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何のために戦うのか

「いやーまさか貴方と戦うことになるとは思いませんでした」


アスティナは杖を構えながら目の前の悪魔ーーべルフェに向かって呟いた。

それに対してべルフェもまた静かに漆黒の杖を出現させて戦う意思を見せる。


「……強欲のアヴァル」


「今はアスティナって名前にしているんです。ほらアヴァルって名前可愛くないですから」


目の前にいる桃色髪の女性ーーアスティナはべルフェと同じく魔王幹部の一人だった。

恐らくは魔王が不在である今、彼女は新しい魔王として動いているのだろうとべルフェは考える。


「アスティナでも何でもいいけど……模擬戦では私に勝てなかった貴方が本当に私と戦うつもり?」


べルフェはそういうと杖を相手に向ける。それと同時に漆黒の魔方陣が現れて巨大な黒の光を放つ。

それをアスティナはひらりと避けると魔方陣を複数展開してべルフェに向けて漆黒魔法を放つ。

黒と黒の魔法の攻防。それは最初こそは互角の戦いが続いてきたが次第にべルフェがその場を圧倒しはじめていた。


それはべルフェが怠惰を使えるという点。それによりアスティナは彼女に迂闊に近づくことが出来ず消極的な動きをせざるを得なかった。

だが、不思議なことにアスティナは苦戦しているような様子は見られない。

何故だか余裕のある笑みでべルフェを見ていた。


「それで? なんでアスティナはここにいるの? もしかして私みたいに人間側についたとか?」


「まさか! 私の目的は昔と変わらず人間を滅ぼすことです。ですがその為には色々と実験をしないといけないのですよ」


恐らく実験対象は今アレンと戦っている女性なのだろうなと予測する。

問題はなんの実験をしたかだが、それをアスティナは教えるつもりはないようだった。


「そういう貴方こそ何故人間の味方に? 人間は私達をゴミのように扱う愚者達ではないですか」


「……」


「そもそも数十年前の勇者による侵攻だって和平を結んで油断した私達の隙を責めてきたものじゃないですか!」


無数の漆黒の光がべルフェにぶつかる。だがべルフェの魔法耐性の高さでその攻撃によるダメージはほとんどない。

そしてべルフェの杖から放たれる漆黒魔法も威力こそ互いがアスティナには当たらない。


だけどもそれは仕方のないこと。べルフェの杖はまだ未完成品。

故に標準がぶれているし本来の設計による高威力の魔法攻撃の連射が出来ていない状態だった。


「アレンは弱い人から順番に装備を用意しているからね。未完成品なのは仕方ないけど」


強力な漆黒魔法を放ったことで再度魔法攻撃を放つまで時間が掛かる。

仕方ないので自分の力で魔方陣を展開して漆黒の光を放つ。

無数の漆黒魔法がアスティナに当たるがアスティナも魔法耐性の高さゆえに火力が低い攻撃では勝負が付かない。


「攻めてくる騎士達に! 私達は言ったはずです! 和平は結んだと争う理由はないと! ですがアイツら人間は魔族との約束など守るわけがないとそういって沢山の子供達を! 村人を! そして大切な仲間だったアスモデウスまで殺したじゃないですか!」


