奴隷兵士の夢。そして現実。
『22番さんは、ここに来てどれくらいですか?』
不意に話しかけられた。共同で使ってる寮の掃除をしてた時だっけ。
『一年くらい?もう少し長いかも。』
正直覚えていないが、適当に返す。
『お〜⋯ベテランですね!他にお仕事したいとかないんですか?一年くらい働けば、この国では安全な家と仕事が貰えますよね?』
言われて確かに、と思う。そんな制度もあった気がする。
『そーいうニーロクこそ、なんでこの仕事?私は腕っ節でしか飯食えないからだけど、ニーロクはその感じだと選んでこっちに来たでしょ。』
普通、獣人にろくな仕事は無いけど。この国は違う。キツイ仕事にかわりが無くても、国の中で平和を約束される仕事はいくつかある。そもそも能力が仕事に使い道のあるやつは、この国では獣人でも仕事を貰える。
『ふふん、良くぞ聞いてくれました!私はですね、22番さんみたいなかっこいい兵士になりたくて、奴隷兵士に志願したんですよ!』
⋯嘘つけって、この時は思ってた。
『普通に奴隷兵士じゃなくて、軍のもうちょい良いとこに転職届出しなよ⋯』
『でもでも、奴隷兵士だって立派に国の兵士です!⋯それに、ニーロクさんが街に出て治安警備と子供達の面倒見てあげてるの、かっこいいなと思いました!』
気まずい。見られてるのか⋯この国結構広いと思うんだけど⋯
『⋯あれだよ、仲間増やしとかないと、クビになった時に困るからだよ。』
『そうだとしても、私は素敵だと思いましたよ!』
キラキラし過ぎてて怖い。なんか裏があるんじゃないかなって最初は思ってた。
何度かの任務と付き合いで、本当にそういう奴なんだなって分かったけど。
危なっかしいし、能力も戦場に出るタイプじゃない。でも訓練は欠かさないし、任務にもずっと着いてきた。休日もやたら絡んでくるし⋯⋯そういった積み重ねが、次第に私達を仲間にしていったんだと思う。
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「⋯⋯」
ゆっくりと瞼が開く。目の前に天井の光が差し込んできて、反射的に細目になる。
懐かしい夢を見た。ニーロクと会ったばかりの時だっけ。走馬灯かと思ったけど、そうじゃないらしい。
真っ白な部屋。明るいが何も無い無機質過ぎる部屋だ。
(首は動く。腕と足は⋯⋯)
辺りを見渡すことはできるが、手足は拘束されてる。肘から先が大きな白いボックスに拘束されていて、手の感覚はあるが力で外せる代物じゃない。足も身体もベルトか何かで今寝かされているベッドに縛り付けられている。
(首輪も違う。この感覚⋯)
目線だけでは首元は確認できないが⋯
能力が使えないのと、少しの虚脱感を感じる。⋯魔力まで封じられている独特の感覚。本気で逃がす気は無いらしい。
とはいえ、目が覚めたのは幸いか。殺されていてもおかしくはなかったし、これからもっと酷い事になるかもしれないが、死ぬよりはずっと良いと少なくとも今は思う。
(ニーロクは⋯)
無事⋯だといいな。今は願う事しか出来ない。
やる事も無いし再び目を瞑る。いい感覚だ、二度寝は私をどんな時でも幸せにしてくれる。
そのままぼやけていく思考と感覚に流されていこうと思ったその時。
「おはよう!起きた?」
私の目が覚めるのを待っていたのか、ドア越しから声が聞こえる。⋯返事をする義理は無いし、そのまま二度寝といこうかな⋯捕虜であることを考えれば、今のうちから大人しくしていた方が待遇は良くなりそうだが、そんな気分ではなかった。寝る。二度寝する。
「起きてるね!おはよー!!」
ガキンッ!と力任せに開けられた扉の音。⋯鳴っちゃいけない音がした気がするが、気にしない。目を瞑ってやり過ごそうかと思ったけど、うるさ過ぎて無理だった。
「⋯⋯⋯」
「お、元気そうじゃん。よかったよかった。」
何も言わずに黙っていても目の前の金髪ショートの猫耳獣人が作業を進める。カチャカチャと音を立てながら、私をベッドに縛り付けてた拘束具を取り外している。
(⋯あの時の獣人か⋯手加減はしたつもりだったけど、生きててよかった。)
なんて、敵の安否を喜んでいる場合でもないかな。これから何をされるかも分からないし。
「はい、立てる?」
そう聞かれて、素直に立つ。腕の拘束具と首輪は解かれていないけど、それ以外は問題ない。
改めて金髪獣人と面と向かうと、あの時から変わらずこう⋯ゲーム?とかで見るような服装だ。肩やお腹、胸元辺りが何故か露出していて、ズボンも短いショートパンツ。戦闘や作業用とはとても思えない。
逆にこっちの服を見下ろすように確認すると、面白みのない白い無地だから、私の服装は相変わらずと言ったところ。
「ついてきて」
抵抗しないでね、と追加で言いながら、私を先導するように歩き始める。
魔力が無いと、こういった徒歩も少しだるく感じる。睡眠不足とか、微熱とか、あの感覚に近い。動けはするけど、動きたくはない。そんな感覚。
とは言ってもついて行かない訳にもいかないのでついていく。所々規則正しい模様や扉があり、通路自体は途中で十字に分岐していたり、T字に分岐していたり。かなり枝分かれしている機械的な通路だ。
そんな通路でも迷いなく目の前の金髪獣人は先導してくれる。⋯⋯⋯と、思っていたのだが⋯
「⋯⋯⋯」
⋯この通路、さっきも見たような⋯気の所為?どれも似たようなデザインだけど、扉の上部に部屋の名前が書いてあるので、それを覚えている限りだと、同じ通路な気がする。
「ねー、迷った。この階層のエレベーター探してるんだけどどうしたらいい?」
「⋯⋯そう言われても困ります、連絡するか、当てずっぽうなら左手の法則でもいいのでは?」
「何それ?左手の何とか?」
知らない感じか。とはいえ私も誰かに教えて貰わなかったら知らなかったと思うけど。
「迷路とかで、壁に左手をつけながら離さずにずっと歩いていると、必ずゴールに着くという法則です。」
厳密には条件とかあるけど、ここでは説明しない。
「なにそれ?ほんと?」
そういうと彼女は左手を壁につけて歩き始める。
全然変わり映えしない通路の迷路を歩いて、しばらくすると⋯
「うおー!ホントにエレベーター来た!君賢いね!」
「⋯⋯⋯」
癖で冷ややかな目線を返してしまう。態度は良くしておいた方がいいとは思うけど、もうしょうがない。コイツを尊敬の目で見るのは演技でも無理。
「そ、そんな目でみるなよ⋯」
二人でエレベーターに乗り込み、B6Fと書かれているボタンを彼女が押した。
無地のボタンもあったから何階建ての建物か推測はできないが、ボタンの表記を見た限りだとここは地下施設の様子。脱走するにしてもかなり骨が折れそう。
そもそも首輪をつけられたこの状態で脱走なんて夢のまた夢だけど。
(はぁ⋯)
内心で深いため息を吐きながら、ぼーっとエレベーター特有の浮遊感に身を委ねながら、B4、B5と下に降りていき⋯チーン、という音と共に扉が開いて⋯
「着いた」
そう言った彼女と一緒にエレベーターから出ると⋯
「ようこそ、私達の国へ。」
そこには空があった。




