存在しないもの
「アレン! 貴方を殺してやる! 貴方を殺して私は幸せになるの!」
「な、何を言っているんだお前は!」
アレンとシャルは互いに空中で戦闘を行っていた。
もっともそのほとんどがシャルの攻撃。シャルは自分に無数の強化魔法を使い身体能力を強化するとアレン目掛けて何度も刃を振るう。
それをアレンは剣で対応して相手の攻撃を全て封じていた。
「どうしてそこまで俺を嫌う!」
「貴方がリファドに好かれているから! リファドはいつも貴方のことばかり話すわ! アレンが強いだのアレンのおかげで助かっただの……それを聞く度に私の心は辛くて苦しかったのよ!」
「それは勘違いだ! リファドは俺を追放した! つまり俺を嫌っていたということだ」
「違うわよ! アンタを追放するように命じたのは私なのよ?」
「なんでそんなことを!」
「決まっているじゃない貴方のことが嫌いだったからよ! 貴方がいるせいでみんなアレンのことを評価して愛していたわ! 誰も私をみてくれなかった! だからみんなに評価されてみんなに愛されていたアンタが嫌いだったの!」
シャルはそういって剣を振るう。それをアレンは同じく刃で受け止めるが彼女の装備の方が性能が上なのか一回受け止めただけでアレンの装備はぐしゃりと潰れてしまった。
だが、アレンはすぐに新しい刃を出現させるとシャルの身体に刃をぶつけて後方へと下がらせる。
「そんなの逆恨みだろ!」
「逆恨みだって恨みなのよ!」
シャルはそう言うと錬成魔法を使い黒い物体を何個も出現させる。
そしてそれを念動力の魔法を使ってアレン目掛けてぶつける。
アレンはそれを漆黒魔法の光で消した瞬間、巨大な爆発が起こった。
「これは……爆弾か!」
「貴方に魔法攻撃は効かない。ならば物理攻撃で倒すまでのこと」
無数の爆弾がアレン目掛けて凄まじい速度で飛んでくる。
それらを次々と発火魔法、漆黒魔法などで対処していくが結局対処できずにアレンに直撃する。
無数の爆弾がアレンに衝突し、沢山の爆発が起こる。
その爆弾一つ一つが城壁を破壊出来るほどの高威力の爆弾。
やはりそれに対してダメージはあるのかアレンも少しだけ痛そうにする。
しかし複数の爆発に巻き込まれたのに怪我はなかった。
「き、効いていないっていうの!?」
「痛いに決まっているだろ! だが、これぐらいの威力なら俺は負けない」
アレンは手を翳して魔方陣を展開する。それは漆黒魔法の魔方陣。
すぐにシャルは攻撃を避ける準備に入るが、漆黒魔法は発動されない。
そうシャルが不思議に思った瞬間だった。突然彼女の片腕が消滅した。
「えっ……」
「透明魔法を使ったんだ。今の俺は見えない魔法攻撃を撃つことが出来る! もうお前に勝ち目は……」
そこまで言ってアレンは固まってしまう。シャルは突然言葉を言い淀む彼を不思議に思いながら彼の視線を追う。
彼の視線はシャルの片腕が消滅した箇所を見ていた。
一体何事かとシャルも視線を移してそして同じように絶句する。
だってシャルの失った片腕、そこから溢れ出た物ーーそれは無数の光で出来た触手だったからだ。
「な……なによこれ」
「ずっとおかしいとは思っていた! いくら強くなったとはいえ、本来人間が使える魔法は多くて二種類が限界。なのにお前は沢山の魔法を使っている……一体何をしたんだ」
「禁術って言っていたわ」
「そんなものが本当に存在するのか……これは禁術というにはあまりにも」
どちらかというと目の前の光景は禁術というよりは別の生命体が体を侵食しているようなそんな状態に近いように見えた。
まるで人間という生物。そのものが別の存在に成り代わりつつあるようなそんな感覚。
シャルもその自覚はあるのか自分の腕から生えてきた触手に顔を青くする。
だが、それも少しの間だけやがて憎悪の表情でアレンを見ると無数の触手を伸ばしてアレンに攻撃をする。
「何だっていいわ! 私の身体がどんな状態になっていたとしても! アレン! お前を倒すことが出来るのなら何だって構わないッ!」
「お前は勘違いしている……」
アレンは静かにそう呟くと見えない漆黒魔法を放ち、無数の触手を消滅させた。
ならばと今度は無数の爆弾を作り、アレンに飛ばそうとするがそれよりも早くアレンの見えない漆黒魔法がシャルに直撃する。
シャルは漆黒魔法によって一瞬で跡形もなく消滅した。
アレンは静かに先程までシャルがいた虚空を見つめながら静かに呟いた。
「シャル……お前は愛されていたんだよ」
シャルは嫉妬で目が眩んでいたのだ。リファドがアレンを追放したのはシャルが好きだったから。
リファドがアレンを再び仲間にしようと思ったのはシャルを死なせない為だ。
彼はずっと初めからシャルの為に動いていたのだ。
だけどもその想いは伝わらず、彼女は消えてしまったのだった。




