蠢く暗躍 その2
「なんかこのギルドの雰囲気が悪い気がします」
風の囁きの拠点の中。桃色髪の少女ーーアスティナは考え込むような仕草をする。
一体何が起きたのか分からないが、泣きながら自分の部屋に駆け込むシャルの姿。
そして目を真っ赤に腫らしながら静かに部屋に戻るリファド。
この両者の姿を見て只事ではないとアスティナは判断していたのだ。
「こうなれば超絶美少女! 町の人達からは顔はいいのに性格はゴミだねって言われてきた私の出番ですね」
「滅茶苦茶評判悪そうだけど大丈夫なんすか?」
同じくこの雰囲気に嫌気が差しているディオルが心配そうに訪ねる。
正直なところこの地獄の雰囲気を馬鹿そうなアスティナが解決出来るとは思えない。
そんな風に考えているディオルにアスティナは自信満々に笑う。
「安心してくださいよ! 美少女が相談に乗るそれだけで人は幸せになるものですから。それにシャルさんやリファドさんの様子を見るに恐らくこれは恋の悩み、恋愛経験皆無の私の出番というわけです!」
「恋愛経験皆無ならダメじゃん!」
「仕方ないじゃないですか! よく町の人とかに声は掛けられるんですけどしばらく会話するとドン引きして離れていくんですから! 実際昨日も顔は良いけど性格がねって……あれ何なんですか!」
どうやら先ほど彼女が自慢げに語っていたゴミみたいな評判は声を掛けてきた人達から言われた言葉だった。
「やっぱ性格に問題があるんすね」
「顔の良さでは隠しきれないとは! まあでも恋愛経験ないのは貴方も同じでしょう」
「ぐっ……それはそうっすけど」
「だからここは私に任せてください! 顔だけではないってところ見せて上げますから!」
アスティナはそれだけ告げると早速シャルの所へと向かった。
そしてシャルの扉を優しくトントンとノックする。
すると扉はすぐにガチャリと開いてどこか期待が混じった表情のシャルが出てきた。
だけどもその期待は外れたのかすぐに怒り混じりの表情になりアスティナを睨んだ。
「リファドさんと仲直りしたいんですね」
「喧嘩なんてしてないわよ! それで何の用なの?」
「用というわけではありませんが……シャルさんが辛そうな顔をしていたので心配になっちゃって、良ければ相談に乗りますよ? ほら私達女の子同士なわけですし」
さっきまでの明るい能天気な様子は既になく柔らかい優しげな表情でアスティナは話し掛ける。
アスティナとシャルはそこまで仲が良かったわけではないが。
今はそれ以上に胸が苦しくて悲しくてそれが少しでも楽になるなら彼女に今の状況を話したいと思った。
「……分かったわよ。言っておくけど馬鹿にしたら殺すわよ」
「しませんしません。私はシャルさんとお友達になりたいって思ってるんです。だからお友達が悩んでいるのに馬鹿になんてしませんよ」
「……お友達」
それは今のシャルが一番求めている存在だった。
ずっとミアは自分の友人だと思っていた。だけども彼女はシャルを置いてアレンの所へ行こうとした。
一応脅してここに留まらせてはいるけど、彼女の気持ちはアレンに向いたままだった。
だから今のシャルにはお友達がいない。そんな状態の彼女にアスティナは友達になりたいと言ってくれた。
孤独だと思っていた心が少しだけ和らいだ気がした。
「まあ、私としても色々と心に抱えておくのはしんどいわけだし……部屋に上がりなさい。少しだけ話したいし」
「ふふっ、ええ。少しでも沢山でもシャルさんが話し終えるまでずっと側にいますよ」
アスティナはそう言うと彼女の部屋へと上がり、シャルはゆっくりと今までのことについて話した。
ーーー
「みんな……アレンのことばかり誰も私を見てくれなかったの」
アスティナと一緒に過ごして数時間、シャルはリファドとの関係が上手くいっていないことミアと喧嘩してしまったことを全て話した。
それに対してアスティナは静かに彼女の話を聞いていた。
「シャルさんは愛されたかったんですね」
「そう……私は愛されたかった。だけどもリファドもアレンが凄いってミアもアレンに恋をしてみんな私以外を愛していたの」
シャルはこの数時間ずっと泣き続けていた。そんな彼女の手をアスティナは優しく握り寂しくないよと伝える。
「大丈夫……大丈夫ですよ。私は貴方のお友達ですからずっと側にいますとも」
そう言ってアスティナはシャルを抱き締める。
そして彼女の金色の綺麗な髪を何度も撫で始めた。
シャルは突然のスキンシップに驚いたが、不思議と嫌じゃなかった。
「私……一人になりたくない。ずっとみんなに側にいて欲しい」
「でも、それは難しいですね。きっとアレンさんがこのギルドに戻ってくればリファドさんもミアさんもアレンさんのことを見るようになります」
「私は一人になる? でもアスティナは居てくれるのよね」
「さぁ、どうでしょう。私ももしかしたらアレンさんに靡いてしまうかも」
「えっ……」
アスティナの言葉を聞いて恐怖で頭が一杯になるシャル。
そんなシャルにアスティナは変わらず優しいままだけどそれが逆に不安だった。
「わ、私……どうしたらいいの? もうみんなが離れていくのは嫌なの!」
「でしたらアレンさんを殺すというのはどうでしょうか」
アスティナの言葉にシャルは首を振るう。シャルはアレンのことが嫌いだ。
だけどもアレンと同じギルドに居た以上彼の実力は知っている。
だからこそ分かるのだ。自分の力では彼に勝てないと。
「無理よ。アレンに勝てるはずないわ」
「そんなに強いんですかー?」
「恐らく実力は勇者級よ」
シャルはどれだけアレンという存在が強いのかをアスティナに語る。
それを聞いたアスティナはしかし落ち込むどころか不思議と余裕の笑みを浮かべた。
「アレンさんの実力は分かりました。でも勝つことは出来ますよ。禁術を使えばいいんです」
「禁術……?」
「はい。禁術を使えば身体能力が上がるのは勿論のこと複数の魔法だって使うことが出来ちゃうんです」
「……そんなものが。でも禁術なのよね? その……体に悪影響とかないの?」
「そんなものはないですよ! 禁術を使えば誰でもSSSランク以上の実力を身に付けることが出来ます。ですが全員がSSSランクの実力になれば国が乱れることは必然、ただでさえこの国は治安が悪いですから、なのでこの術は禁止となって一部の人しか知らない術となったのです」
禁止された魔術と聞いて怖くはなったけどアスティナの説明を聞いてシャルは少しだけ安心した。
体に悪影響が出るのならば使いたくはなかったけど出ないのであれば強くなるだけで何もこちらに不利益がない。
「でも何でそれを私に……」
「もー! そんなの友達だからですよー。シャルさんにはミアさんとリファドさん二人に愛して貰えるようになって欲しいんです」
「……アスティナ。禁術を使って強くなったら二人はまた私を愛してくれるわよね?」
「当たり前です! 私もみんなも貴方のことがもっと大好きになりますよ!」
またミアと一緒に雑談したり、自分の魔法を褒めて欲しい。
またリファドに好きだって愛しているって言われたい。
そして新たに友達になったアスティナにずっと側にいて欲しい。
だから……だから……もう迷いはない。
「アスティナ……私に禁術を使って! アレンを殺せるようにして!」
「勿論です!」
シャルの覚悟にアスティナは笑顔で頷くのだった。




