怠惰のベルフェ
「それで相手は人語を話す魔物だったんだな」
「はい。しかも頭には角が生えていました。見た目は普通の女の子に近かったです」
森の中、金髪の冒険者ーーアイリが静かに答える。
それを聞いてアレンは面倒な事になったと内心で思う。
魔物で人語を話す、更に見た目が少女となれば少なくともSランク以上の魔物が相手だということだ。
能力が高い魔物は人間に近い造形をしていることが多い。
知能も人間と変わらないので戦闘で取る行動も厄介なものが多くなる。
「アイリだったか……覚悟しておいた方がいいかもな。状況によっては助からないかも知れない」
「わ、分かりました」
アイリはそう言うものの、声に元気はない。
ここまで走りながら彼女の話を聞いたがアイリのギルドはAランクギルド。
つまりそれなりに熟練者が集うギルドだということだ。
だというのに彼女達はその魔物に攻撃を当てることすら出来なかったのだという。
それだけ今回の魔物は強いということだろう。
「見えました。あの青髪の女の子です」
「確認した。どうやら他の冒険者達もまだ生きているようだな」
アイリに案内されて森の中に辿り着く、そこでは一人の少女が静かに立っておりそこから少し離れた所で冒険者が五人ほど倒れていた。
まだかろうじて息はあるようだが、呼吸は浅くいつ死んでもおかしくない状態だった。
「予想以上に可愛らしい姿をしているな」
アレンは静かに少女を見る。綺麗な青髪のショートヘアーに同じく透き通るような青い瞳。
顔は可愛らしくそれでいてどこか怠そうな顔をしている。
「ありがとう。そのまま好きになってもいいんだよ?」
「それは辞めておくよ。だってお前、もうじき死ぬだろ? 俺に殺されて」
アレンはそう言うと発火魔法を発動させて目の前の少女を燃やす。
本来ならばある程度の魔物であれば一瞬で灰になる彼の発火魔法。
だが、その少女は炎に包まれているのに身体は一切灰にならなかった。
「アレンの魔法に耐えているの?!」
「回復魔法で相殺しているみたいだな」
発火魔法は元々葉っぱを燃やすぐらいのことしか出来ない魔法。
それをアレンが使うことで見ただけで殺せる魔法となったわけだが。
魔法の耐性がある魔物相手にはその火力の低さが露呈するようで回復魔法で防がれてしまうようだった。
「だったら火力を上げればいい話だ」
アレンは発火魔法を重複させる。それにより炎は赤から青色に変わる。
火力が変わったことで少女の身体が徐々に焼け始めた。
「くっ……流石に面倒。お兄さんもしかして勇者ギルドの人? 勇者相手とは戦いたくないんだけどなぁ」
少女はそう言うと慌てて木の影に身体を隠した。
発火魔法は視界に映るものを発火させる魔法。故に視界から外れれば発動は出来ない。
「残念ながら普通の冒険者だ。いずれは勇者になるつもりではあるが」
アレンはそう言うと倒れていた冒険者達に強化魔法を掛ける。
すると苦しんでいた冒険者の呼吸が安定する。意識は失ったままだがこれで命の危機はないだろう。
「弱体化魔法か。それでさっきの冒険者達を倒したのか」
「もう私の魔法バレちゃったんだ。凄いね、しっかりと敵の魔法や動きを見てる」
「念のために聞いておくがお前の名前は?」
「ベルフェだよ。怠惰のベルフェ……冒険者なら聞いたことあるんじゃない?」
「怠惰のベルフェってあの魔王幹部のベルフェよね? なんでそんなのがこんなところにいるのよ」
「ここは弱い冒険者が多いからね。楽に倒しやすいと思ってきたんだよ。だからお兄さんみたいなのが来るのは予想外なんだよね」
ベルフェは心底面倒そうに話すとアレンに対して弱体化魔法である怠惰を発動させる。
彼女の魔法ーー怠惰は対象の全能力を低下させる魔法。
故に相手の魔法や身体能力は勿論、身体機能までも弱体化させることが出来る。
