みんなが幸せになる方法
「よくもアレンを誑かしたな!」
「誑かしてなどいません! 私は自分の想いを伝えただけです!」
「その行為が誑かしてるんだ!」
リファドとシアが互いに刃をぶつけ合う。互いの装備の性能は互角、そうなれば後は剣を扱う実力の問題。
リファドとしては長い間、ギルドの冒険者として戦っていたのでそれなりに実力はあるつもりだった。
だけどもシアもそれなりにやるようで互いに決め手に掛けていた。
「貴様はアレンのことを何も分かっていない!」
「な、なにを……!」
「俺の方がお前よりも付き合いが長い! 俺の方がアレンのことをよく知っている! ならばアレンだって俺のところに来るのが幸せなはずだ!」
リファドは身体に風魔法を纏うと素早い動きでシアに攻撃をする。
しかしシアはその攻撃を簡単に避けると相手の腹部に刃を叩きつけた。
「ぐっ……! 俺はお前なんかに負けるわけにはいかない! アレンと数週間程度の付き合いで仲間のふりをするような奴にはな!」
アレンがギルドを追放したのは数週間前、つまりそれから彼女を仲間にしたのならば二人が仲間になった時間はそんなに長くないはずだとリファドは確信する。
そしてだからこそリファドはシアを許せなかった。
だってシアは僅か数週間の付き合いでアレンに信頼されていたから仲間としてアレンと一緒にいたから。
そして何よりも自分よりもアレンのことを考えているとリファド自身も理解しているから。
「仲間にとって大切なのはどれだけ相手を想っているかです! そこに時間は関係ありません!」
「だが! 一緒にいる時間が長くなれば想いは強くなるものだ! 俺とアレンの絆はお前よりも長い時間を経て錬成されたものなんだよ!」
リファドは刃を振るうがそれをシアは簡単に剣で受け止めてしまう。
風魔法を使っていて動きは有利なはずなのにリファドは完全にシアに圧倒されていた。
「なるほど……一緒に時間を過ごせばより想いは強くなるですか。でしたら私とアレン様はもっと親しくなりますね」
「なにっ!」
「だって私にはこれからがあります。貴方と違ってね」
「貴様ッ!」
「それにです! それだけアレン様を大事に想っていたのならば何故貴方はアレン様を追放したのですか!」
「それは……俺にだって事情が」
「だから何ですか! 私はアレン様のことが大好きです! 崇拝しています! 信仰しています! だから私はどんな時だってアレン様のお側にいるつもりです!」
シアは地面を蹴りあげて一気にリファドに斬りかかる。
リファドは何とか受け止めるが、彼女の攻撃に完全についていけていない。
「お前には分からないだろ! 俺は確かにアレンの仲間だった……今だって仲間だと思いたい! だが同時に俺はシャルの恋人なんだ!」
リファドは風を纒いシアの四方へと動きながら攻撃をする。
その速度を活かした攻撃に先程までシアが圧倒していたのが逆に追い詰められていく。
「今お前に負ければシャルがアレンに殺される! それだけはさせない!」
「私だってアレン様の邪魔をさせるわけにはいかないのです!」
シア目掛けてリファドが刃を振るうがそれを弾くと相手目掛けて刃をぶつける。
リファドはそれにより後方へと思わず下がってしまった。
「私はアレン様のことが大好きです! だってアレン様は優しくて料理が出来なくて何よりーー」
後方へと下がるリファドにシアは急接近すると刃を大きく振り上げた。
「ーー何より料理を美味しそうに食べてくれるんですっ!」
「ぐああぁぁぁぁッ!」
シアに斬り飛ばされて木に衝突するリファド。彼はそれでも身体を動かそうとするが既に傷は深く身体は動かなかった。
「……そうだ……そうなんだよ。アレンは……アイツは料理を美味しそうに食べるんだ」
