二人の誤解
協会の中でアレンは無事に任務達成の報告を行う。
今回任務達成の報告を行うのは自分一人。
本来ならば全員で報告を行うのだが、町に戻る途中でユリノが眠ってしまいシア達に先に帰って貰うように頼んだのだ。
「確かに任務報告受け付けました。これが報酬ですね」
そう言って大量の金貨を貰う。元々報酬は多かった。
だけども今回は他の冒険者が死んだことで取り分が増えたようだった。
報酬を貰い協会を出ようとした瞬間、受付嬢と冒険者の声が聞こえる。
話の内容は分からないが何やら揉めているみたいで自然と気になってそこに視線が動いて固まる。
「……リファド」
そこにいたのは自分を追放したリファドの姿だった。
追放した時の彼は元気で明るい人だった。だけども今はどこか疲れているみたいでその表情は暗かった。
もうリファドと自分は他人だ。彼は自分をスラム出身だからと否定して追放した。
確かに一緒の仲間として共に戦っていた時はリファドのことを信じていた仲間なんだって思っていた。
だけどもそれは幻想で信じていたのは仲間だと思っていたのは自分だけだった。
だからもう関わらない。それが互いにとって幸せなはず。
なのに気がつけば自分は彼と受付嬢との会話を聞いてしまう。
「リファドさん……これで十回以上任務を失敗してますよね?」
「……それは分かっている。今は調子が悪いだけだ」
「でしたら任務のランクを下げませんか? 今の任務だと厳しいみたいだし、もう少し楽な任務もご紹介できますよ」
「……それは……でも! 報酬は減るんだろ? こっちはお金がいる! 他のみんなを食わせなくちゃならない。任務が達成してもお金が稼げなければ」
「任務を達成出来なければお金は入りませんよ。それなら簡単な任務で少ない報酬でも得るべきです」
「それは……そうだけど!」
「たまにいるんです。仲間を失ってから任務が失敗続きになるギルドって……一旦落ち着く時間も必要なんだと思います。薬草集めとか死体回収とか色々とありますし」
「……考えておく」
リファドはそう言って踵を返す。それと同時に自分の存在に気づいたのだろう大きく目を開いてこちらを見た。
だけどもそれだけ、すぐに目を背けるとその場を去ろうとする。
「リファド……」
「……っ!」
声なんて掛けなくて良かったはずなのについ声を掛けてしまった。
だけども呼び止めたって何も話すことはない。
そもそもスラム出身の自分に声を掛けられるのは向こうだって嫌なはずだ。
だから呼び止めはしたがその後に続く言葉が出せなかった。
「……お前。まだ冒険者やってたのか?」
そんな沈黙に耐えかねたのかリファドの方がこちらに話しかけてきた。
だけどもその目は下を向いていて表情も読み取れない。
「ああ、今は自分でギルドを作ってそこで冒険者をやってるんだ」
「自分で……ギルドを?」
「自分で作ればもう追放されることもないと思ってな。仲間も沢山出来たよ。みんな優しい奴なんだ」
「……ハッ! お前みたいな貧民出身でも仲間が出来るなんてな」
嫌味を口にするリファド。だけどもその声は何だか震えていて悲しそうに聞こえた。
一体彼は何を考えているのだろうか。なんで自分を見下す発言をしているくせにこんなに辛そうに言葉を吐くのだろうか。
それが自分には分からない。
「そうだな。俺みたいな奴を仲間だと思ってくれる優しい奴らだよ。だから大事にしたいあいつらも俺を大事にしてくれるから」
「大事に……か」
お互いにまた沈黙が流れる。そんな中で今度は口を開いたのは自分の方だった。
「リファドのギルドはどうなんだ? ……少し揉めてたみたいだけど」
「聞いていたのか。別になんでもないさ大体お前に心配される筋合いはないだろ! お前を追放した俺が聞くのは心配の言葉じゃない怨みの言葉のはずだ」
「そうだな。正直お前に追放されたときは悲しかったよ。ずっと友達だと思っていたからな」
「ならば怨めばいいだろ! 俺はお前を……お前を追放したんだから!」
「それでもリファドのギルドで冒険している時は楽しかったからな。だから怨み言なんて言う必要がない」
「アレン……お前は良い奴すぎる。これじゃあ俺の心は辛いままじゃないか」
リファドはアレンに聞こえないようにそれだけ呟くとアレンの姿を見た。
「俺はお前が嫌いだよ。優しくて強くていつも心配してくれてなのに……スラム出身のお前が大嫌いだ! だからもう俺に関わるな」
それだけ言うとリファドは協会を出ていってしまう。
それに対して自分は結局嫌われたままだなと溜め息を吐いたその時だった。
「アレン……だよね?」
後ろから声を掛けられる。それは聞き覚えのある優しい声。
だけども同時にその声を聞いて辛いと感じる。だってその優しさは嘘だと知っていたから。
「……ミアか」
振り向くとそこには黒髪の少女ーーミアが立っていた。
ミアとはよく色んな話をした。魔法の話だったり冒険の話だったり。
自分が貧民出身だと分かっても拒絶しないでくれた優しい人だった。
でもそれは演技。本心では自分のことを嫌っていたのだ。
「……なんで俺に話しかけたんだ?」
「なんでって確かにギルドは違うようになったけど私達は友達でしょ? それともギルドから出ていったら私達の関係は……終わりなの?」
「俺が言いたいのはそう言うことじゃない! 俺はお前のことを友達だと思っていた! なのになんで……」
「ちょ、ちょっと話が見えてこないんだけど私は今でもアレンのこと友達だって思ってるよ?」
「……ミア」
その表情は本当に悲しそうでそんな彼女が心のなかでは自分を嫌っているなんて……そんな風には見えなかった。
ミアはそっと自分の服を掴む、その瞳には少し涙が滲んでいた。
「でもね。ちょっと寂しかった相談してくれてもいいのにって。他にしたいことがあったのなら応援するよ? でも黙ってギルドを抜けられるのは何だか嫌われたみたいで嫌だったな」
「ミア……お前何を言ってるんだ?」
「何ってアレンはギルドを抜けたんでしょ? やりたいことがあるからって」
「そんなこと言っていない。俺は追放されたんだ! お前だって内心では嫌ってて賛成してたって……」
お互いに話が噛み合わない。そこで二人で風の囁きで起きたことを話し合い。
ようやく二人の誤解が溶ける。
「リファドが嘘を付いてたんだよ。アレンを追放したこと……私知らなかった」
「……そうだったのか」
きっとリファドはミア達の反感を買うことを恐れて自分が追放されたことを黙っていたのだろう。
そして自分もミアに関わらないようにするためにミアが嫌っていると嘘を吐いたのだ。
「……でも良かったよ」
「良かったって?」
「嘘で良かったなって……ミアに嫌われてると思ってたから」
「そんなの……そんなのありえないよ! 私がアレンを嫌うなんてっ!」
ミアはそういうと自分を抱き締める。それはミアが嫌っていないと安心させようとしているように見えた。
だから伝わっているとそう合図をするようにそっと頭を撫でる。
「……ごめんね、私。アレンを不安にさせちゃった。アレンに悲しい思いさせちゃった」
「別にお前が謝ることなんて……」
「ううん。私がアレンのこと嫌いだって……そんな嘘を信じちゃったのは私の言葉が足りなかったから」
「……いや別にそれは俺が単純だっただけで!」
「私がもっとアレンに沢山好きだって友達だってそう伝えていればアレンも騙されなかったはず」
それに対してそんなことないと伝えたかった。どのみち自分は好かれることよりも嫌われていることに慣れた人間だからリファドの嘘に騙されていたと。
だけどもそれを言おうとしてーー止まる。だって彼女が涙を流していたから。
そんなミアに今の自分は何も声を掛けることが出来ない。
「……アレン。私は貴方を嫌いになったりしないから」
「大丈夫、分かってる。俺はもうお前を疑ったりしない」
「……うん」
ようやくミアは落ち着いたのかこちらを顔を見上げる。
涙がポロポロとまだ溢れているけれどそれでも彼女の顔は綺麗だった。
「また三人で一緒に料理を食べよう」
「アレン……そうだね。ティアナちゃんも連れて三人で食べたいね」
昔はよくティアナとミアと酒場で食事をしていた。
そんな日々はもう戻らないと思っていたが、彼女が自分を嫌っていないと言うのならばまた一緒に食事に行くことだって出来るはずだ。
互いにまたあの日々に戻れることを信じて自分とミアはその場を離れるのだった。




