能力××。A#。
意趣返しか。同族ならではか。
ノーモーションからのストレートが訳も分からない表情をしている獣人の腹に突き刺さる。
「ぅっ!!」
肺から空気を全部抜いたような変な声と共に獣人の身体は吹っ飛んだ。寧ろ吹っ飛んだだけで済んだと言うべきか。
大きな衝撃と共にぶつかった建物を破壊しながら敵の身体が吹っ飛んでいく。クリスタルの地面を水切りのように跳ねた身体が何個かの建物を貫通して、クリスタルに飲まれた建物にぶつかってようやく止まる。
その間にも攻撃は止めない。
一瞬の出来事、ドワーフが逃げ出そうとし、翼のある女がこっちを見て驚いている。
(見える。)
極限まで引き上げられた私の感覚が映る世界をゆっくりと描写するように感じさせる。
私だけが知覚できる速さの世界。その筈。
(こいつ⋯⋯)
人間だけが、動揺せずに、しかし確かに目線だけは私を追っている。
しかしそれを知ったところで、もう止まるつもりは無い。
【残り八秒】
私には時間が無い。
すぐ側の翼を持つ女性に踏み込む瞬間。地面のクリスタルが動いたのを知覚した。
ニーロクを閉じ込めたあの動きだ。
(今の私には通用しないっ⋯!)
一瞬で跳ぶ。元いた場所にクリスタルが牙のように隆起している。が、そこに私はいない。ドワーフの逃げる先を塞ぐような位置に、移動の勢いを乗せた顎を掠めるような打撃。
「⋯⋯ぇ」
ドワーフが知覚する頃には既に瞳が裏返り、意識を失う。簡単な脳震盪。
私だって無闇に殺したい訳じゃないから、できる限りの手加減。
ドワーフの身体が地面に崩れ落ちるよりも速く次の行動。生やされたクリスタル越しにぐにゃりと屈折して映る翼の女と、ニーロクのすぐ側にいる人間。
(盾にしてるつもり⋯?)
そんなのは通用しない。一瞬の跳躍。
すぐさま裏に居る翼の女の目の前。
自らの拳銃を取り出し、魔力を込める。強化によって引き上げられた魔力と魔力制御。
音もなく発射された魔力の弾。しかしイメージするのはただの弾じゃない。蜘蛛の巣のように張り巡らされた大きなネット。
「きゃっ!」
そのまま威力と重量を持ったネットがクリスタルに貼りつく様に翼の女を拘束する。蜘蛛の巣に内側から捕らえられた様な見た目だ。
あと一人――そう思った瞬間、正確には迫り上がる様な地面が見える。クリスタルが生き物のように動いている。
一度大きな跳躍。垂直に跳ぶ。
地面から奇妙な音。
その瞬間、周囲一帯をドワーフと翼の女ごと覆うように巻き込んでクリスタルの地面が津波のように迫り上がる。
(⋯⋯私を捉えきれていない⋯今なら⋯!)
迫り上がって伸びてきたクリスタルに足をつけ⋯一瞬私の足を巻き込もうとクリスタルが覆うように伸びてくるのが分かったが
(遅い。)
そんな隙を与えずに一気に滑り降りる様な疾走。着地する瞬間に地面が傾く程の振動。それでも壊れないクリスタルを見ると、余程強度があるのが伺える。
【残り四秒】
あと一人。
クリスタルに囚われたニーロクを背にしている。
人間。
いつの間にか浮遊する機械からは降りて、ニーロクのクリスタルに手を当てている。
(関係ない、このクリスタルが壊れない程度にお前を殴る。)
そう決心し、駆ける。一瞬で肉薄する距離。
その瞬間、後ろのクリスタルが水のような液体になるように見えた。
分からなかった。この勢いで突っ込んで後ろのニーロクを巻き込まないか。罠かもしれない。時間もない。
でも――
軌道を強引に二度の跳躍で変更。液体に見えるニーロクに手を伸ばし、腕を掴み、引っ張り出そうとする。その瞬間だった。
(――固まる⋯!?)
液体が凝固したようにクリスタルに戻りかけている。
肌の感覚と視覚からの情報。今力任せに引き抜けばニーロクの身体が引き裂かれる予感がした。
一瞬の判断。ニーロクから手を離し、腕を引き抜く。
(罠か――)
あのままニーロクごと引き抜いていたら、間に合わずにニーロクの身体が危ないと判断した。タイムロス。
残りは後一秒と少し。
(充分。)
充分だと思ったのは、決めたからだ。
殺す。
【残り一秒】
何度目か分からない跳躍、一瞬で人間の目の前へ。
(問題ない。)
きっちり10秒。
私の手は目の前の人間の胸を貫いた。
首輪による能力の制約が戻る。能力使用時との差に身体に変な感覚がする。落差と反動で少し頭が痛い。
ゆっくりと人間の両腕が貫いた私の腕を掴む。
⋯⋯妙な感覚がする。貫いた手が冷たい。肉と骨のあの嫌な感触は確かにあったはずなのに、溢れ出る筈の血もまるで無い。それに⋯
(⋯手が抜けない。掴まれる前から。)
少しづつ嫌な予感がしていく。いや、違う。
「ふふっ⋯素晴らしい力です。」
(⋯⋯!)
目の前の人間が⋯いや、人間じゃない。貫かれた部分が人間のそれじゃない。こいつ⋯
「機械人形⋯」
パキパキと抜けない手からクリスタルが這って進んでくる。引き抜こうとしても反動で身体に力が入らない、いつの間にか足も捕まってる。
「貴方の能力はその首輪によって普段は抑え込まれ、そして時限式で使うことができる。出し惜しみしていたのもそれが理由ですか。」
そのまま機械人形が貫いた私の手をそのままに、こちらに向かって近づいてくる。ガッ、と首元を掴まれて、圧力を感じる。呼吸も、浅くなって⋯
「⋯くっ⋯そ⋯」
「私のタイマーで10秒。予想通りの時間でしたが、貴方の力は予想外でした。私達の首を吹き飛ばすと決めていれば2秒で私たちは負けていたでしょう。」
視界が狭くなる。意識が薄くなって、身体が凍りつくように冷たくなっていくのを感じる。力も入らない。
「どのような理由だったとしても、殺傷をギリギリまで避ける意志、実力、能力。――いずれ―――値――」
音が聞こえなくなっていく。目がぼやけてきた。
(い⋯しき⋯⋯⋯が⋯⋯)
そのまま視界が暗転した。




