奴隷兵士にもマナーはある。ないやつもいる。
無事現場に着地しつつ、早足で周囲を探索。
仕事をサボりたいという気持ちは無い。この仕事を失ってしまえば次に待っているのは路頭に迷って死ぬか、もっと酷い職場のどっちかだから。
崩れている建物の小部屋なんかも素早く探索。瓦礫なんかもさっさと押しのけて部屋の中を確認。ビルのような高い建物は外壁をぴょんぴょんと跳ねるように登り、窓から内部を確認する。
「見つけた」
ビルの窓に張り付きながら、ハンドサインで下で待っている26番⋯こと、ニーロクにこっちに来るように合図を出す。
当然だがニーロクは本名ではない、お互いに本名を名乗るのはリスクがあるし、仮名でも充分だからだ。私はニーニーとか22番と呼ばれる。
遠目からでも私の小さな手のサインを見逃さず、ゆっくりと、しかし確実に1階1階をぴょんぴょんと飛び跳ねるように外壁から登ってくる様子が確認出来る。
重い貯蔵庫を持ってこの動きを出来るのは獣人ならではの光景。
窓枠ごと吹っ飛ばされている場所から階層に侵入し、見つけた電気を保存しているバッテリー郡の元へ駆け寄り、ニーロクが貯蔵庫をすぐ側に置いて作業始める。始めると言っても、特定のスイッチを押してバッテリーに乗せたり直接隣接させるだけだ。私にはどういう原理でこれで電気を吸っているのかは分からないが、これで出来ているらしい。便利。科学の力ってすげー、というやつである。
最も、その科学を発展させた人間という種族はとんでもなくヤバい種族なのだが。
次々とニーロクが手早く作業している間は、私は周囲の警戒。このバッテリー郡、いくつあるか分からないがこのビル全体の電力を賄う程のバッテリーだ、そこそこ収穫はあるだろう⋯と思っていると、足音。
猫耳が反射的にピクっ、と動きその音を聞き取る。結構遠い、外から登ってきたという感じではない、ビルの階段を使って登って来たのだろう。
とんとん、とニーロクの肩を叩いて階段の方に目線をやり、ニーロクもそれを理解して頷く。
私がニーロクの傍で警戒していると、階段から上がってきた二人の人影、猫耳と犬耳からして獣人だろう。同じ奴隷兵士だろうか。階段を掛け上がってきた。
私達と同じくペアでスタイルもほぼ一緒。猫耳の彼女が貯蔵庫を持ち、犬耳の彼が索敵を行っているのだろう。
「⋯⋯⋯」
「⋯⋯」
黒い犬耳のキリッとした黒髪、青少年を思わせる風貌の彼が私と目線を合わせてくる。牽制してるつもりだろうが、攻撃の意思も感じない。
そのまま階層の壁にびっしりとあるバッテリーに彼ら二人も手を掛けようとする。
勿論実力行使で追い出してもいいのだが⋯慈悲というか、別に私も同族と喧嘩したい訳じゃないので、見過ごす。
私の様子を確認してか、バッテリーを抱えた猫耳の彼女がこちらにぺこりと一礼して同じように電力を回収。
形だけではあるが彼とは牽制もしつつ、お互いの動向を見張る。不意打ちされるのはこっちも嫌だし、あっちも嫌だろうから当然の行為だ。
そのまま作業を進めていると、あちらがバッテリー全体の一割程だろうか、それらの電力だけを貯蔵庫に確保し、また貯蔵庫を背負い直して外に戻ろうとする。
部屋を出る時にこちらにぺこりとまた一礼返しつつ⋯犬耳の彼が右手で壁を指差し、左手で違う方向の壁を指差した。
このハンドサインはこれからの行先と来た方向を指している。右手が行先で、左手が来た方向という訳だ。これらを知る事で探索被りが起こりづらくなるし、逆に彼らが探索したところを再探索する手間も無い。
私も同じように来た方向とこれから進む方向を指差し、それを見た彼は軽く頷いて階段を素早く降りていった。
これら一連の流れはマナーみたいな物だ。そもそも同種族で殴り合いなんてしたいヤツは稀だし、この方が探索効率も上がってお互い得する。
先にバッテリーを見つけたのはこっちだが、少しこちらが余裕を持って利益を譲ってやれば無闇な戦闘は避けられる。
⋯まぁ、こう上手くいくのは、相手も慣れている奴隷兵士だからというのもあるんだけど。
そうこうしてるうちに、ニーロクが貯蔵庫を持ち直し⋯
「終わりました、次に行きましょう!」
元気よくこちらに声掛け、ここが戦場なのを忘れそうになるくらいの元気さだ。
「元気だね、ニーロク。」
