54──本当のスライム
今週の土曜日に最終話投稿します。それまで一日一話投稿していきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。
やがて、道の終わりが現れた。
「ここが······」
三人が立ち止まる。
ひんやりとした静寂の森の中に、蟻塚のように盛り上がった小さな台地が現れた。
それは木の根に絡まれ、落ち葉に埋もれた何の事は無い盛り土であったが、周囲を厳重に有刺鉄線のフェンスで囲まれていた。
扉の前に立つリヴル。鍵がかかっており、防犯カメラまで設置されている。
「えーっと、ここにタッチしてと」
再びマイフォンを取り出してパネルにかざす。すぐに軽やかな電子音が鳴り、鍵の外れるガチャッという音がした。
メタリックな軽い扉を開けると、目の前に大きな口を開けた洞穴が現れた。
「う······ゴクリ······」
「な、なんだか、何時ものダンジョンと違う感じがするんだけど······」
生唾を飲むリヴルと、不安そうに穴の奥を覗くラヴィ。
コメント欄もざわついていた。
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:婚約破棄おじゃる令嬢・『なんか雰囲気あるな』
:あああああ・『ガチラスダンジョンじゃん』
:芋のポテト・『普段から見慣れてるはずなんだが、禁止ダンジョンって前提で見てると禍々しく思えてくるな』
:ブラック社畜・『俺が会社の入り口に立った時と同じような気配だな』
:摂氏50℃のゴミ箱・『↑いつもお疲れ······』
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「よ、よし。さあっ、それではここからが本番です! みなさんっ、チャンネルはそのままで! それじゃあ禁止ダンジョン行ってみよー!」
電波の中継機器を地面に突き刺され、ライトの明かりが闇へと向けられる。
リヴル、ラヴィ、そしてルキファスと続いて中へと入って行く。
そう。かつて、人類にとって最も忌まわしかった最悪の深淵、ゼグルの中へと······。
ライトの光が闇を切り裂き、静寂のダンジョンの内部を露にしていく。
「えー。クエスト開始から5分が経過しました。今のところ、他のダンジョンとの大きな違いは見られません。どこにでもある洞窟のようです。むむっ、これは嵐の前の静けさか!」
リヴルもラヴィも、ダンジョンへ入る時には必ず装備している護身用の武器を何時でも使用出来るように構えている。
「うーん。今のところ、普通のダンジョンとの差は無いように感じられるわね」
「······」
「ん? どうしたのラヴィ?」
「な、何だろう。何か······上手く言えないんだけど、嫌な予感が······」
「え?」
怯えたように辺りを見回すラヴィ。その不安が伝染したかのようにリヴルも周囲に注意を払った。
無言の土壁が、闇の中で佇んでいるだけであった。
「······や、やーねー。ラヴィったら盛り上げるためにそんなホラーテイストな事言って!」
「そ、そんなんじゃなくて。なんだろう、何かは分からないけど、胸騒ぎが······」
「そりゃあラストダンジョンだもん。胸騒ぎの一つや二つくらいするわよ。あっ、そうだ。魔王様にもいろいろと実況してもらわなくちゃね!」
自分にも芽生え始めた恐怖感を誤魔化すようにリヴルはラヴィと立ち位置を入れ換えるようにして後ろに下がり、カメラをルキファスへと向けた。
「魔王様っ、流石に実家なだけあって凄い威圧感のあるダンジョンですね! 久しぶりに帰ってきた感想をどうぞ!」
「特に言う事もない。だが、懐かしいと言えば懐かしいものかもしれんな」
「おおっ! 珍しく何時もと違う感想! やはりここは特別なダンジョンなのですね!」
ルキファスは頷いて、回りの壁を見回した。
「この辺りはモンスターどもを放し飼いにしていた場所だろう。 整備も施していないただの洞穴だからな。魔族の居住区はもっと下にある」
「ほうっ! ということは、たまにあるダンジョン内遺構がここにも存在すると?」
