魔王とアレン
「アレン様料理できましたよ! 料理!」
食堂の中、シアが料理を作ると自分達に配る。肉と野菜がふんだんに使われたスープの料理。
ギルドを追放されてからは節約にとあまり良いものを食べることが出来なかったので、こうして食べ物ではなく料理が食べれることで生活が良くなってきたなと実感する。
「ありがとうな。俺は料理とか出来ないからな」
「料理が出来ないなんて素敵です! その分、私が沢山料理を作ることが出来て食べて貰えるってことですから!」
「アレン……その……このスープは私も手伝ったの。変な味とかしてないわよね?」
「いや大丈夫だ。凄く美味しいよ」
アレンはそう言ってスープを美味しそうに食べる。
そんな彼を見てシアもティアナも嬉しそうに笑った。
「なんていうか貴方って本当に料理を美味しそうに食べるのね」
「ティアナさんの言う通りですね。料理を美味しそうに食べてくれると私たちも何だか嬉しくなります。きっとアレン様は料理を美味しく食べて作った人を幸せにする才能があるのだと思います」
「実際美味しいからな。二人ともありがとう」
「べ、別に私は……手伝っただけだし」
「これも全てはアレン様の為ですから! これからも美味しい料理を提供させて頂きますね!」
ティアナは照れながら、シアは嬉しそうな反応をしながらスープを飲む。
そんな二人を見てベルフェが口を開いた。
「料理……明日私が作ってあげよっか?」
「ベルフェさんが料理できるんですか」
「私、こう見えて料理得意だよ」
「なっ……ダメです! アレン様の料理を作るのは私の生き甲斐なのですよ!」
「別に毎日作るわけじゃないんだし、それに美味しい料理を作ればアレンは私のこと好きになってくれるかもしれないでしょ?」
「そんな簡単に恋に落ちるわけないじゃないですか! ……落ちたりしないですよね? アレン様?」
「いや、別に料理だけで他人を好きになったりはしないが……」
「流石はアレン様です。アレン様はどんな誘惑にも流されない強い心を持っているのですよ」
「でも、私の料理は食べてみたいよね?」
「……確かに食べてみたいな」
「アレン様!?」
ーーー
「ベルフェ……実はお前に聞きたいことがあるんだが」
食事が終わった頃を見てベルフェに話し掛ける。
自分の声のトーンが少し重たげだったのを察してか不思議そうな表情で彼女はこちらを見る。
「どうしたの?」
「……嫌なら言わなくていいんだが。ベルフェは魔王の幹部なんだろ? 今魔界はどうなってるんだ」
人間と魔物が戦争を始めて数千年。未だに争いは続いており、人間と魔物は殺し合いを続けている。
勿論それはゴブリンやミノタウロスといったいわゆる理性のない魔物ではなくベルフェみたいな人間に近い魔物との戦争だ。
今すぐにそういった魔物と戦うことはないだろうが、ギルドのランクが上がれば……勇者ギルドになれば人の形をした魔物と戦うことは避けられないだろう。
だからこそこれから戦うことになるであろう魔物のことを知っておくべきだと思ったのだ。
「今魔界がどうなっているか……に関しては分からないとしか答えられないかな」
「分からないって貴方、魔王幹部ではないのですか?」
「シアは分かってないみたいだけど、魔王は既に死んでるんだよ。だから魔王幹部だったのも昔の話」
「えっ!? 魔王さん死んでるんですか?」
「二十年前に行われた魔王討伐作戦。確かそれで魔王が討伐されたんだよな」
それは冒険者ならば誰でも知っている常識。
元々は一万人規模の騎士団と勇者ギルドの連合軍で魔王城に攻め入ったのだが生き残ったのはたったの二人だけだった。
だがその被害に見合った成果は出ており、念願の魔王討伐に国民は歓喜し生き残った二人は英雄と讃えられた。
その生き残りの一人は国王となり、魔物の殲滅に力を注いでいる。
