4──解かれる封印
その突然の音の後、不思議な事に扉の模様がスーッと消えていった。
「······あ、あはははっ! あ、あるある! 文字が消える魔法も! あんまし聞かないけど!」
「な、何だったんだろう······」
二人が部屋の中へ顔だけそっと先行させて覗く。
ライトが中を照らす。行き止まりのようであった。
慎重に中へと入る姉妹。
改めて全貌が明らかになったその部屋は、正方形の小さな部屋であった。
「終点かな?」
「う、うん。みたい」
それ以上先に通路は無く、扉も無い。そこで終わりの部屋であった。
「ん? 何かある」
部屋の奥に小さな卓のような物があった。
二人が近寄ると、それは卓ではなく、台座であった。中央に剣が刺さっていた。
「えっ?! 何コレ?」
「け、剣?かな······」
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:あああああ・『伝説の剣キターーー!!』
:greencha・『伝説の剣www』
:sunaip13・『ヤラセくさいな』
:摂氏50℃のゴミ箱・『どっかのスタジオとか?』
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恐る恐る剣に近づく二人。
「あ、あれ?」
ラヴィが首を傾げる。
「この剣、錆びてない······」
剣はライトの光を眩しく反射していた。まるで今しがた研がれたばかりのように、その表面はなめらかで光を滑らせていた。
「······わ、わあ~っ! すごーいっ! もしかして、なんか凄い伝説の剣かも~!」
見惚れていたリヴルが思い出したようにレポートを始める。
「みんな~、見えてる? なんか凄そうな剣を発見! 骨董品ニキはぜひこれの正体当ててねー」
もしかしたら本当の大発見かもしれないと考えたリヴルが有識者に意見を求める。
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:芋のポテト・『そもそも本物の剣?』
:新月ノ鷹・『手を切らないように気をつけて』
:tissuekenja19・『なんかパチモンっぽいな』
:妹推し紳士・『これスタジオ撮影とかではないよね?』
:greencha・『抜いたらチート能力得られたりして』
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しばらくコメント欄を見ていたリヴルとラヴィであったが、何か分かった視聴者は居ないようであった。
「うーん。何か分かんないかあ」
「どうする?」
ライトで四隅をくるくると照らすラヴィ。
「ここが行き止まりみたいだし、帰る?」
マイフォンの画面に表示されている同接数(リアルタイムで視聴しているユーザーの数の事)はすでに700近くにまで達しており、これは二人にとっての最高記録をはるかに上回っていた。
つまり、本来の目的である“バズり”は達成されたと言っても良かった。
「こんなに沢山······やったねお姉ちゃん。今日は大成功だよ」
「············足りない」
「え?」
リヴルが立ち上がる。
「こんなんじゃオチ無しよ! 配信者たるもの、やれるとこまではとことんやる!」
「でも、やるもなにも、もう何も無いよ?」
「あるわ。それよ!」
勢いよく指差すリヴル。
人差し指の先には物言わず刺さる剣があった。
「あれを持って帰らなきゃ!」
「ちょっ、正気?!」
唐突な発言にラヴィが慌てだす。
「だ、駄目だよ! もしかしたら貴重な遺跡とかかもしんないんだし! 現状維持したままにして役所とかに報告しなきゃ!」
「へいき、平気。ダンジョンで見つけた物に関しては基本的には発見者にその所有権が与えられるんだから。報告の義務はあるけどね。提出に関しては、歴史的に重要な価値があると専門機関が認定した時だけ」
つまり、と剣に歩み寄って柄に手を掛けるリヴル。
「お、お姉ちゃん?!」
「まずはあたし達が確保しないと! もし別に提出の義務が無い物なら、これはあたし達にとっては一番の獲物だもん!」
「だ、駄目だよ! 危ないよ! 第一そんな物置いとく場所なんて家には無いよ!」
剣を抜こうとする姉に飛び付くラヴィ。
「こ、こら! 何するの! あんたも手伝いなさいっラヴィ!」
「やだ! その手を離しなさいっ、お姉ちゃん!」
「姉の言う事を聞けない妹は地獄に落ちるわよ!」
「お馬鹿な姉の面倒を見なきゃいけない今生こそ地獄だよ!」
「あ、あんですってー?!」
剣を掴んだまま揉みくちゃになる姉妹。壁に立て掛けられたリヴルのマイフォンがその様子を撮影し続け、その横にあるラヴィのマイフォンの画面ではコメントが賑わっていた。
