37──配信事故?
幸いにもモンスターには出くわさないまま(リヴル的には撮れ高の展開が無くて不満であったが)奥へと進む一行。
「ねー、魔王様~。どこまで行くの~?」
リヴルが話しかけてもルキファスは応えない。
(魔力の流れが弱い。ここに居るモンスターもクズばかりだろう)
しかし、ある種の独特な魔力の流れを敏感に感じとる魔王。
(魔鉱床の気配だ。恐らくこの先に──)
「む?」
ルキファスが立ち止まる。後ろを小走りでついてきていたリヴルとラヴィも止まった。
「ふう。やっと止まった。もー、か弱い女の子を二人連れてるのに大股でズンズン先に行くかな普通」
「また何か見つけたんですか?」
ルキファスは崩落した坑道の前で止まっていた。大きな岩が道を塞いでいる。
「······」
(この先だな)
「あー、ここは塞がっちゃってるね」
「こうやって埋まってしまった所も多いみたいです。古い坑道ですから」
「ルキファスさん、ありがとね。また盛り上げてくれようとしてたんだろうけど、流石にこれ以上先には行けないわ」
「······」
────────────────────
:芋のポテト・『この間の神展開は無しかな』
:チェックメイド・『行き止まりやね』
:あああああ・『今日は流石に仕掛け無しか』
────────────────────
──スッ──
ルキファスがスッと手を掲げ、岩にピタっとくっつける。
「あはは。ありがとねルキファスさん。またそうやって魔王のハンドパワーを使ってくれてんのね」
「この間の隠し部屋凄かったですもんね」
姉妹も、チャンネルを盛り上げるために芝居をしてくれる魔王ルキファスに微笑ましい気持ちになって笑った。
だが。
それは芝居ではない。
「ふん······」
──ゴッッ──
「ん?」
「?」
その辺りに何とも言えない音が短く響いた。
それは、岩に何か重くて固い物が当たったような、あるいは巨大な岩がほんの少し浮いて落ちたような、そんな表現し難い音であった。
そして──
──ピシッ······カラ、カラッ······──
「えっ」
「うん?」
──······ズズズッ、ガラガラガラガラーッ──
「ひゅああ?!」
「ふぇああ?!」
突然、坑道を塞いでいた岩に細い亀裂が走ったかと思うと、それは大きな裂け目となって割れ、脆く崩れていった。
──ドドオオンッ──
────────────────────
:芋のポテト・『ファーーーッ!?』
:あああああ・『えええええええええええっ!?』
:No.35zako・『ええええええええええ!』
:新月の鷹・『えっ!?』
:cityビースト・『エエエエエエエエッ!』
:チェックメイド『!?!!!?!』
:リヴルちゃんすこすこ侍・『えええええ!?』
:ABCエビ・『ふおおぉ!?』
────────────────────
轟音と埃を立てて呆気なく崩れ去る大岩。
辺りは舞い上がった砂ぼこりで白く煙り、配信画面はほとんど何も見えなくなってしまった。
「ケホッ、ケホッ、ケホッ······ちょ、ちょっとラヴィ大丈夫?!」
「う、うん、ケホッ、ケホッ! 一応平気······」
「ケホッケホッ! す、凄い砂ぼこりっ······いったん退却ー!」
リヴルはラヴィの手を掴んでその場から離れた。
埃が薄まった地点で身体中を払い、マイホの状態などを確認する。
「な、何が起こったんだろう?」
もうもうと煙るそこにライトの光を当てるリヴル。
「崩落? もしかして古い坑道だから?」
「で、でも、こんなタイミングで?」
「あっ、ルキファスさんっ、ルキファスさんは?!」
と、ここで。ルキファスが見当たらない事にリヴルがようやく気づいた。
「も、もしかしてっ、さっきの崩落に巻き込まれたんじゃ······」
リヴルとラヴィの二人は互いに顔を見合せてゾッと青ざめた。