「……やっぱりアスモデウスのこと」


「なのに何故貴方は人間側についているんですか!」


「私はただ……人間だって魔族と分かり合えるって思ってるから」


「本当はそんなこと思ってない癖に」


「なんでそう思うの?」


「さっきから魔法の出力が弱いからです! 明らかに貴方は弱くなっている! それは貴方が何の為に戦っているのか分かっていないからでは」


「……戦うことに理由なんていらないでしょ」


「戦うことに理由がないのに! 魔族の人達を殺すってことですか?」


瞬間、アスティナはべルフェに接近する。べルフェは慌てて怠惰を使って弱体化させようとするが精神的に動揺してしまい魔法の出力が安定しない。

そしてそのままアスティナは杖を振るいそれをべルフェは何とか杖で受け止める。


「人間が嫌いの癖に味方なんてするから」


「人間が嫌いでも味方したら悪いの?」


「いいえ? ですがきっと失望するでしょうね? 貴方のお仲間が」


「失望されるから……だから私は好きになろうしてるんだよ」


べルフェは杖を振るって相手を斬りつけようとするがアスティナはそれを避けると逆に杖を使って彼女の胸を貫いた。


「がはっ……」


「これで終わりです! 人間の味方をする魔族は殺します!」


「……ぐっ」


アスティナはべルフェの胸から杖を抜き取るとそのまま彼女の首を切り落とそうとする。

しかしその瞬間、アスティナは慌てて何もない虚空に手を翳す。

すると何もない空間から大剣を振るうユリノが現れてアスティナはその刃を受け止めていた。


「むぅ……バレてしまったの」


「貴方はディオルが相手をしていたはず!」


「なかなかの強敵だったの、きっと百万回戦えば百万回私が勝つぐらいには強敵だったなの」


「それは弱いってことなのでは?」


アスティナは戸惑いながらも後方へと下がる。その間にべルフェは回復魔法を使い貫かれた胸をゆっくりと治していた。


「助かったよ」


「別にそれはいいけど……大丈夫なの?」


べルフェが苦戦していたことはしっかりとユリノにも見られていたようで心配そうに彼女を見る。

それに対して大丈夫だと言いたかったがべルフェの心は動揺したままだった。


「よしよし、きっと何か悪口を言われたんだね。大丈夫なのべルフェが戦いにくいなら私がその分戦うだけなの!」


「ユリノ……」


ユリノはそう言うと姿を消してアスティナの背後へと移動して攻撃をする。

だけどもそれは簡単に避けられる。アスティナの実力はSSSランク。

故にユリノ透明魔法は簡単に気配によってバレてしまうのだ。


「獣人族ですか。貴方はどうして戦っているのですか? 獣人族は人間に虐められてきたはずです! 人間の為に戦うーー」


「黙れなの! 獣人族だとか人間だとかそんなのはどうでもいいの!」


「どうでもいい?」


「お前は! べルフェを殺そうとした! だから私は戦うの! べルフェは仲間だから!」


「……仲間」


「ちぇっ……べルフェみたいに悩めば倒しやすいのに」


アスティナは不服そうに言うと杖を使ってユリノと戦う。

ユリノは迷わない! ユリノは惑わない! だけどもユリノの実力ではアスティナにまるで届かなかった。

杖と大剣の攻防はすぐにアスティナが圧倒し始める。


「私は新魔王ですよ? 獣人が相手になるわけないじゃないですか!」


アスティナは漆黒魔法を放つ。その漆黒魔法を避けようとするが避けきれず何個か受けてしまいユリノは吹き飛ばされてしまう。


「……うぅっ」


「これで終わらせます!」


吹き飛ばされて動けないユリノに向けて漆黒魔法を放とうとするアスティナ。

だけどもそんなアスティナに向けて巨大な黒い光が放たれた。

アスティナはそれをまともに受けてしまい吹き飛ばされる。


「……べルフェぇぇッ! 戦う理由もない癖にッ!」


「ーーううん。今出来た」


杖を先端を向けながらユリノの方へと移動するとユリノの怪我を回復魔法で治す。


「確かに私は人間が嫌いだ。滅ぼしたいぐらいにね」


「でしたら!」


「でも……ユリノは私を守ってくれた。だから今はユリノを守るために戦う」


べルフェはそう言うと杖を天に向ける。それと同時に上空には巨大な魔方陣が形成された。

そしてその魔方陣から何千発という漆黒魔法が降り注いだ。


「こんな攻撃で」


アスティナは無数の降り注ぐ漆黒魔法を何とか防ぐ。

だが、それと同時に砂埃が舞って二人の姿を見失ってしまった。


「どこに隠れて……」


アスティナは辺りを探していると足音が聞こえてその方向に杖を構えて相手の攻撃を防ぐ。

するとガンッという鈍い音と共に振るった大剣が防がれて同時に虚空からユリノが姿を現した。


「透明化は私には通じませんよ」


「いいや……通じているよ」


瞬間、アスティナの動きが鈍くなる。それと同時にユリノの背後に引っ付いていたべルフェが姿を現した。


「二人一緒の透明化……!」


「ユリノの透明化は触れた対象も一時的に透明化されるんだよ。ユリノのことばかり注意していたのがダメだったね」


「くっ……怠惰で……身体が」


「悪いけど一気に倒させて貰うよ」


べルフェはそう言うと動きが鈍ったアスティナに向けて杖を振るう。

その杖はアスティナの首を切り落とした。それと同時に彼女は光の粒子となりその場から姿を消したのだった。

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