「そりゃあ元気が一番ですからっ。」
えへへっ、と笑いながら彼女が立ち上がる。私が先に入った場所から外を確認。問題無さそうなので、先にニーロクに降りて行ってもらう。
上に登るのは時間がかかるが、下に降りるのは一瞬だ、ニーロクのカバーが必要になった時、ニーロクが下に居る方が少しだけ早くカバーが出来る。⋯なんて、そんな細かい事はいいか。
無事ビルから出て次の現場へ、途中まで何事もなく順調に進んでいたのだが⋯住宅密集地だろうか、この国の中心部に徐々に近づいていき、アパートのような建物のバッテリーを漁り終え出ようとしたところで⋯
「⋯⋯おい、止まれ。」
声を掛けられる⋯というか、出口を見張られていたのか、周りに獣人がぞろぞろと集まってきた。
こちらの貯蔵庫を指差し、その後に地面に向かってとんとん、とハンドサイン。置いていけ、という事だろうか。
まぁ、たまにいる。こういうのも。
「意味が分からないね。」
「そうか、置いていかないとどうな―」
と、会話の途中で今出たばかりの建物から飛びかかってくる人影。不意打ちか。
飛びかかっくる影に対して慌てず、腰のホルスターに収められている剣の柄を引き抜く。
込める魔力は少しでいい、鉄パイプのような棒をイメージ。
魔力製の警棒、それを素早く振るい相手の攻撃を弾いて鳩尾を突く。
「ぐっ⋯!」
相手が怯み、屈んだような体勢になった所を蹴り飛ばし―
「⋯⋯もう⋯面倒くさい。」
蹴った反動を利用しながら後ろに振り向き、背後から迫っていた敵の攻撃を警棒で受け流し、拳を叩き込む。次々と囲むように襲いかかってくる敵の様子を目線を動かして確認。ニーロクをチラッと見て―
「離れないで!」
一人で逃げるつもりなんてないだろうけど、念の為に声を張って伝える。武器を使う奴もいるが、問題無い。仕事の時間だ。
獣人は元々動体視力がいい、それは相手も同じだけど⋯大事なのは、見た動きの先を読む力。
動体視力を活かすには、動きを避けるだけじゃダメ。相手の目線、動作、姿勢⋯次の動きを反射的に予測し、布石を打ちながら行動する。この行動こそ戦闘慣れと呼ばれる物であり、実力差だ。
魔力の警棒と格闘術を振るいながら、次々と攻撃を捌き、隙が生まれた所から崩していく。
受け止めた攻撃と同時にカウンターの拳。背後からの攻撃をしゃがむ様に避け、同時に足払いで相手の体勢を崩す。続け様の別の攻撃を受け流して、よろけた敵と同士討ちさせ、追撃の蹴りで二人まとめて吹き飛ばす。
すぐさま迫る刃。警棒の形状を変化させ、盾に。
衝撃と相手の勢いを受け流しながら盾を警棒に戻し、相手の懐に入って身体を強烈な膝蹴り。
獣人の動体視力と予測、これがあればこの武器は心強い。
そこそこ強気に殴ってるけど、獣人なら大丈夫だろう。少なくとも死にはしない。
呻き声を上げながら次々と地面を舐める獣人達。いつの間にか最後の一人⋯かと思っていたが、私を見るなり悲鳴を上げて逃げて行った。
「⋯⋯ん、終わったよ、ニーロク」
「つ、強いですね⋯!22番さん、さすがです!」
「そーゆーのいーよ、さっさっと移動しよう。」
気絶したコイツらを置いてさっさと離れる。これくらいなら魔力消費のうちにも入らないし、獣人は魔力は決して多くないけど、回復は速いから問題ない。
素早く移動して景色は変わり⋯というか『変わっていた』というのが正しい。明らかに地形が変わっている。
至る所にある立体道路はスパッとナイフで切られた様な断面で崩れているし、形を残している建物も少ない。遠目だが何人か私達と同じような奴隷兵士と思われる獣人が倒れている。
周囲を警戒しながら考える。
何があった?という疑問はすぐに分かることになった。
少し移動をして、更地が形成されている中心が見える位置に、こんな荒廃した場所には相応しくない神々しい翼を持ち、頭に輪っかを持つ生物。
「⋯大仕事だね、こりゃ⋯」
「あ⋯⋯ぁれ⋯⋯」
隣でニーロクが立ち止まる。見開かれていく瞳から、恐怖が映っているのが感じられた。
「う、嘘⋯⋯ですよね⋯?どうして⋯⋯」
相棒の震える声が、事の異常さを私に思い出させてくれる。
上位種族、天使だ。
早い展開を心がけています。
ここまで読んでいただき、感謝の極みです。




