隠れた優しさ
「さっきは助けてくれてありがとう! お前がいなければ死んでいたぜ」
アレンとベルフェの戦いが終わって数分後、意識を失っていた人達が目を覚ましアレンに感謝を述べる。
その中の一人。ギルドリーダーの男もまた他の冒険者がそうであるように深々と頭を下げて感謝を口にした。
「同じ冒険者なんだ助け合うのは当然だろ」
アレンはそれだけ言ってその場を去ろうとする。
アレンの目的は薬草を集めること。それ自体は終えているのでもうこの場にいる意味はなかった。
しかし、そんなアレンを男は引き止めると金貨の入った袋を彼に差し出した。
「これは……」
「金貨三十枚。良かったらこれを受け取ってくれないか。助けて貰って礼をしないのは冒険者として恥だと俺は思っている。だから受け取ってくれ」
「いや……金貨三十枚って大金じゃないか。受け取れるわけがないだろ」
「頼む! 俺の金貨を受け取ってくれ! 命を助けられたんだ! 俺もお前の力になりたいんだよ!」
「いや気持ちだけ受け取っておくから」
「そんなこと言わないでくれ! どうか俺に冒険者として礼をさせてくれ!」
アレンは断ろうとするが男はずっと金貨を受け取って欲しいと頼むばかり。
どうしたものかと困っているとシアがそっとアレンに話し掛ける。
「アレン様……ここは貰ってあげては如何でしょう」
「いや、そうは言うけどな」
「アレン様は謙虚で優しきお方。故に貢ぎ物を受け取ることに遠慮を覚えてしまうのも仕方のないことだと思います。ですが貢ぎ物を受け取って貰えないことそれもまた苦しいことなのですよ」
「何故苦しむんだ?」
「アレン様の崇高さを前にして貢ぎ物をしたくなるのは人間として当前のこと。だというのに貢ぎ物を受け取って貰えないとなるとそれはアレン様に拒絶されたことと同じ、そうなればこれから先の人生、彼は生きる希望を失ってしまいます」
アレンは男の方を見る。男は真剣な表情で金貨を自分に渡そうとしている。
きっとこれが彼なりの礼儀なのだろう。自分はそれを拒否しようとしていたが、きっとそれは自分勝手な振る舞いだ。
金貨はいらないと拒絶することは彼の感謝の想いもまた否定することになるのだ。
「分かった。金貨受け取るよ」
「金貨を貰ってくれてありがとうな! それじゃあまたどこかで会ったらよろしく頼むぜ」
男は金貨を差し出して満足したのか、それだけ言うとそのままギルドの仲間を連れて帰っていった。
アレンはそんな彼らを見送ると彼らから貰った金貨で何をするか考えるのだった。
ーーー
「はい! こちらが報酬の銅貨二十枚です」
「ありがとう」
アレンは銅貨二十枚を受け取ると仲間達にそれを渡す。
後は家に帰って今日はゆっくりと休むだけだったのだが。
「おいおい! なんでこんなところに魔族がいるんだよ」
帰ろうとしているアレン達に一人の冒険者が声を掛ける。
それに対してアレン達は特に気に掛けるようすもなくこの場を去ろうとするがベルフェの前に先回りして進むのを妨害する。
「……なに?」
「あのさぁ。ここは冒険者が集まるところなんだよ。悪いけど魔物が来るようなところじゃねぇんだよ」
「そんな決まりはないでしょ?」
「決まりの話はしてねぇよ! こっちが言いたいのは常識の話をしてんだよ!」
その瞬間、冒険者が剣を取り出してベルフェにその切っ先を向ける。
「おいおい! 辞めとけよ」
「兄ちゃんじゃ勝てねぇって!」
「黙ってろよ! 勝てるかどうかの問題じゃねぇ! 俺は魔物が嫌いなんだ!」
冒険者の高圧的な振る舞いに他の人達は止めようと声を掛けるがそれを言い返して黙らせる。
