51──ラストダンジョンへ
「さっ、魔王様に最後の抱負を語って貰いましょう! 魔王様。視聴者の皆に何か一言よろしくお願いします!」
そう言われ、ルキファスは表情を変えないままカメラを見た。
「俺には貴様らの望む物が何なのか分からんが、しばらくはこうして語らいの場に出るつもりだ。来たい者は好きにしろ」
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:芋のポテト・『ははーっ! 魔王様!』
:あああああ・『ありがたき幸せ······』
:チェックメイド・『仰せのままに······』
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「あははは! 皆だいぶ訓練されてきたね! それじゃあ、今後とも我ら魔王軍をよろしく!」
配信が終了し、生放送の余韻だけが室内にやんわりと漂った。
「ふいー······。うんっ、けっこう良い感じじゃん! ルキファスさんが実家に帰りたいなんて言い出した時はどうなる事やらと思ったけど」
「だね。それに、いきなり画面に向かって誰かに話しかけるし」
姉妹は、とりあえず問題なく終えた配信にホッとしつつも、ルキファスの奇行に興味を抱いた。
「ねーねー、ルキファスさん。さっきの話だけどさ。そのゼグルの深淵ってのはどのネタから仕入れた情報なの?」
「ネタ? ネタとは何だ?」
「あー。ま、いっか。とりあえず、ルキファスさんはこの禁止ダンジョンに行ってみたいんでしょ?」
広げっぱなしのマップをトントンっと叩くリヴル。そこは真っ赤に『禁止』とマークされた一帯であった。
「でもさ、さっきも言ったけどここは入れないのよ。立ち入り禁止区域だから」
「俺もさっき言っただろう。どうせオルグロンの奴もさっきの放送とやらを見ていた。俺の命令を無視出来るほど肝の据わった奴ではない。入れるようになる」
「あだだっ! も~、だからそのオルグロンとかって何なのよ~」
と、リヴルが弱っていると、マイフォンから軽やかな着信音が鳴った。
「ん? あ、事務所からのlaneだ」
マイホを操作して内容を確認する。すると──
「······えぇっ!!?」
「ど、どうしたの?」
大声を上げてフリーズする姉にラヴィが驚いて、同じくマイホの画面を覗き込んでみる。
「えっ!? 禁止ダンジョンへの許可証?!」
そこには事務所のマネージャーからの業務連絡の知らせがあり、『禁止ダンジョンへの立ち入り許可について』という件名であった。
内容の旨としては、リ・バースフィアのロン社長からリヴル姉妹に正式な許可を出すという連絡が数分前に入り、それを連絡したとなっていた。
「「······」」
姉妹は揃ってルキファスの方へとゆっくり首を動かした。当の本人は既にマップにも興味を失くしたのか、おもむろに立つと、隣の部屋へと移動してテレビを点けて見始めた。
「······ねえ、ラヴィ」
リヴルは呆然としたように妹に話しかけた。
「どう思う?」
「どうって······」
ラヴィも返答に窮した。
二人の元に届いた連絡はあまりにも唐突で、あまりにもタイミングが良く、あまりにも出来すぎていた。
そう。本当にルキファスが誰かに命じて事を運んだかのように。
「そう言えばさ」
「うん」
「オルグロンって、ロン社長の名前に似てない?」
「どこが······」
「名前の最後」
「······」
「あとさ」
「うん」
「ロン社長もさ、なんかあたし達にやたらルキファスさんの事聞いてきたよね?」
「······そうだね」
「二人とも知り合いだったり?」
「······どんな?」
「魔王とその配下、とか」
「······」
「······」
もう一度、姉妹は揃ってゆっくりとルキファスの方を見た。