「お、お~いっ、ルキファスさーん! 大丈夫ー?!」
「ルキファスさーんっ! 返事して下さい!」
────────────────────
:芋のポテト・『これ本当に大丈夫か?』
:あああああ・『とりあえず、いつでも緊急連絡出来るように待機』
:新月の鷹・『大丈夫かな······』
:LOVEtea・『ガチ事故?』
────────────────────
二人の姉妹の間と、配信を見ている視聴者達の間にも不穏な緊張が走った。
しかし、そんな緊張感はすぐに安堵へと緩む事になる。
「何をしている。早く来い」
という、ルキファスの声が煙の向こうからしたのだ。
「ルキファスさんっ! 大丈夫?」
「お怪我はありませんかっ?」
声のした方へと慌てて駆けつけるリヴルとラヴィ。
ようやく薄れた砂煙の中で、ルキファスは何ともないように立っていた。
「貴様らは何をしているのだ?」
「何って、待避してたんじゃない。崩落に巻き込まれたかと思ったわよ」
「手加減しておいてやった。そんな事にはならん」
「はい?」
目を点にするリヴルには構わずにルキファスが歩き出す。
「早くしろ。この先に“盛り上がり”とやらがあるかもしれんぞ」
「あ、ちょ、ちょっと!?」
「危ないですよっ、早く出ましょう!」
道を塞いでいた大岩が崩れた原因。それは魔王によるささやかな一撃によるものであったが、そんな事を知る由もない姉妹は落盤の可能性に慌てた。
が、魔王はそんな二人になどお構い無しにどんどん先に行ってしまった。
「あ~っ! もう! ラヴィっ、先に出てなさい。あたしがルキファスさんを連れ戻してくるから」
「わ、私も行く!」
結局、姉妹は恐る恐るとルキファスの後を追った。
長い間閉ざされた坑道の奥からは異様な空気が漂ってきていた。
「うぅ? なんだろこの感じ······」
「なんか気味悪い······」
それは閉ざされた世界の中に僅かに残っていた魔力。あるいは、瘴気とも呼べる物であった。
「ルキファスさ~ん? もういいよ、帰ろう?」
リヴルがライトを向けると、少し奥へ行った場所にルキファスが背を向けて立っていた。
その姿を確認してとりあえず安心する二人。
「もう、先に行かないでよ。ルキファスさん、今日はこんくらいでいいから帰るわよ」
「また何時さっきみたいな崩落があるかも分かりません。安全のため出ましょう」
しかし、ルキファスは怪訝な顔を振り向かせた。
「何を言っている。それより、お前らが欲しそうな物を見つけたぞ」
「え?」
ルキファスの視線の先。そこへ光を当てるリヴル。
「ひっ?!」
「きゃっ······!」
短い悲鳴を上げるリヴルとラヴィ。
そこには、何の動物かも分からない巨大な生き物の頭蓋骨が佇んでいた。
大きさは自動車よりやや小さく、前面へと長く伸びたワニのような形。口に当たる部分はリヴル達の胸元ほどの高さまであった。
闇の中にひっそりと沈むその骨は、神秘的なエメラルド色をしていた。
「な、何よこれ?」
「な、何かの骨、だよね?」
「コランダム・リザドルガの骨だ。こいつを配置していたのを思い出してな」
ルキファスは淡々と言い、地面に落ちていた野球ボールほどの破片を拾い上げた。
「こいつは鉱石を喰って自身の骨にする能力があった。人間どもから鉱石や宝石を奪ってこいつに食わせていたのを思い出した。鱗や皮膚なども金属になったりする。宝石化は部位によって異なるが、これはルビーだろう」
「は、はい?」
受けとるリヴル。その骨はズシリと重く、そして美しかった。
「え、え? これ本物?」
「お、お姉ちゃんっ。とにかく、早く出よう?」
「え、ええ」
先ほどの一撃が響いたのだろうか。奥の方で崩落する地鳴りが響いていたため、姉妹は混乱のままそこから脱出する事となった。
お疲れ様です。次話に続きます。