当然それを受けた人間は最終的に心臓が停止して死ぬはずだが。
「……どういうこと? 魔法が効いてない」
「俺に弱体化魔法は通用しない。相手が何かしらの魔法を掛けても問題ないように自動で相手の魔法を無効果する魔法が発動するようになっているんだ」
自分のデメリットになる魔法を自動で無効化する魔法。
これによりあらゆる魔法をアレンは防ぐことが出来る。
「弱体化魔法が効かなくても……!」
ベルフェは今度は魔方陣を展開して漆黒の光をアレンに向けて放つ。
だがそれはアレンに当たる直前で消えてしまう。
「悪いが攻撃魔法も無効化出来る」
アレンはそう言うと魔方陣を展開して黒い光を放つ。
それは先程までベルフェが使っていた漆黒魔法だった。
「同じ魔法……! 発火魔法に強化魔法、なんでそんなに多くの魔法が……!」
ベルフェは何とか漆黒の光を避けるとすぐに倒れていた冒険者から剣を奪うとアレンに接近する。
魔法が効かなくても物理攻撃ならば倒すことが出来る。
ベルフェは剣を勢いよく振るう。そしてそれはアレンの肩に直撃するのだが。
「そんな……」
彼女の振るった剣が粉々に砕ける。アレンの防御魔法によって剣の方が壊れてしまったのだ。
思わぬ状況に困惑するベルフェ。そんなベルフェに対してアレンは剣を素早く取り出して彼女の胸を貫いた。
「くっ……」
「これで終わりだな」
「これぐらいの傷。回復魔法で……かいふく……まほうで」
瞬間、彼女は回復魔法が使えなくなっていることに気づいた。
それどころか身体が重たくなって立つことが出来ずに地面に倒れる。
「これは……私の魔法」
漆黒魔法に弱体化魔法。この二つを使われたことで彼女はようやく彼の魔法がコピーであることに気づいた。
だが気づいたところで勝負は付いている。仮にもっと早くコピーに気づいたとしても勝敗は変わらなかったであろうことは彼女自身も理解していた。
「さて燃やすか」
「待って……降参するよ」
アレンが燃やして消そうとしたところをベルフェが何とか止める。
もはやここから生き残る為には降参する以外に道はない。
「私、結構強いし。勇者ギルドを目指すお兄さんの役に立てると思うけどなぁ」
彼女の提案についてアレンは考える。確かにべルフェの実力は魔王幹部というだけあって申し分はない。
しかも弱体化魔法や漆黒魔法、何より自分以外に回復魔法が使える仲間が一人増えるのは大きなメリットだった。
「……確かにこれからの事を考えたらお前の力は役に立つかもな。分かったよ、仲間にする。ティアナとシアはそれでもいいか?」
「私は別に構わないわよ。正直、ベルフェが強いのは戦いを見てたら分かるし仲間になるなら心強いぐらいよ」
「私はアレン様を信じています。それがアレン様が決めたことでしたら逆らいはしません」
「よし決まりだな。これからは俺たちギルドの一員として頑張ってくれ」
アレンが弱体化魔法を解除する。するとベルフェは自分の肉体を回復させてゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう。アレンでいいんだよね? これからよろしく」
そう言ってベルフェはアレンに近づくと背伸びをして頬にキスをした。
それに対してアレンは特に反応は無かったがシアは大慌てしていた。
「な、何をしているのですか!? 崇高なアレン様に」
「キスだけど……仲良くなるにはこれが一番だと思って」
「そんなわけないでしょう! うぅ……アレン様……こんな悪魔に惑わされてはいけませんよ。アレン様を崇拝し尊敬しているのはこのシアなのですからね」
すると今度はシアがアレンに近づいてその腕をぎゅっと掴む。
それに対してベルフェも対抗してアレンの身体にぴったりと引っ付いた。
「……動きにくい」
そんな二人にアレンは溜め息を吐くのだった。




