溢れ出した想い
「リファド……急にどうしたんだ」
自分は静かにリファドの方を見て尋ねる。彼の表情はどこか落ち込んでいて深刻そうで単に見掛けたから声を掛けたというわけではないみたいだった。
「アレン……俺のギルドに戻ってきてくれ」
「……リファド」
それは予想外の言葉だった。あれだけ自分を貧民だからと拒絶したリファド。
そんな彼がこちらを静かに見ながら元のギルドに戻るように言ってくる。
その突然の状況にアレンは何も答えることが出来なかった。
勿論嬉しいという感情もある。自分の実力を彼らは評価してくれていたのだと。
だけども同時に嫌悪の感情もあった。
あれだけ自分をいらないと言っておいて今更必要だなんてそんなのは都合が良すぎだとそう思ったのだ。
「悪いけど俺はもう自分のギルドがある。それに今更必要だって言われても」
「仕方なかったんだ! 本当は俺だってお前を……追放なんて!」
「実際のお前の気持ちは分からない。きっとお前なりに事情があったのかも知れない。でも俺を追放しておいて今更戻ってこいなんて言われても……もう遅いだろ」
少しの間一緒に任務を手伝って欲しいとか、もしくは一緒に話し合うぐらいのことなら応じただろう。
だけども今の自分には自分のギルドがある。だからこそ彼の要求を受け入れるつもりは無かった。
でも……彼は諦めてはくれなくて更に言葉を続ける。
「いいのか? 本当に?」
「言いに決まって……」
「お前が俺達のギルドに来ないなら俺達は死ぬことになる!」
「何を言って……」
「俺達は弱いからな。実際ミノタウロスと戦って仲間が一人死んだ。きっとこれからもお前がいない状態で任務を続ければ犠牲が出る。お前のせいで俺やミアだって死ぬんだぞ!」
「お前……自分を人質にするつもりか」
それはあまりにも情けない言葉。だけどもその言葉をアレンは否定することが出来ない。
それを関係ないと自分のせいじゃないと言えるほどに彼は冷酷な人間では無かった。
「これから先Sランクに上がる為には沢山の任務を行う必要がある。そしてSランクに上がれば今度は人間の姿をした魔物と戦う必要が出てくる。きっと強いだろうな、俺達ではやられてしまうだろうな……お前は俺やミアを殺したいのか?」
「そうじゃない。俺はお前もミアも大事な仲間だって思ってる。あの時、お前に追放された時も結局最後まで俺はお前を怨むことは出来なかった。それぐらいリファドのことだって仲間だと思ってる」
「ならば俺達のギルドに戻れ。そうすればミアも死なない俺だって死なない。みんな幸せじゃないか。それともお前は俺達に不幸になれって言ってるのか?」
「……それは」
リファド自身も自分が卑怯だってことは分かっている。
だけども同時に彼の言っていることは事実だった。
今の自分達に魔族と戦える力はない。きっとこのまま任務を続ければ誰かが死ぬことになる。
それをリファドは知っているからこそその発言はアレンの反論を許さなかった。
このままいけばアレンは戻ってくる。そうなれば戦う必要もないそうリファドが思った矢先。
「……なんで」
そう口にしたのはアレンではなく黒髪の少女ーーシアだった。
突然の横やりに不機嫌になりながらもリファドは口を開いた。
「……なんでってだからアレンがいないと俺達は死ぬって言ってるんだよ」
「そうじゃないです! 私が言いたいのはなんで貴方はアレン様の気持ちを考えないのかって言いたいんです!」
「……え?」
「さっきから貴方は自分のことばかり言っています! みんなが幸せになる? アレン様は幸せになってないじゃないですか! 自分達が死んだらアレン様のせい? なんでそうなるんですか! 貴方達が魔物に殺されるのは貴方達のせいじゃないですか!」
「俺とアレンの邪魔を……! 大体なアレンは強いんだ! ならば俺達を助ける義務がある!」
「アレン様は強いですよ? でもアレン様は人間です! 道具じゃないんです感情が心があるんです! なのにそれを無視して利用しようとして……そんな人達のところに私はアレン様を行かせたくありません!」