彼もそれなりの実力者なのかもしれない。
だがそれでもベルフェと戦うには分が悪すぎる。
それをベルフェ自身も分かっているので何とか相手にしないようにしていたのだが。
「知ってるか? 人権が保障されるのは人間だけなんだ。つまり魔物は殺しても問題ないんだよ!」
それだけ言うと冒険者は剣を振るう。それに対して最初に動いたのはベルフェではなくアレンだった。
アレンは冒険者の剣を刃で受け止めると相手の冒険者を睨み付けた。
「……辞めろ。ベルフェは何もしてないだろ」
「見た目が女の子だからって何庇ってんだよ! こんな見た目でも中身は人を惑わし殺すのが大好きな化け物なんだ。お前は魔物の味方をするのかよ!」
「俺は魔物の味方をするんじゃないベルフェの味方をするんだ。ベルフェは俺の仲間だからな」
「だったらお前も殺すだけだ!」
怒鳴り声と共に冒険者は剣を握りアレンに斬りかかる。
だけどもその瞬間、冒険者がその場でゆっくりと倒れる。
剣が重い、身体が重い、呼吸が上手く出来ない。
彼は自分の身体に何が起きたのか分からず、怯えたような表情でアレンを見た。
「怠惰の魔法。予想以上に強力だな……」
アレンは静かに自分のコピーした魔法を確認すると目の前で倒れている冒険者に声を掛ける。
「お前が魔物を嫌おうが別に構わない。個人の気持ちを否定はしないさ。だが次俺の仲間を攻撃したら……どうなるか分かるよな?」
アレンはそう言うと冒険者の頭を踏みつける。それに対して冒険者は苦しみながら小さな声で謝罪の言葉を口にした。
「ごめん……なさいっ……ごめん……なさいっ」
「いいだろう。許してやるよ」
アレンは最後に冒険者を蹴り飛ばして協会を去る。
協会を出たアレン達を見て他の冒険者はその実力に驚愕する。
アレンに絡んできた冒険者のギルドランクはAランクでかなりの実力者で有名だった。
それを何もせずに倒してしまった。その事実に彼らはアレンという男にそして彼らのギルド、レボルシオンに尊敬と恐怖の想いを抱くのだった。
ーーー
「さっきはありがとう……助けてくれて」
宿屋に戻る最中。ベルフェはアレンにそっと声を掛ける。
アレンはそれに対して特段、表情を変えずに口を開いた。
「別に気にする必要はないよ。俺は只、仲間を侮辱されるのが嫌だったんだ」
「……それだけじゃないよね? それを含めてありがとうって言いたかったんだ」
「……何の話をしているんだか」
アレンはベルフェの言葉に曖昧に答える。だけども本当は彼女自身も彼のもう一つの隠れた優しさに気づいていた。
彼がベルフェを助けた理由。それは勿論冒険者に苛立った理由もあったがそれ以外に彼女に人殺しをさせない為でもあった。
ギルド同士の殺し合い。これ自体は何も珍しいことではない。
だが協会という冒険者が集まるところで魔物のベルフェが冒険者を殺すと彼女への心証が悪くなる。
そうなればベルフェが他の冒険者に嫌がらせを受けることもあり得るだろう。
そういったことを避けるためにアレンはベルフェの前に立ち先に冒険者を苦しめたのだ。
「さて、ここが俺たちの宿だ」
しばらく歩いて自分達の宿に着いた。格安の宿なので見た目はボロボロでその貧相な見た目にベルフェは驚く。
「……ボロいね」
「無礼な。いいですか例えどれだけ宿がボロくてもアレン様が泊まっているそれだけでどの高級宿よりも価値のある宿なのですよここは」
「安心しろ。この宿に泊まるのもあと数日だ」
アレンはそう言うと少し前に貰った金貨袋を見せる。
「そう言えば金貨貰ってたね」
「そうだ。これで家を買おうと思う」