リファドは静かに涙を流しながらそう呟くのだった。
ーーー
「本当に戦うつもり?」
目の前にいるミアに向けてティアナは静かにそう口にする。
それに対してミアの決意は固いようで剣の切っ先はティアナの方を向いていた。
「うん……悪いけど私は覚悟を決めたから」
ミアはそう静かに口にするとティアナに斬りかかる。
それをティアナは軽く避けると今度は剣を振るい刃と刃が衝突する。
「シアの話を聞いていなかったの? シアはアレンのことをしっかりと思っているそれは私も同じよ」
「だからなに?」
「アレンはリファドの所よりも私達の所にいる方が幸せだって言っているの! だから貴方もアレンのことを思うなら大人しく降伏しなさい」
「そうだね。アレンはきっとリファドなんかのところよりもティアナちゃんや他の人達と一緒にいるべきなんだと思う」
「だったらーー」
「でも正しいことを言えば戦闘に勝てる訳じゃない。そして私は自分がやってることを間違いだと理解して戦ってるの」
ミアは素早い動きでティアナの側面に周り込み剣を振るう。
それを避けるとティアナは盾で相手を殴ろうとするが簡単に避けられてしまった。
それでもとティアナはしつこく盾を使って相手を倒そうとする。
だけどもそんな盾に固執した動きは簡単にミアに対処されてしまう。
「ティアナちゃんダメだよ。そんな手加減してたら」
「くっ……」
「盾で殴るだけなら殺さなくて済むからね。でも私はティアナちゃんを殺すつもりで剣を振るってるんだよ? そんな私が今のティアナちゃんに負けると思う?」
「貴方は私を殺したいの?」
「そんなわけないよ。でも……殺したくなくても殺すことは出来る!」
瞬間、ミアは強化魔法を使って自身の身体を強化すると一瞬でティアナの眼前に接近する。
それに対してティアナもまた速度魔法を使い相手の動きに対応しようとする。
「魔法の出力は互角。でも剣の腕は私の方が上だよ」
「そうかしら。私だって長い間冒険者をやってるのよ!」
ティアナは刃を振るう。だけどもそれを簡単に避けられて逆にミアは剣を振るい彼女の盾を綺麗に弾き飛ばした。
更に盾を弾かれて動揺したところに腹部に蹴りをいれて相手を吹き飛ばす。
「……なんで冒険者としての経験は私の方が長いはずなのに」
「だってティアナちゃんがしてきたのは薬草集めでしょ?」
「……え?」
「私はずっと貴方が薬草集めをしている間も魔物と戦ってきた! 冒険者だって沢山殺してる! アレンの幼馴染みでアレン頼りでしかない貴方に私は負けない」
ミアの言葉にティアナは言葉を失う。確かにティアナは長い間、冒険者として活動している。
だがそのほとんどは薬草集めといった戦闘とは関係のない任務が主流だった。
勿論それは冒険者の制度として仕方のないことではある。
しかし、その差は明白で冒険者に命を狙われた経験も魔物と戦った経験もミアの方が圧倒的に上だった。
「そうね。今まで私はアレンに甘えていたのかもしれないわ」
本当はティアナ自身も理解していた。自分は圧倒的にギルドの中で弱いのだと。
魔王幹部のべルフェは勿論、神降ろしという強力な魔法に最近剣技も上手くなっているシア、透明魔法と獣人特有の驚異の身体能力を持つユリノ。
そんな彼女達に比べて自分はなんて役に立たないのだろうとずっと思っていた。
これまで勝てていたのだってアレンの装備と強化魔法があったから。
装備が互角になり強化魔法が掛けられなかった今の自分ではミアは格上の相手なのかもしれない。
ーーでもティアナはそんなことで諦めたりはしない。
「実力で勝てないならその分は私の気持ちで補うだけよ!」
ティアナはそう言うと剣を構える。それに対するようにミアも武器を構えて戦う覚悟を決める。
「気持ちが強くても実力は埋まらないよ!」