「……シア」
シアはアレンが連れていかれないようにぎゅっとその腕にしがみつく。
そんな彼女の行動にアレンもしっかりとシアを見る。
「お前は関係ないだろ! これは俺とアレンの問題のはずだ」
「関係あります! だって私はアレン様の仲間ですから!」
「仲間ぁ?」
「そうです! 仲間だから困ってる時は助けるんです! アレン様が困っていたから苦しんでいたから……だから私が助けるんです!」
シアは真剣な表情でリファドを睨み付ける。それに対してリファドは呆れたように彼女の言葉を一笑に付した。
「普通の冒険者ならばそうだろうな。だが相手はアレンだ! アレンに比べれば俺達は戦力にならない! 俺達はアレンを助けることは出来ないんだよ」
「でもそうやってアレン様なら大丈夫と問題ないと誰もアレン様を見なくなったらアレン様は一人ぼっちになってしまいます。それはきっと凄く寂しいと思うんです。確かに私はアレン様に比べて弱いです……でもアレン様を寂しくさせたくないです」
シアの言葉にアレンは驚いた。勿論彼女が自分のことを仲間だと想ってくれていることは知っていた。
だけどもここまで自分のことを考えてくれていたことは予想外の事だった。
そしてそんな予想外がアレンは嬉しかった。
「……ありがとう。シア」
「わ、私はただアレン様のことを考えたら何だか勝手に想いが溢れてしまって……その」
シアは自分が出過ぎた真似をしたのではないかと少し申し訳なさと恥ずかしさの混じった表情で口ごもる。
そんな彼女に対してアレンは優しい顔でそっと彼女の頭を撫でた。
「その想いが嬉しかったんだ」
「アレン様!」
アレンはそれだけ言うとゆっくりとリファドの方を向く。
リファドはアレンとシアの方を悲しそうに悔しそうに見ていた。
「俺はお前のギルドには行かない。俺は自分を想ってくれる人の為に戦いたいんだ」
「ま、待てよ! 俺だってお前のことを……どれだけ……っ」
「でも追放しただろ」
「それは……っ!」
そこまで言ってリファドは別の説得方法に変える。
感情的になってはいけないのだ。アレンを説得するには自分を人質にしなければ。
自分だって卑怯なのは分かっている。だけども卑怯でもそれでアレンが戻ってくるなら。
「お前は俺を見捨てるのか! 何度も言うが俺達は弱い! 俺達が死んだらお前のせいだぞ!」
「ーー見捨てる」
「え?」
「もうリファドのギルドは俺の知らないギルドだ」
それは嘘だった。だってアレンの表情はとても辛そうで本当は今だってリファドやミアのことを大切な仲間だと思っているのは誰から見ても明らかだった。
だけどもアレンはしっかりとリファドを拒絶した。
それは自分の為でもあり、シアたちの為でもあった。
「くっ……こうなったら!」
リファドは剣を構える。それを見てアレンは悲しそうに同時に憐れむように彼を見た。
その視線の意味をリファドも理解している。リファドだって勝てるとは思っていない。
それでもリファドは戦うしかないのだ。諦めるわけにはいかないのだ。
「アレン! 俺はお前を倒して無理矢理にでも連れて帰る!」
そう言ってリファドが攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、それよりも早くシャルがアレンに斬りかかった。
アレンは咄嗟にシアを抱えると後方へと下がる。
「シャル! 待て! お前ではアレンに勝てない」
「勝てないのは貴方の方でしょ。私ならアレンを殺せるわ」
シャルはニヤリと笑うと遥か上空へと浮遊し始めた。
「飛行魔法だと! ……いつそんな魔法を!」
「強くなったのよ。このまま、上空からなぶり殺してやる」
「……戦うことになるのか」
アレンは同じく飛行魔法を使うとシャルと対峙する。
そしてそれと同時にシア達とリファド達も武器を構えるのだった。




