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35──勢いにのって穴へ





 






 朝。ダイバー姉妹のマンションは今日も賑やかなモーニングコールで始まっていた。



「はい、今日は遠征です。お覚悟はよろしいですわね?」


 そんな芝居がかったリヴルの言葉に頷くラヴィ。そして怪訝な顔しかしないルキファス。


「どうした小娘。今さら令嬢のマネなどしても貴様が庶民的なかしまし町娘という事は分かっているぞ」

「お茶目な挨拶をディスで返すないっ! そんな細かい事にツッコむんじゃなくて、遠征の方にツッコんでよ!」


 バンっとテーブルの上にマップを広げるリヴル。


「波に乗りに乗っているあたし達だけど、ここで初心を忘れることなかれ! 確かにルキファスさんの魔王配信はウケたわ。ゲームの才能とか、フードファイター的な食事量も素晴らしい。けど、あたし達はノーマルなライバーやストリーマーじゃなくて、あくまでダイバー。そう、ダンジョンに潜って配信するのが本職よっ」


 指先が“ツフォール渓谷ダンジョン帯”という文字を差す。


「ここはあまり人気の無いスポットなんだけど、だからこそ隠されたエリアとかの発見があるかもしれない。この間のルキファスさんの奇跡の隠し部屋みたいにね」

「でも、あそこは廃坑跡だから入れない場所も多いよ?」

「まあね。けど、いいじゃん。あたしらだけだと面白み無いかもしんないけど、何たってこっちには魔王様がついてるんだから。ダンジョン歩くだけで面白い絵になるわ」

「そんな単純な······」


 そんな短絡的な動機とは言え、事実ツフォール渓谷のダンジョンはあまり配信されていないのが多い。穴場と言える。


「さ、すぐに準備よ!」







 姉妹の運営するチャンネルは登録者数が既に2万5千人を越えた。参考に付け加えておくと、配信サイトであるユークリことユアクリスタルにおいて、チャンネル登録者は1000人以上で上位10%ほどの人気ぶりなのだ。


 1万人以上の登録者数があれば、配信業だけでも生活出来なくはないと言われている事を考えると、わずか数日で2万人近くの伸びを出したのは驚異的と言えた。


 しかし、どんな波であろうと乗り間違えたり、モタつけば失速するのも現実。競争の激しい世界なのである。


 そこで、リヴルは本来は休みにしようと考えていた今月のスケジュールを一新して、積極的にダイバー活動をしていく事にした。


 今日の遠征も、その一環である。





 支度を終えた姉妹と、魔王は外へ出て商店街を歩いた。


 午前の商店街は近所の年寄りなどの常連客で独特な賑わいを見せている。


「小娘、貴様が指した場所はドトリトだろう? 歩いて行けば一日かかるぞ」

「だ~から~、ドッドリードじゃなくてセリークリバ。歩く訳ないっしょ。電車よ電車」

「電車? ああ、あれか」

「電車賃は私達が出します」


 この町に来た時に乗ったなとルキファスは思い出した。


 未だに物珍しそうに周囲を見回す魔王を連れて電車へと乗り込む姉妹。ルキファスがいつ問題行動や発言をするかハラハラと見守らなければならない。





 五つの駅を越え、40分ほどした辺りで車内アナウンスが『次はツフォール谷前駅、ツフォール谷前駅──』と、目的地の名を知らせた。



 やや田舎よりの小さなホームへと降りる三人。彼女らの住む町よりも静かで小さな空気が漂う。


「はいとうちゃーく。ここはセリークリバの北東にあるツフォール渓谷近くよ」

「ここにダンジョンがあるのか?」

「はい。バスに乗って20分程になります」


 駅から出て、バスロータリーにて渓谷行きのバスを待ち、乗り込む。

 人の少ないバスは呑気に出発した。


 窓に映る景色をルキファスは飽きもせずに眺めていた。知らない町の景色も、やはり遥かな未來の姿なのであった。


「ルキファスさんってほんと車窓からの景色好きねえ」

「町が珍しいのですか?」

「ああ。いくら二千年経ったとは言え、こうまで変わるとはな」

「はいはい。二千年ボケはカメラ回ってからでいいわよー」


 飽きもせずに町を眺め続けるルキファス。その横で細かい打ち合わせを詰めていく姉妹。



 果たして、二千年前の当事者の何人が、こんな光景を想像出来たであろうか。

 恐怖の魔王がバスの窓から人間の町を眺め、その隣で少女達が気兼ねなく夢を追い続けられる。そんな光景を。





『ツフォール渓谷。ツフォール渓谷入り口』


「降ります、と」


 ──ピンポーン──


 降車の意思を伝えるボタンを押すリヴル。バスが停まり、三人が降りる。


「はいっ、到着。ここが渓谷入り口よ」


 と、言われて現れたのは、渓谷と呼ぶにはやけに浅い盆地のような場所であった。やや傾斜のかかった土手に挟まれ、狭まった地形だ。


「渓谷? ここがか?」

「うん。こんな町中に変でしょ?」


 町中と言っても、畑や牧場が広がり、昔ながらの民家などが点在する場所だ。しかし、人の居住区の真っ只中なのは変わりない。


 近くには看板で『ツフォール渓谷入り口』と示されていた。


「さ、行きましょっ。ダンジョンの入り口に着いたらカメラ回すわよ~!」


 三人で坂を下り、備え付けられた階段を下りていく。



 渓谷の深さは家が一件か二件ほど縦に並べられるくらいであり、幅は四車線道路ほど。雑木林が気紛れに生えているが、土手のあちこちは削れきれて岩壁のようになっている。


 渓谷と言うよりは、利用価値の低い地形がそのまま放置されているような具合だ。


 だが、ダンジョンがあるからなのか、道などはある程度整備されており、道の隅には簡易的なサッカーゴールや野球ベースなどの置き場もあった。ちょっとした空き地や公園としても利用されているのだ。



 そんな渓谷を進んで行くと、岩壁に空いた横穴がヒョコヒョコと現れ始めた。


「さ、どこに入ろうかしら。前に一回来たっきりだもんねぇ」

「どこ入ってもあんま変わらないよ」


 いくつもあるダンジョン。しかし、実際のところは大抵地下で繋がっている。入り口が多いだけの単体のダンジョンなのである。


「とりあえず、ここにしよっか」


 近くにあった入り口を選ぶリヴル。入り口には無人の受付小屋があり、そこには固定された端末と監視カメラが設置されていた。


 端末を操作するリヴル。


「えーっと、ダイバー三名。二人は事務所所属、一人はフリー······」


 必要事項を入力し、手続きを済ませるリヴル。


「これでOK! さっ、配信始めよっか!」


 予定してた時刻とほとんどピッタリな時間になったため、早速配信へと移る。



 OnAir.



「いえーいっ! みなさんこんにちはっ、おはようございます! アレグリア所属のリヴルと──」


 いつもの挨拶を元気よくしていく姉妹。ルキファスも合わせて頷いたり短く答えて、始まりの挨拶が終わる。



 ────────────────────

:リヴルちゃんすこすこ侍・『2万おめっ! いえ~いっ! 午前配信に出れたぞ~!』

:芋のポテト・『2万人おめでとう!』

:あああああ・『2万人おめでとう!』

:ABCエビ・『初見です』

:チェックメイド・『登録者2万おめっ!』

:cityビースト・『プレマイ切り抜きから来ました』

:LOVEtea・『初見です』

 ────────────────────


「いえ~! みんなありがとう! これからもキラキラしたダイビングしまくるから応援よろしくね~!」

「初見さんもありがとうございます。これからよろしくお願いしますっ」


 ────────────────────

:芋のポテト・『初見だぞ! 囲め!』

:あああああ・『へっへ~、ようこそ初めましてさんたちよ~。たっぷり歓迎してやるぜ~』

:リヴルちゃんすこすこ侍・『新人達め、悲しみと別れる覚悟は出来たか?』

 ────────────────────



 こうして、勢いに乗ったリヴル達の配信が始まった。





お疲れ様です。次話に続きます。

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