53──不穏な気配
程なくして。
三人は目的地の禁止ダンジョン区画へと辿り着いた。
「うわー。流石にここら辺はちょっと物々しいわね」
「うん」
そこは住宅街から少し孤立した雑木林のような場所であった。そこを、無機質で素っ気ないフェンスが囲んでいる。
道は入り口であるゲートまで続いており、そこには『警告・関係者以外の立ち入りを禁ずる。許可なき立ち入りは法的処置を受けます』と看板がかかっていた。
「よ、よし。行くわよ。まずは配信スタートからね。ラヴィ、いくわよ」
「うん」
姉妹は準備を手早く済ませ、通信状態を確認した後、放送開始のボタンを押した。
「いえ~いっ! みんな見てるよね?! 毎度お馴染みっ、今が旬っ、若さは勢いっ! アレグリア所属っ、大物新人ダイバー姉妹の美しきお姉様担当のリヴルと~······」
「同じくアレグリア所属、妹のラヴィと······」
「新メンバーの魔王ルキファスだ」
「はいっ、始まりましたっ! ラブリブチャンネル! 今日はとびっきりのキラキラな配信をしていくから見逃し厳禁よー!」
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:芋のポテト・『いえ~いっ! 今日もキラキラだ~!』
:あああああ・『魔王軍の宴の時間だ!』
:婚約破棄おじゃる令嬢・『↑サバトかな?』
:ABCエビ・『うぇ~いっ!』
:ブラック社畜・『サボった日の配信は効くぜw』
:チェックメイド・『あとちょっとで3万3000いきそうっ!』
:新月の鷹・『こんにちはっ!』
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「みんな今日も早くからありがとう! さて、告知した通り今日は重大な放送となります! それは~······なんとっ! 我らが魔王ルキファスさんの里帰り配信っ、IN禁止ダンジョン~!」
打ち合わせ通り、後ろでラヴィがパフパフと盛り上げのラッパを鳴らす。
「はいっ、という事でねっ、あたし達は早速あの有名な禁止ダンジョン密集地帯であるシュラヤのダンジョン群に来ております! いや~、ここまで来るのに苦労したよ。レベル上げて、伝説の聖剣を手に入れてオリハルコンの防具を作ってエリクサーを入手して······」
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:チェックメイド・『ごちゃまぜやん』
:ブラック社畜・『聖水は持ったか?』
:あああああ・『セーブも忘れずにな』
:Cityビースト・『いよいよラストダンジョンか。感動的だな』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『こ、こんなに大きくなっちまって······お父さんは嬉しいよ!』
:妹推し紳士・『ラヴィちゃんのラッパが俺の寿命を伸ばす······』
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ふざけたノリのリヴルに、視聴者達も合わせるコメントを多く寄せ、上々に温まった出だしとなった。
「ラストダンジョンは何が待ち受けてるか分かりません。がっ! しかーしっ! 我々には切り札があります! そうっ、それはラストダンジョンの持ち主である魔王ルキファスさんがあたし達のパーティーに入ってるのだー!!」
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:芋のポテト・『ファーーッ?!』
:チェックメイド・『な、なんだってー?!』
:あああああ・『チートじゃねえか!』
:greencha・『勝ったな。風呂飲んでくる』
:ABCエビ・『魔王が仲間とか激アツ』
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「ふっふっふ! 選ばれし勇者であるあたし達姉妹と、まさかのラスボス魔王で構成されたパーティー! これ以上、ダンジョン攻略に適したメンバーは存在しないでしょう!」
リヴルがカメラをルキファスに向ける。
「というわけで! 魔王様にも何か一言頂きましょう! 魔王様、久しぶりに我が家に帰る感想を一言どうぞ! あっと、『別に何とも思わん』以外の答えでね!」
「別に何とも思わん」
「それ以外の答えと言うてるやろがいっ!」
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:摂氏50℃のゴミ箱・『予定調和』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『今日も推しが元気でご飯が美味しい』
:芋のポテト・『実家のような安心感』
:LOVEtea・『魔王様はブレないなw』
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「えーっ、コホン! 魔王様はツンデレの恥ずかしがり屋なので、こう言ってますが、内心では涙をハラハラと滴らせ、感動にむせび泣いてる事でしょう! 2000年ぶりの里帰りなんだからね! そりゃもう、実家のような安心感が彼を待っているはずです!」
当のルキファスは何も言わずに黙っていたが、確かにその胸中では不思議な気持ちも僅かに沸いていた。
「それじゃあ、冒頭の挨拶はこんなものね。ついでにラヴィ、意気込みをどうぞ」
「えっ、私も?」
「そうよ。ラストダンジョンだもん。あんたも勇者として何か一言!」
「そ、そんな事急に言われてもっ!」
あたふたと騒ぐ姉妹の横で、ルキファスは一人ダンジョンの方を睨むように見つめていた。
(この気配は······)
「えっとー、このQRコードを読み込んでっ、と」
ゲートにて、セキュリティにアクセスするリヴル。巨大な禁止ダンジョンのゲートなだけあって、しっかりした検問所のような入り口受付には、非致死性の装備で武装した警備員も待機している。
「よし。はい、出来ました」
「はい。それじゃ、こっちの書類を読んだ上でサインを」
「はい」
端末へのアクセス。そして書類へのサイン。それらの手続きを行っていく。
警備員は、リヴルが提示した許可のファイルを確認していった。
「はい、確認しました。確かに本社から許可が下りてます。三名ですね。どうぞ中へ」
「はーいっ!」
「しかし、念のために言っておくと、ここのダンジョンは調査もほとんど進んでいない危険なダンジョンだ。くれぐれも気をつけて」
「ありがとうございます」
何時もより堅い手続きを終えた姉妹にはちょっとした緊張が走っていた。当然、今まで禁止ダンジョンなんて潜った事のない二人だ。まさに未知の探検と言えた。
ゲートから奥へと進む。整備こそされていたが、道はすぐに鬱蒼とした森の中へと三人を飲み込んでいった。
リヴルがカメラを回しながら実況を再開する。
「えー、ご覧のように普通の森です。なんか、こう、ノーマルな感じの普通ですね! 果たして本当にこんな平凡な場所に最恐最悪の魔王の居城があるのでしょうか? 解説のラヴィさん、どうですか?」
「わ、私っ? 知らないってば!」
「なんとっ! 数々のダンジョンを制覇してきたラヴィさんも知らないそうです! これはいよいよとんでもないダンジョンかもしれません!」
禁止ダンジョンの配信という、普通では出来ない配信だからか、リヴルのテンションは異様に高まっていた。
「あっ! お姉ちゃんっ、同接数がっ!」
「きゅ、960?! あとちょっとで1000人じゃん!」
さらに、やはり禁止ダンジョン配信と銘打ったからか、普段よりも多くの人間が注目していた。それも、リヴルの気持ちをさらに昂らせていった。
「よーしっ! こうなったら今日はラストダンジョンお泊まり配信でもしようか!」
「ええっ?! やだっ! やだやだやだっ! 絶対に嫌っ!」
「何言ってんのラヴィ! こんなチャンス逃す手はないわよ!」
「やだー!!」
「······」
騒ぐ姉妹を横目に、ルキファスは沈黙のまま足下を見た。
それは、魔族にしか分からない勘のようなもの。いや、感覚。
(この深淵は······)
ルキファスはポツリと呟くように言った。
「まだ生きている」
「え、何か言った?」
リヴルが呑気に聞き返したが、ルキファスは何も言わなかった。
お疲れ様です。次話に続きます。




