか、アレンが自分からギルドを抜けたのだと嘘をついて二人を納得させていた。
「……二人ともいつまでいなくなった奴の話しているんだ!」
「悪い悪い! 確かにアレンが抜けたのは痛いが冒険者が二人も入ってくれたもんな。それだけで心強いぜ」
「わーい! ありがとうございまーす! 私、新人冒険者なのでぇ分からないところ一杯あると思いますけど皆さんの足を引っ張らないように頑張りますねっ!」
「それじゃあ、準備を進めてくれ。今回の任務はミノタウロスの討伐だ。知性こそないがその身体能力はかなりのものだ気をつけて戦えよ!」
リファドの言葉に全員が頷くと彼らはミノタウロスを倒せるように準備を始めるのだった。