「残っていればな」
そこで珍しくニヤリと笑うルキファス。
「いつか貴様が言っていた戦いの傷跡やら、そういった類いの物が本当に残ってるやもしれんな」
「おおーっ! それは楽しみですね! やはりラストダンジョンなだけあって期待が膨らみます!」
と、リヴルの声が反響した時だった。
「あ、あれ? あれ、何だろう?」
先頭を進んでいたラヴィが止まる。
「何かいる······?」
「えっ、モンスター?」
ライトの先にカメラを向けつつ、自分も眼を凝らすリヴル。
「ん~······? ?! な、何あれ?」
光の先。そこには、姉妹の背よりも僅かに低いくらいの、妙な塊が蠢いていた。
しかし、それは未知の存在ではなく──
「あっ、あれ!? もしかして、スライム?!」
それは、普段から簡単に蹴散らしているスライム。の、巨大な個体であった。リヴル達がダンジョンで倒してきたスライムの数倍は大きく、半透明のゲル状の体はうっすらと発光していた。
「あ、あんな大きなスライムが!?」
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:芋のポテト・『なんじゃありゃっ!?』
:あああああ・『でかくね?!』
:新月の鷹・『これがスライム?!』
:チェックメイド・『これ世界記録サイズだろ! 前にテレビで紹介されてた最大サイズ並みだ!』
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「貴様らは何を騒いでるのだ」
狼狽する姉妹の背に、ルキファスの平然とした声がかかる。
「スライムごときで何をそんな慌てる」
「だっ、だって! あんなでかいスライムなんて見た事ないわよ!?」
その答えにルキファスは眉を寄せ
「あれが普通のサイズだ。それでも小ぶりな方だがな」
と答えた。
その答えをリヴルとラヴィは激しく否定した。
「いやいやいやっ! おかしいって! あり得ないってあんなの!」
「ほ、本当にスライムなんですか?!」
「あれこそ俺の知るスライムだ。それよりいいのか?」
「え?」
「あやつ、貴様らを狙ってるようだぞ」
言われて姉妹が視線を戻す。
離れた場所で蠢いていたはずのスライムが、いつの間にかじわじわと近付いていた。
「っ!? ラヴィ!」
「っ!!」
姉妹は咄嗟に武器を構えてスライムへ向けた。リヴルの筒状の物と、ラヴィの拳銃型の物だ。
──パアアンッ、パンパンッ──
二人の得物が一斉に火を吹く。
これまで、数々の配信で多くのモンスターを葬ってきた攻撃であったが──
『ジュルルルル』
──ブルンッ、ブルルンッ──
スライムのゼラチン質の身体にはあまり効き目がなく、ほとんどが体表を僅かに傷つけるだけで弾き返された。
「!!」
「そ、そんな!?」
驚愕する二人。しかし、すぐにリヴルが前に出てラヴィを後ろに回す。
「こんの~っ!!」
──パアアンッ、ドドンッ、ドンッ──
何時もよりも気合いの入った魔法弾が火を吹き、それが断続的にスライムを削る。
『ジュルル』
「っ!」
ラヴィも我に返り、何発もそのモンスターに弾を打ち込んだ。
スライムは肉体をグズグズに削られながらも、さらに前進してにじり寄ってきた。
「さ、下がって! ルキファスさんも!」
迎撃しながらリヴルがルキファスを押し、ラヴィの手を引いて後退していく。
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:芋のポテト・『こ、これやばくね?』
:LOVEtea・『効いてない?!』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『逃げた方がいいんじゃ?』
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視聴者達にも驚きと恐怖の感情が広がり、コメント欄が速く流れた。姉妹がここまで苦戦するとこを、誰も見た事がなかったのだ。
ダンジョン内に、頼りない破裂音がしばらくこだました。
お疲れ様です。次話に続きます。




