レボルシオン
「なるほど、ギルドに入るのではなくギルドを作るってことね」
いつもの酒場。そこで自分はティアナに昨日あった出来事を全て話す。
ティアナはしばらく考えている。どうやら悩んでいるみたいだ。
「何か悩むことがあるのですか? アレン様がギルドの仲間として貴方を誘っているのです。これ以上の名誉はないと思うのですが」
「そうね。シアちゃんだっけ……確かに私としてもアレンと一緒に冒険したいって気持ちはあるわ」
「だったら悩む必要なんてないだろ」
「そう分かっているんだけどね。また夢を目指して裏切られないかって不安なのよ。私は夢を諦めたわ。何度も色んなギルドに拒絶されてそれで諦めた方が楽だって気づいたの」
「だから今も目を背けるのか」
ティアナは自分の顔を見ようとはしない。彼女の言いたいことは分かる。
夢なんて見ない方がいい。見たら覚めたときに苦しくなる。
だから夢から目を背けている。今のティアナにとってアレンという存在はかつて自分が憧れた夢そのものだった。
そんな彼が眩しすぎるから目を背けるしかないのだ。
「別にいいのよ。冒険者のままでギルドに入らなくたって」
「ならティアナはなんで冒険者をやってる。生活費を稼ぐだけなら冒険者なんて危険な仕事よりもっとマシな職に付けばいい」
冒険者をソロでやる意味なんてほとんどない。儲けは悪いし危険だしソロだとEランクの任務しか出来ないから誰にも認められない。
それでも彼女が続けてきたのは本当は勇者ギルドに入ることを心のどこかでは諦めていないからなんじゃないのか。
「儲かっているからよ。冒険者で十分生活できているから続けているだけ」
「ティアナは昨日。腕にした怪我を治し忘れてたよな」
「な、なによ。それがどうしたっていうのよ。単に気づかなかっただけでしょ」
「冒険者なのにか? 剣を握る冒険者は自分の腕の状態を特に気にかけているはずだ」
その時の任務は薬草採取。その依頼金は薬草の数によって増加する。
彼女は自分の傷を治し忘れてたんじゃない。治せなかったのだ。少しでもお金が必要だから。
「本当は勇者になりたいんだろ? 分かってるよ。夢が叶わなかった時の気持ちは……でもそれでももう一度俺と一緒に夢を見て欲しい」
「……アレン」
ティアナはようやくアレンを見る。それはかつて叶わなかった夢、叶えられなかった夢。
眩しすぎて目を逸らしてきた存在、それでいてずっと心に残り続けていた存在。
だけども不思議と今は眩しくない。しっかりと夢をアレンを見ることが出来る。
「悪いけど一緒に夢を見るなんてのはお断りよ」
「……っ!」
「夢を叶えるんでしょ! 見るんじゃなくて一緒に夢を叶えましょう!」
「……ティアナ」
ティアナはアレンをしっかりと見る。正直、また夢が破れるかも知らない。また自分の惨めさに苦しい思いをするかもしれない。
だけどもその恐怖よりもアレンをーー彼を信じたい気持ちの方が今は大きかった。
「これからよろしくアレン」
「ああ、一緒に夢を叶えよう! 俺たちで幸せになろう!」
気がつけばアレンはティアナの手を握っていた。
その事にティアナもアレン自身も気づいていなかったが今気づいてティアナは慌てて引っ込める。
その表情は赤くて恥ずかしそうに彼女は俯いた。
「どうかしたのか」
「なんでもないわよ! それよりも行きましょう! ギルド登録しないとだしね」
「そうだな」
ティアナの言葉に頷くとアレンはギルド登録が出来る場所【冒険者協会】へと向かうことにした。
ーーー
冒険者協会。それは冒険者の任務やギルドの登録などを行う施設だ。
また冒険者協会とは別に勇者協会も存在しており、そこはSSSランクのギルドだけが入れる勇者専用の任務受付場所だ。
アレンは早速冒険者ギルドに入り、受付嬢に話し掛ける。
「アレンさんじゃないですか! 今回はやっぱり新たなギルド募集を探しにでしょうか?」
流石に受付嬢なら自分が既にギルドを追放させられたことは知っているらしい。
どこか心配するような表情で受付嬢は尋ねてくる。
だけどそんな彼女の表情に対して自分の表情は明るい。
だって最高のギルドが今から結成されるのだから。
「いいや、ギルド募集じゃない。ギルド登録だ」
「ギルド登録! そうかそれなら追い出されませんもんね。分かりました。ではギルド登録の手続きを始めますね」
受付嬢はそれ専用の紙を用意する。そしてそれにアレン達の名前とギルド名を書くだけ。
ギルド名は【レボルシオン】革命という意味を持っている言葉だ。