そしてもう一人の噂は聞かないが、確か病死したとかそんな話を以前別のギルドにいた時に聞いたことがあった。
「魔王が死んで魔界は大混乱。すぐに誰が魔王を継ぐのかで話し合いになったんだよ。それで魔王の一時的な後継者として私たち魔王幹部六人が候補として上がったんだ」
「……一時的な?」
「それは後で話すよ。それで自分こそが魔王を継ぐものだって魔王幹部が争い始めて私はそれが嫌でこの国に逃げてきたんだよね」
「だから最近のことは知らないと」
「そういうこと。だから今の情勢がどうなってるのか私には分からないよ。しばらくは人間として潜伏して暮らしてきたからね」
「人間として潜伏って角でバレるのでは?」
「別にこれぐらいなら見えなくすることは可能だよ。もっとも魔力を消費するからあんまりやりたくはないんだけどね」
ベルフェはそういうと角を消して人間の姿になる。
もっとも魔力の消費が嫌なのかすぐに元の姿になったが。
「そう言えば気になったのですが魔王は討伐されたのですよね? そして幹部たちはバラバラになり争いを始めている。なのに人間側が積極的に他の幹部を倒しにいかなかったのは何故なのでしょうか?」
「それだけの余裕が無かったんだろうな。一万の軍勢は恐らくだが全て精鋭だったはずだ。それが二人しか残らなかった……つまりこれ以上は戦える余裕がなかったんだろう」
「それに私たちとしては魔王が死ぬことは問題ではなかったからね。どちらかというと幹部のアスモデウスが亡くなったことの方が悲しかったぐらいだし」
「……魔王が死ぬのが問題ないか。さっきの一時的ってのと関係があるのか?」
ベルフェはそれに対して薄い笑みを浮かべる。
彼女が不適な笑みを溢すのは珍しいことではない。
だけどもその笑みは今までの笑みとは違い人間にとって残酷な意味が含まれていた。
「単刀直入に言うと魔王は死んでないんだよ」
「死んでない?」
「正確には蘇るっていうのが正しいのかな。転生魔法で魔王が死んだら生まれ変わるようになってるんだ」
「それなら何も幹部同士で争わなくても良かったのでは?」
「指揮する人は必要でしょ? それに転生するっていっても何年後に転生するか分からないし、転生した後は赤ちゃんから育つわけだから少なくとも成人するまでは誰かが魔王になる必要がある」
「だからこその一時的か……」
「私はね。アレンが魔王なんじゃないかって思ってるよ」
ベルフェはこちらをじっと見ながら静かに呟いた。
「俺にはそんな記憶ないな」
「記憶はいつか思い出すかも知れない。転生魔法自体使った回数は多くないから何が起きるのかは分からないんだよ」
「俺が魔王か……悪いが信じられないな」
「あくまで憶測だからね。ま、私としてはアレンが魔王でもそうでなくてもどっちでもいいんだけど」
「魔王幹部なのに随分と冷めた意見ではないですか」
「正直、アレンが魔王でも魔王じゃなくてもどうでもいいんだよ。私はアレンが好きだから、アレンと一緒に居られるならそれで幸せなんだよ」
「それに関しては同意します。例えアレン様が魔王だったとしても私たちはずっとお側におりますので」
「アレンが魔王ねぇ、でも確か魔王って女性なんじゃなかったっけ?」
「えっ……そうなのですか?」
そもそもの話。魔王も魔王幹部も全員が女性ではある。
だが転生魔法を使えば男に転生することもないわけではないだろう。
どっちにしろそんな記憶はないので自分としては違うと思っているのだが。
「俺が魔王だろうと人間だろうと目指すのは幸せになること……それは変わらない。だがそれは俺一人では出来ないことだ。三人とも俺がどんな奴でも付いてきてくれるか?」
自分の言葉に三人ともが勿論と頷く、自分が魔王かもしれない、そんな事を言われたが自分の目標は変わらない。
勇者ギルドになって幸せになる。ただそれだけの為に頑張るだけだ。




