47──魔王のこれから
夕陽が町を照らし、影が町並みを沈めていく。
ほんのりと暮れゆく景色をルキファスはじっと眺めていた。
「ルキファスさんは外を見るのが好きねえ」
その足下でゴロッと寝転がっているリヴルが呑気に言う。
「やっぱり魔王様だから、どうやってこの町を征服してやろうかって思考中?」
「······」
ルキファスは答えずに視線を外へ戻した。
そんな彼に、再び呑気な声がかけられた。
「ねーねー、ルキファスさん。もし、ルキファスさんが本物の魔王ならさ、世界征服した後なにがしたい?」
「なに?」
思わずルキファスが振り返る。リヴルは床に転がったままだ。
「あたしさー、たまに考えるんだけどさ。もしダイバー配信で天下取ったら次はどうしよっかなーって。ほら、今は頂点に立つのが目的な訳だけど、立った後はどうしよっかって事。まあ、あたしの場合はお金ガッポガッポだろうから、マッキーの株をぜーんぶ買収して家の中に専用店舗とか作っちゃおうかなーっとか考えてるんだけどね」
その話のほとんどはルキファスには良く理解出来ない事であったが、不思議と無視する気にはならなかった。
「そうか。お前には目的があるのだな」
「もっちー。ま、今は何よりバズだけどね。バズってバズって、バンバズして何時かはユークリのトップダイバーになるの」
まあ、ユークリはダイバーだけじゃないから難しいけどね。と言うリヴル。
「ルキファスさんはー? 世界征服したら何をするの?」
「······さあな。本来なら人間どもを支配して魔力を奪う事が目的だが、この時代の人間どもは魔力が無いに等しいようだからな。全く役にも立たん無用な輩だ」
「おー。めっちゃ炎上案件なセリフ。人権無視の魔王らしさ百点」
笑う少女。
「それにしても何なのその設定。いつの間にか新しい設定考えたの?」
「設定ではない。事実だ。だから支配などしても意味が無い。故に、人間どもを侵略する気にもならん」
「へー。なんか変わった設定だね」
ルキファスの編み出した新しい魔王設定。という風に思い込んでるリヴルは実に楽しそうに相づちをうった。
「魔王って人間滅ぼしたり、皆殺しにするのが仕事かと思ってたのに」
「ほう、人間にしては愉快な事を言うではないか」
「いやいや、物騒でしょうが。でも、目的を失った魔王様かあ。なんか面白いかもっ」
「面白い?」
またまた予想外な言葉に流石のルキファスも面食らった。
「その設定いいじゃん! なら、こうしよ! ルキファスさんは久しぶりに目覚めた魔王なんだけど、人間と戦うのは疲れちゃったから何か新しい目標を立てるの。そうっ、有名ダイバーになって大勢の人間を眷属にするっていう目標が! 戦わずして支配する新しい形の魔王ってわけ!」
パチパチと瞬きする魔王。それには構わず、少女の妄想、というより構想が膨らんでいく。
「これいいわね! ね、ルキファスさんっ。今度からその設定でいこっ! あっ、そうだ、ノートに記録しなくちゃ!」
先ほどまで全く起き上がる気配もなかった体がウサギのように跳ねて配信部屋へと駆け込み、すぐに引き返してきた。
手にはあのノートがあった。
「ささ、魔王様っ。今後の方針を立てていきましょっ。魔王様のプロフィールアップデート~。んーっと、『ルキファスさんはめっちゃ強い魔王だったけど、そろそろ歳だし、人間とも仲良くなりたいので戦う事は止めました。代わりに、配信によって信者を増やして······』あっ、魔王辞めて教祖始めました!なんてのもいいかも! 邪神崇拝の魔王教祖様なんてどう?」
くるくるとペンを回し、ニコニコと笑うリヴル。
その、自分のやりたい事を心の底から楽しむ様子をルキファスは静かに見ていた。
「ん? どうかした?」
「······いや。お前、人間なのが惜しいな。魔族であればあるいは取り立ててやったかもな」
「ははーっ、光栄でございます魔王様~! なーんてね。でも、ありがとねルキファスさん」
トントンっと横の座布団を叩くリヴル。
「ほら、突っ立ってないでここに座りなよ。ラヴィ~、ジュース~っ」
「それくらい自分で用意しなさいっ」
キッチンに立つラヴィから一喝が返ってくる。
「もう、今お姉ちゃんが大事な会議をしてるって言うのに。ま、いっか。とりあえずルキファスさん、またあたしがプロフィールあれこれ設定を変えていくからさ、要望があったら言って」
ルキファスはしばらく、リヴルの問いに適度に答えていった。
ほどほどに煮詰まってきた頃、ラヴィがオレンジジュースの入ったコップを二つ持ってきた。
「お姉ちゃん、またノートで何かやってんの?」
「む~ん······ルキファスさんのプロフィール更新してるんだけどさ、そのキャラが『脳筋インテリ邪神崇拝教祖系スパダリツンデレ俺様プロゲーマーの元魔王』ってなっちゃったんだけど、少し属性を削れないかなーっと」
「サッパリ分からなかったから一からやり直すといいよ」
「まーたそうやってイチャモンつけて! 妹のくせに生意気だぞー!」
「姉のくせにお馬鹿!」
「何をー?!」
揉みくちゃに争う二人をルキファスは横目で見ていた。
「騒がしい奴らだ」
「それにー! 大体さ、こんな事して意味あるの? 私達、もしかしたらクビになるかもしれないのに······」
ふとトーンを落とすラヴィ。リヴルもうっと言って苦い顔をした。
「うぐぐ。確かに今日の事を考えるとちょっと心配ではあるわね······」
「何がだ」
何の話か分からないルキファスが尋ねると、リヴルが落ち込むように暗い表情になる。
「聞いてなかったの? あたし達さー、今日行ったあそこの社長に怒られちゃってさ」
「社長?」
「うん。こんな大きい人でさ。巨漢っていうか巨人って言うか。それがさ、凄い剣幕で怒鳴って······しかもその理由が分からないんだよねー。なんかあたしらの動画見ていきなりキレちゃってさ」
「巨人······オルグロンの事か?」
「えー、名前までは知らないなー。てか何そのオルグロンとかって」
そんなやり取りをしていると、ラヴィがマイホをいじって二人に見せてきた。
「これがその人です。ロン社長と言います」
画面にはリ・バースフィアプロダクションのホームページが開かれており、そこにはオルグロンの写真が掲載されていた。
「やはりオルグロンではないか」
「ロン社長って言ってんじゃん。とにかく、そのロン社長があたしらに激怒しちゃってさ」
「何故かは分かりませんが、すっごい大声で怒鳴りつけられちゃって······それで私達も逃げるように退室しちゃって」
「ようにじゃなくて逃げたのよ。いやー、あれはビビったわね。あれこそ本当に魔王かと思ったわ」
「あんな小者が魔王になれる訳ないだろう。しかし······」
ルキファスは少し何か考えるように腕を組んでいたが、無表情のまま言った。
「心配する事などないだろう。あいつが何を言おうとも一言『黙れ』とでも言えば引っ込むだろう」
「んな訳あるかーいっ! 即クビだわっ!」
そう叫んだ後、リヴルは少し吹っ切れたように笑った。
「でも、ま。たしかにクヨクヨしてても仕方ないわね。黙れはともかく、『うっせー!知らねー!』くらいの気持ちでいかないとね」
「それ、ほぼおんなじじゃん······」
表情がコロコロ変わるリヴルをルキファスは静かに見ていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