アレンはその名前を書き終えると受付嬢に渡す。
「ギルド名【レボルシオン】登録完了しました。それでどうしますか? このまま任務を受けられますか?」
受付嬢の言葉に頷くアレン。勇者ギルドに入るためには多くの任務を達成しなければならない。
ならば登録して終わりとはいかなかった。アレンは早速Eランクの軽い任務を受けるとみんなでその場を後にするのだった。
ーーー
リベアの草原。ここは初心者向けの場所として有名な場所だ。
街から近いし、魔物も低級の魔物が多くゴブリンやオークといった弱めの魔物ばかり。
上級の魔物になると頭脳を使い。人間を誑かす魔物が多いが低級の魔物は本能に従って行動することがほとんどで対処もしやすかった。
「ここなら実力を確認するのにも丁度いいだろう」
「実力ですか?」
「そう。まだお互いにどれだけ魔物と戦えるのか分からないだろ。だから魔物と戦って実力を確認するんだ」
「流石はアレン様。その思慮深さに驚きました。それで何をすれば良いのでしょうか」
「とりあえずシアはどんな魔法が使えるんだ」
「私の魔法は神降ろしです。その名の通り、天界におられる神を私の体に降ろしてその能力を自由に使える魔法です」
シアはそういうと早速神降ろしを発動させる。その瞬間、シアの背中に天使の羽が生えて頭には輪っかが出現した。
「憑依魔法の一種か。話を聞く限りだとかなり強そうに思えるが、実際そこにいるゴブリンを倒せるか?」
「やってみます」
シアはそういうと魔法陣を出現させてそこから光の弓矢を出現させると弓を引く。
だがその方向はゴブリンのいる方向とは違う真横に矢を構える。
そしてシアは矢を放つ。当然、それはゴブリンではなく真横に真っ直ぐ矢が飛ぶはずだ。
だがその矢は直角に曲がり、ゴブリンがいる所へと移動し、ゴブリンの胸を貫いた。
「今回降ろした神は弓矢の神キューピット。故に今の私が放つ矢はどこから射っても必ず相手の心臓目掛けて放たれます。盾とか剣とかで簡単に防がれはしますけどね」
「それだけ聞くと見事な魔法だが……」
アレンはシアを見る。いつの間にか彼女の天使のような姿は解除されており、そのまま膝に地面を付いた。
額には凄い汗、更には口からも血が僅かに出ていた。
「魔力切れか……それに身体の負担も掛かるみたいだな」
「も、申し訳ありません。私の魔法は神様を降ろすことができ、その神様によって能力が変わります。そして能力が強力な神であるほど身体の負担と魔力の消耗が大きくなるのです」
「ちなみに今回降ろした神様の能力は強かったのか?」
「能力で言えばかなり弱い方ですが、それでもかなりの高負荷が」
「分かった。ありがとうな」
アレンはそういうとシアに治癒魔法を施し、身体に掛かった負荷を失くす。
そしてティアナが持ってきた魔力ポーションで魔力を補給して完全に回復させる。
「お二人とも感謝します」
「確かに強力な魔法だが、一回矢を放つ度に動けなくなるのは困るな」
「うぅっ……」
「気にするな。そもそも本来冒険者で大事なのは魔法だけではなく剣の腕だ。ベテランの冒険者でも戦闘中になると魔力が切れるのは珍しいことじゃない。そういう時にどれだけ剣で戦えるかが重要になってくる」
「アレンが魔力切れになったところなんて見たことないけどね」
「俺は魔力切れがないからな」
もしかしたら限りがあるのかも知れないが自分は沢山冒険をしてきたが今までに一度たりとも魔力が切れたことがなかった。
本来ならば冒険者は魔法を使うと魔力が消費され、魔力がなくなると共に身体に大きな疲労感を感じるようになる。
そして最終的に魔法が出せなくなり、それでも使おうとすると意識がなくなり絶命することもあるのだ。
「アレン様は魔力切れがないのですかっ! 普通の人間だと長時間魔法を使えばすぐに魔力切れを起こすのに凄いですっ!」
「それよりシア。お前は剣でどれだけ戦える?」
「私、魔物と戦ったことないんですよね。大丈夫でしょうか?」
シアは不安そうに尋ねる。確かにシアは自分やティアナと違って冒険者としての経験があるわけではない。
だから不安になるのも仕方がない事だろう。そんな彼女に自分はそっと肩に手を置いて彼女を安心させる。
「いざとなれば治癒魔法で助ける。それにゴブリンは弱い魔物だからな、今のお前でもいい戦いが出来るはずだ」
「アレン様……かしこまりました」
そっとシアは肩に触れていたアレンの手にシア自身の手を置くと覚悟を決めたように剣を構えた。