『人気お笑い芸人が続々参戦! さらに今話題のあの天才子役もついに登場!! 今夜のドッキリイリュージョンは一味違う!』
「······くだらんな」
ゴールデンタイムの人気番組を冷ややかに見送りながらチャンネルを回してくつろぐルキファス。ソファに身を沈め、リモコンをテレビに向ける格好は仕事終わりのお父さんの様式美を倣っていた。
そんな俗世的なルキファスの姿を見て、姉妹は顔を見合わせた。
「······ザッピングする魔王なんて居る訳ないか」
「うん······多分」
リヴルとラヴィの姉妹は、言いようのない不気味な気持ちを抱いた。
「つまらん。人間どもはこれの何が面白いと感じるのだ」
全てのバラエティ番組を回し終えたルキファスが憤然と言い捨てる。
翌朝。
「それじゃあ、ルキファスさんのご要望に答えまして~······じゃじゃんっ! 行ってみようっ、ゼグルの深淵!」
朝食の卓にてマップをドンっと広げるリヴル。目的地の禁止地域にペンでマークが付けられている。
「おお~っ、こうやって見るとマジで禁忌のダンジョンの真っ只中ね。本当に入れんのかしら」
「仮に入れたとしても、本当に行くの? お姉ちゃん」
ラヴィは不安そうな表情を浮かべていた。
「禁止にされていたって事はそれ相応の事情があるからだろうし······」
「まあ、確かにね。でも、これはチャンスよラヴィ!」
リヴルが目を輝かせる。
「あたし達はこの短期間でこんなに大きくなったわ! 波に乗ってる内に更なる大きな波に乗らないと! このゼグルの深淵とかいうダンジョンがどんなとこかは知らないけど、現に禁止ダンジョンなのは事実! となれば、ここを生配信したダイバーはほとんど居ないはずだわ!」
事実、禁止ダンジョンに指定されたダンジョンは基本的に人の立ち入りが禁じられており、入れるのは特別な許可を得た研究者などの専門家にとどまる。
また、ダイバーなどでも入れる者が極稀に居るが、それも特別な許可を得た者だけ。それですら、登録者数がトップレベルのライバーやダイバーなどのようなインフルエンサーが、専門家と共に限られた範囲を制限時間以内に探索するにとどまる。
つまり、リヴル達のような新人達が単独で自由に立ち入れるというのは前代未聞なのである。
「このアドバンテージはヤバいわ! 普通、例えダイバーが入れたとしても自由に探索出来る訳じゃないもの。でも、あたし達にはそんな制限は無い! あるのは『自由に探索して良い』っていうロン社長の特別許可のみ! こんな大盤振る舞いな許可を貰ったダイバーはあたし達が初めてのはずよ!」
それも事実であった。禁止ダンジョンを何の制約も無しに無制限に探索して良いというのは非常識とさえ言えた。何故なら、何か事故が起こった時の責任問題に発展するからだ。
悪く言えば無責任な許可なのだ。もっとも、それは許可を下ろした者が『魔王様に逆らうくらいなら······』と、大いに恐れて後先考えずに決めたからであったが。
朝食が終わり、姉妹は片付けを手早く済ませて用意に取りかかった。
「それじゃあ、今日は張り切って行かないと! お弁当は持ったわね?」
「うん。私達のサンドイッチ、それとルキファスさんのカップ麺」
今日の姉妹の荷物は多い。軽いハイキングや登山に出かけるためのような装備が整えられている。
「ライトもあるわね。よーし。それじゃあ行くとしましょうか!」
ソファにくつろぐルキファスをリヴルが振り返る。
「ルキファスさーんっ、お家に行くわよ~」
「ん? ああ、そうだな」
ルキファスも立ち上がる。
「どうせ朽ちているだろうが、この目で見ておくか」
こうして、三人はゼグルの深淵目指して家を出たのであった。
かつて、人類が何度も挑んでは虚しく敗れ去っていった、その最強のダンジョンへと。
「お昼ごはん楽しみ~!」
「もう、食べ過ぎないでよ?」
ピクニック気分で。
お疲れ様です。次話に続きます。