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:リヴルちゃんすこすこ侍・『姉妹ゲンカてえてえ』
:妹推し紳士・『あら~』
:sunaip13『まーた百合営業か』
:tissuekenja19・『みえっ·······ねえ!』
:芋のポテト・『姉妹のキャットファイトは二日酔いにも効くと医療機関が認定している』
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「この~っ、いい加減にっ······」
──ジャギッ······──
「え?」
「へ?」
暴れていた振動からだろうか。
ピタリと刺さっていたはずの剣が軽く傾いた。
「あ」
「あっ」
そして、その傾きに姉妹が足をもつらせ、二人の体重がかかった剣は音を立てながら斜めになり──
──ギンッ──
そのまま倒れる姉妹。
「あべっ!」
「いった?!」
リヴルの上に折り重なるラヴィ。
「いっつつ······ちょっと、ラヴィ大丈夫?」
「いたたた······あっ! ああっ! お姉ちゃん!」
「ん?」
「け、剣が······」
リヴルの手には、今しがた台座から抜けたばかりの剣が握られていた。
それを見て顔を明るくするリヴル。
「やったー! 抜けた~! 伝説の剣っ、勇者リヴルが手に入れた~! チャララ~!」
「あ、ああ······やっちゃった······。歴史的に価値あるダンジョンだったらどうしよう······。物凄い罰金払わされるんじゃ······」
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:妹推し紳士・『泣かないでラヴィちゃん』
:新月ノ鷹・『大丈夫?』
:摂氏50℃のゴミ箱・『通報しましたww』
:操之命大神・『あーあ、やっちゃったー』
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「お、おお~! 思ったよりはかるーい! しかもきれ~」
軽く剣を振ってみるリヴル。風が小さくさえずり、刃は細かく瞬いた。
「へえ~、けっこう綺麗な剣じゃん。本当に伝説の剣とかだったりして」
「うぅ。どうしよう······配信を見てた人が通報して、家に警察がやってきて、重要史物破壊罪で姉妹揃って逮捕されて······そんなバズり方やだぁ~!」
「もーう、大丈夫だって。壊した訳じゃないじゃん。抜いただけじゃん」
「炎上系配信者とおんなじ事してるって自覚ある?!」
「わ、わわっ?!」
怒りに牙を剥き出す妹にリヴルもたじたじになった。
「ま、まあまあ。ほら、さっきのは事故みたいなもんだし、大丈夫だよ」
「んな訳ないでしょ! 明らかに故意だった!」
「ほ、ほら。壊した訳じゃないし、大丈夫だってば~」
と、姉妹で言い合いになっている時であった。
──ゴオオオオン······──
「うわ?」
「えっ?」
足元から軽い地響きがした。
「え、地震?」
「な、なんだろう。何か軽い衝撃がしたような······」
──フハハハハ······──
「「!?」」
二人の姉妹がピタリと止まる。
「······ね、ねえ。今、なんか声がしなかった?」
「い、いや······気のせいじゃない?」
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:婚約破棄おじゃる令嬢・『お?どした?』
:あああああ・『何か聞こえんの?』
:芋のポテト・『え、唐突なホラー?』
:新月ノ鷹・『何も聞こえないけど······」
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リヴルとラヴィが息を潜め、耳を澄ます。
どこかで確かに何か音がしていた。
それは地底から這ってくる土砂崩れのような、そんな音だった。
「え、な、なに? 崩落?」
「そ、そんな訳······」
──フハハハハッ、ハーッハッハッハッ──
「「!!??」」
今度は二人の耳にハッキリ聞こえた。
誰か、何かの不気味な声が、笑い声が······地獄の底から噴き出てくるようなおぞましい高笑いがハッキリと。
「い、い······」
「今、のは······」
──フハハハハハハハッ、クワーッハッハッハ──
「!!? い、いやああああ!!」
「わ、わあああああ?!」
不気味に木霊する声に、二人は慌てて駆け出した。しかし、抜け目なく撮影用のマイフォンは回収していく。
ラヴィの手を引っ張り、必死に走っていくリヴル。
姉妹の後ろから、不気味な声は鳴り響き続けていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