「そう? 少なくとも自分が間違ってるって思いながら戦う奴に負けるとは思えないけど」
「それならしっかりと殺すつもりで剣を振るわないとね? 殺す覚悟も出来ない人に負けるとは思わないから」
「言われなくても貴方を殺してあげる!」
瞬間、互いに地面を蹴りあげて接近する。そして互いが刃を振るいーーティアナの剣がミアの身体を斬った。
そしてミアの剣はティアナに当たるよりも早くミアの手から離れていた。
「ミア……これは」
本来ならば勝負は相討ちだった。いやもしかしたらミアが本気を出せばティアナの攻撃を避けて彼女を殺すことも出来たのかも知れない。
だけどもミアはティアナに剣が当たることを避けて直前で剣を手放したのだ。
そう。ミアは初めから殺されるのが目的で戦っていたのだ。
「ティアナちゃん……これが私の作戦。凄いでしょ?」
「……なんでそんなことしたのよ! そんなことするぐらいなら降伏すれば良かったじゃない」
「家族をね殺すって脅されたの……降伏なんて出来ないよ。だからってティアナちゃんもアレンの他の仲間だって殺したくはなかった」
「そんな……だからって」
「これが私の考えたみんなが幸せになる方法。これでお父さんもお母さんもアレンもティアナちゃんも幸せ」
ティアナは慌てながらミアの傷口を確認する。傷口は深くはない……だけども同時に浅くはなかった。
今こそ意識はしっかりしているがこのまま時間が経てば彼女は死んでしまうだろう。
「馬鹿言ってるんじゃないわよ! そんなの……そんなの幸せなんかじゃない!」
ティアナは回復魔法が使えない。だけどもここには回復魔法を使える人間が一人いる。
それは勿論ミア自身。彼女が諦めなければまだ助かる可能性はあるのだ。
だからこそティアナは必死で彼女を説得する。
「貴方がみんなを大事に思うようにみんなだって貴方を大事に思っているの! 貴方が死んだら残された私達はずっと不幸になるわ……だから回復魔法を掛けなさい!」
「……私はいいよ。私はティアナちゃんやアレンみたいに不幸だった訳じゃない。不幸な人は幸せになるべきなんだと思う。だけども私は……満足してるんだ」
「アレンはよく言っていたものね。不幸な人はその分幸せになるべきだって。でもね……私はこう思うの、不幸じゃなくたって誰だって幸せになるべきだってみんな幸せになるべきだってね! そしてそのみんなには貴方も含まれているの」
そっとティアナはミアの手を両手で包むように握る。
そして彼女の目をしっかりと見てティアナは口を開いた。
「まだ心残りがあるはずよ」
「心残りなんて……」
「アレンに告白してないじゃない! 好きって気持ちを伝えていない! それに……それに私は」
「その恋はティアナちゃんに託すよ……だからーー」
「違うの! それだけじゃない! 私は貴方に死んでほしくない! だって私はまたアレンとミアと三人で一緒に料理を食べに行きたい……みんなで一緒に話したいのよ!」
「……ティアナちゃん」
自分の手を握るティアナにそっと自分のもう一つの手を重ねる。
そしてミアはゆっくりと自分の身体に回復魔法を使った。
「ミア……!」
「私も……三人でお食事したいな」
「ええ! 大丈夫! 一緒に食べに行きましょう」
回復魔法でミアの傷口は少しずつ治っていく。だけども魔法の出力は弱くてアレンやべルフェのようにすぐに回復はしない。
それでもゆっくりと時間を掛ければ治るはずだ。
「いしき……とぎれそう」
「ミア……大丈夫なの?」
「あんまり……だから会話しよ? お話ししてたら眠くならないから」
「ええ、そうね。ゆっくりお話ししましょう」
ティアナは優しく呟くとミアの身体が完治するまで側にいて沢山お話しするのだった。




