3話 スカッとする人狼ゲーム【2日目】
朝のホールは、昨日より空気が重かった。
白樹の不在が、誰もが現実を突きつけられる。
テーブルの中央に置かれた血のメモが、まだ生々しく赤い。
霊媒師の橙里が静かに口を開いた。
「……昨夜の結果。白樹は市民だった」
一瞬、誰もが息を止めた。
朱莉は心の中で呟いた。
(もしかすると、騎士だったのかもしれない……。
昨夜、誰かを守ろうとして……犠牲になった?)
桃華の手が、朱莉の袖を強く握る。
その小さな震えが、朱莉の胸を締めつけた。
茉黄が、明るい声で手を挙げた。
「みんな、聞いて!
私、昨夜占った結果……狼、見つけました!」
緑弥の顔が、一瞬引き攣った。
朱莉はそれを見逃さなかった。
緑弥がすぐに追従する。
「俺も……見つけた」
朱莉「結果は二人が同時に言ってね。」
「せーので!」
茉黄「青馬……狼!」
緑弥「桃華……狼!」
ホールが凍りついた。
朱莉の視界が一瞬白くなった。
(桃華……? 狼? 嘘でしょ……)
桃華が小さく「え……?」と声を漏らす。
その声が、朱莉の心を抉った。
茉黄が、急いで説明を始める。
「青馬は……初日からなんか浮いてる感じだったでしょ?黒銀を庇ったり、変にのんびりしてたり。
昨夜占ったら、完全に狼だった。間違いないよ!」
緑弥も負けじと続ける。
「桃華は……ずっと朱莉の後ろに隠れてるみたいに黙ってる。話さないってことは、狼が市民のフリしてる典型だろ。占ったら、狼確定」
橙里が、ゆっくりと頷いた。
「……桃華、怪しいかも。ずっと静かすぎる」
黒銀が低い声で吐き捨てる。
「ずっと黙ってて怪しいと思ってた。
これだから女は……」
緑弥が追従するように笑う。
「やはり弱い女同士、狼お似合いだな」
黒銀が、にやりと笑って緑弥に話しかける。
「さすが真占い師さま」
朱莉は心の中で、鋭い違和感が走った。
(……真占い師さま?なんで急に決まるの?
緑弥が偽物だって、誰も証明してないのに……)
橙里が、静かに発言を変えた。
「……考え、改めました。茉黄が本物だと思います。
女を舐めすぎだし、黒銀と緑弥が結託しすぎてる」
朱莉は橙里の言葉に、ほんの少し安堵した。
(橙里……ありがとう。)
青馬が、いつもの調子で(でも声が少し震えて)言った。
「そんな、吊らないでよー。最後まで笑わせてやるよ?」
その言葉が、場を少し和ませた……ように見えた。
でも、朱莉は気づいた。
青馬の目が、必死に笑おうとしているだけだ。
黒銀が立ち上がり、ゆっくりと青馬を睨む。
「俺はどっちも怪しいと思ってるからな」
その瞬間、朱莉は見た。
黒銀の手が、わずかに震えているのを。
(……動揺してる?今、手が震えた……)
ここでアナウンスが流れて投票に移った。
今回処刑が決まったのは青馬です。
朱莉は息を潜めた。
(今日も……青馬を撃つ気?)
黒銀が、ゆっくりと拳を握りしめ、拳銃を構えて青馬に向ける。
「青馬……あばよ」
処刑の音が、再び響いた。
青馬の体が、ゆっくりと倒れる。
最後に、青馬は小さく笑った。
「最後まで……エンタメ、届けられなくて……ごめんね」
ホールに、重い沈黙。
朱莉は唇を噛んだ。
(青馬……本当に狼だったの?それとも……)
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夜。
それぞれの部屋に戻る道中、朱莉は桃華の手を強く握っていた。
誰も口を開かない。
足音だけが、長い廊下に響く。
部屋の前で、桃華が立ち止まった。
「……朱莉ちゃん」
「ん?」
「青馬くん……本当に狼だったのかな」
朱莉は首を振った。
「わからない……でも、黒銀の手が震えてたの、見た?あれ、絶対動揺だよ」
桃華が小さく頷く。
「うん……私も、なんか変だと思った」
二人はまた、抱き合った。
今度は、もっと強く。
朱莉が耳元で囁く。
「桃華……今日、緑弥に狼って言われたけど……
私、絶対信じてるから。桃華は狼じゃない」
桃華の声が震える。
「ありがとう……朱莉ちゃん。
私も、朱莉ちゃんのこと……信じてる」
二人はしばらくそうしていた。
この屋敷で、唯一の温もり。
部屋に戻った朱莉は、ベッドに座り、頭を抱えた。
(盤面をまとめてみよう……)
・初日:一茶処刑 → 市民
・白樹:夜襲撃 → 市民(騎士?)
・今日:青馬処刑 → ……?
朱莉はメモのように心の中で整理した。
(仮に青馬が市民だったら……
私たち、完全に狼の思う壺。
茉黄が本物で、緑弥が偽物……?
でも、黒銀が緑弥を信じてる。
黒銀と緑弥がグル……?
胸が締めつけられる。
不安が、波のように押し寄せる。
(桃華が狼って言われたけど……絶対違う。でも、もしみんなが桃華を疑ったら……次は桃華が……)
朱莉はベッドに倒れ込んだ。
枕に顔を埋めて、声を殺して泣いた。
(寝れない……絶対、寝れない……)
外の闇が、窓から忍び寄るように感じた。
夜は、まだまだ長い。
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