33──腑抜けた日常
「なんだこれは」
と、言うのがルキファスの開口一番の感想であった。
『ルキファスさんのプロフィール~♡
・なまえっ :ルキファス!(神話の魔王!)
・年齢っ :ひ・み・つ!朝寝坊40回分くらい!
・身長っ :ハイヒール70足分くらいっ!
・体重っ :大型犬三頭分くらいっ!
・結婚は~······してる! :学生の頃から8年間付き合ってた彼女さんと結婚!二人の子供持ち!
・特技っ────────────』
長いので割愛。
およそ本人から聴取して作成したとは思えない出来栄えであった。
「おい何だこの好きな言葉は。俺は『弱肉強食、力こそ全て、支配』と言ったはずなのに『焼肉定食、愛だけあれば良い、平和』になってるぞ」
「愛されるキャラじゃないといけないからね。少しだけあたしの修正が入ってるわ」
「この特技の欄。俺は『殺戮、破壊、支配』と言ったはずだが『演技、ポーカーフェイス』となってるぞ」
「それはあたしの客観的な判断を優先したわ」
「趣味。『戦い、闘技鑑賞』が『対戦ゲーム、実況動画の視聴』となってるが?」
「広義としては同じようなもんっしょ?」
「女の好み。『無い』と言ったはずだが『僕を理解してくれる人。優しくて明るい女の子。手作りのお弁当と愛情込めた手料理の夕飯を用意してくれて、一緒に映画をみたり、お出かけして買い物に付き合ってくれる子。買ってきた花束を大事にビンに差してくれて、冬は手編みのセーターを······』読むのも面倒だ」
ルキファスはノートを放るように置いた。
「よく分からんが、これなら最初からお前が勝手に俺のプロフィールとやらを造って書けば良かったのではないか?」
「駄目よ、それじゃあ嘘になっちゃうもん」
「もう十分嘘だと思うよ······」
ラヴィもノートを取ってため息をついた。
「これ、お姉ちゃんの願望が反映され過ぎ。この将来の夢なんて『有名ダイバー、バズって登録者100万人!』とか書いてあるけど、どう考えてもお姉ちゃんの夢じゃん」
「細かい事はいいの! ルキファスさんのプロフィールを本人からの提供だけで作ったらドン引きなんだもん!」
「まあ、それは否定しないけど······」
ルキファスは飽きたのか、用が済んだからなのかノートには目もくれずにカップ麺をすすっていた。
「唯一本人の言葉通りに書かれてるのが好きな食べ物の『カップ麺、辛い物』くらいだね」
「うーん······プロデュースの道は険しいわね」
しかし、言葉とは裏腹にリヴルは楽しそうに笑っていた。
「でもっ、今回の事でルキファスさんって人がさらに分かったわ。この人は本当に自分を心の底から魔王だと思ってるのよ。だから、その個性は残しつつ愛されるキャラにしてこう!」
「うーん。難しそうだけど······」
姉の笑顔に釣られるようにラヴィも小さく笑った。
「頑張ろっか」
魔王は相変わらず地図帳ばかり眺めていた。
夕方になり、リヴルとラヴィの姉妹は身支度を整えて玄関に居た。
何時ものダンジョン攻略用の機能性重視の服装ではなく、ポップでカジュアルな外出用の服だ。
「さっ、ルキファスさーん。出かけるよー」
リヴルが奥に声を掛けると、ルキファスが配信部屋から出て来た。
「終わったか。二千年経っても女の用意やら準備やらは遅いのだな。女など無駄の多い生き物だ」
「ピピーッ! はいNG! そういった性差による発言はインフルエンサー等には禁句です!」
「なんだそのインペルランサーとか言うのは」
「インフルエンサー! ともかく、配信を生業としてるあたし達は自分達の発言一つ一つに気をつけなくちゃいけないの。不特定多数の人達の前で喋るし、記録は残るから不適切な発言は取り返しがつかなくなるわよ」
「くだらんな」
ルキファスは冷たい目で応えた。
「己が考えも意見も自由に出来ぬとはな。人間は調和とかいう大した価値も無い幻想のために自分の意志という最も価値ある物を捨てたのか?」
「はいNG!」
「? 今の話のどこが駄目だったのお姉ちゃん」
「哲学的で難しい話はあたしが理解出来ない!」
「ルキファスさん、お姉ちゃんは自由な意志が残ってるようなので安心して下さい」
それより、と膨れっ面でルキファスを見上げるリヴル。
「女の子二人がこうやって食事に連れてってあげるんだから少しは嬉しそうにしたらどうなの?」
「何故だ」
「いや、可愛い女の子に誘われたらグッとくるもんでしょ。男性なら」
「興味ない」
「はいNGー!」
「······今のは私もNGです」
一向に話も理解出来ない魔王は、二人に連れられるままマンションから出るのであった。
今晩は外食にする事にした一向。姉妹のチャンネル登録数が2万を突破したお祝いだ。
『ルキファスさんへのお礼も兼ねてね』というリヴルなりの感謝を示した考えもあった。
「それで、どこ行くの?」
「もちろんファミレス!」
「だろうと思った」
「いいじゃんっ。ファミレス安いし美味しいんだから。庶民の味方よ」
姉妹はよく利用している行きつけのファミリーレストランへと入った。平日の夕方、一般的な夕飯の時間より少し早めな店内は空いていた。
もちろん、ファミレス初体験の魔王は興味深そうに中を見回した。
「ここは何だ? 食堂か?」
「そっ。美味しい物がたくさんあるわ」
「ほう、カップ麺もあるだろうな?」
「無いわよ」
「ならここに価値などあるまい」
「全国のファミレスに謝りなさいっ!」
カップ麺が無いと知って不服そうな魔王であったが、人間の風俗習慣を調べるためには体験してみるのが良いと思いとどまり、大人しく席についた。
「ここに居れば飯が来るのだな?」
「その前に注文しなくちゃ」
備え付けのパッドを取って操作するリヴル。
「えーっと、あたしはミートドリア。ラヴィはカルボナーラよね」
「こっちのポテトと唐揚げの盛り合わせも欲しい」
「しょうがないわねー。はい。ルキファスさんは?」
「? 何をしているのだ?」
「何って注文してんのよ」
画面を魔王に見せる。
「ほら、ここにあるのから注文出来るの。あたしがやってあげるから欲しいのを選んで」
「カップ麺だ」
「無いと言っとるやろがーいっ!」
結局。
ルキファスにはピリ辛チキンや唐辛子スープなどの激辛メニューを一通り頼む事となった。
料理が載せられたロボットがピロピロと音楽を鳴らしながらやってくると、ルキファスは驚いたように言った。
「ほう、ゴーレムか? それにしては小型で静かな移動をするようだが」
「ロボットよ、ロボット。はーい、ありがとねー、ロボにゃーん」
ロボットの顔に当たる部分のディスプレイにニコニコと笑顔が表示される。リヴルとラヴィが注文した料理を下ろし終えると、ロボットはピロピロンと音を出して戻っていった。
ルキファスはしげしげとその去り行く姿を見送った。
「人間どもの技術力は飛躍的に進化したのだな。しかし、あんな奇異な物に力を注いで何になる」
「便利で役に立ってるじゃん。ほら、その奇異な物が運んで来てくれたご飯よ」
目の前に並ぶ辛口料理。
魔王はその一つを口にして頷いた。
「まあ、そうだな」
思ったほど辛くはなかったが、味も悪くはなかった。
「役に立たん者よりも役に立つ物の方が価値はある」
姉妹と魔王の奇妙な食事は静かに夜へと更けていった。
お疲れ様です。次話に続きます。




