32──魔王をプロデュース
「でも、プロデュースって何をするの?」
ポリポリとチョココーティングされた細いスティックを食べるラヴィが尋ねた。その横では魔王が激辛麺を涼しくすすっている。
「ルキファスさんをどう改造するかって事?」
「改造なんかしないわ。いい? ルキファスさんは確かに完璧な魔王キャラをしてるわ。けど、同時に一つ欠点があることに気づいたわ」
「欠点?」
──ポリッ?──
「どんな?」
「それは············完璧過ぎるキャラ作りよ!」
「······ん?」
傾いていた首をさらに傾げるラヴィ。
「それって欠点なの?」
「いい? 確かにリアリティーあるキャラは大事だわ。成りきりが深ければ深いほど、そのキャラクターは濃くなるわ」
しかし、と繋げるリヴル。
「ルキファスさんは極め過ぎて本物の魔王みたいになっちゃってるわ。と言うか、思い込んでるんだから仕方ないんだけど」
ボードにルキファスと文字を書き、そこから伸びるように線を書くリヴル。
「つまり、ルキファスさんは魔王であるがゆえに世界征服とか支配以外の事に興味関心が薄いわ。例外はカップ麺くらい。他の事は世界征服に繋がってなければまるで興味なし」
ゲーム、配信、登録者、などの文字に線を繋げ、そこにバッテンを書いていく。
「その通りだ。よく分かってるではないか小娘」
「しかーし! それじゃあ駄目なのよ。ルキファスさんには今後も配信に出て貰うわ。慣れてきたらファンとの触れ合いとかもしてもらうし、雑談とかもしてもらう。でも、そんな時に物事に無関心だと話せる内容が少ないし、あんまり非常識過ぎると却って反感を買うわ」
「人間どもは反抗してくるものだ。それを正面から捻り潰すのが魔王だ」
「暴力禁止っ! とにかく、あんまり素っ気ない返答したり会話が広がらないようでは困るわ。そこで! あたしら神官がフォローしようって話」
「「神官?」」
ルキファスとラヴィが声を揃える。
「貴様らは神官だったのか」
「ねえ、何なのその神官って」
「ふふふ。この際だから、あたし達もルキファスさんプロデュースに乗っかってポジションを作ろうと思ってね。あたしとラヴィは見目麗しきアイアンメイデンっ。魔王に囚われてしまった哀しき美人姉妹······座ればチューリップ、立てばアイリス、歩く姿はオールドローズっ! そんな美少女姉妹は魔王に仕える神官となってしまったのよ」
「ラヴィとやら。貴様の姉はもしかして頭が少々おかしいのか?」
「うぅ、恥ずかしい······」
「記憶喪失の中二魔王に言われとうなーいっ! ともかく!」
バンッとボードを今一度叩くリヴル。
「あたしら姉妹のプロデュースでルキファスさんを完璧で最高にキラキラしたライバー、いえ、ダイバーにしてあげるのよ!」
「う、うん」
姉の思いつきや言い出しの全てを理解出来るわけではないが、それでも付き合うのが妹の悲しい性であると言えた。
つまるところ、リヴルが言いたいのは『ルキファスを魔王キャラが売りの配信者として育成しよう』という事だ。
魔王キャラ(何度も言うが本当に魔王なのだが)と、思わぬゲームセンス(というより反射神経などのフィジカル)を活かしつつ、配信者としての常識やトークスキルを磨く計画だ。
全ては更なるバズのために。
「という訳で! さ、魔王様。早速あなた様にはプロフィール作りからやってもらいますわ~。あたし達のチャンネル概要にも載せていくからね」
「プロフィール?」
怪訝な顔になる魔王。
「なんだそれは」
「うーんっと、要は名刺みたいなもん。自己紹介書って言うか~。あっ、履歴書! そう、履歴書みたいなやつ。それをもっと簡単にしたような」
「リレキショとは何だ」
「ガクッ! ま、まあいいわ。とにかく、話しながらやってけば分かると思うわ」
そう言いながらリヴルは例のルキファス用魔王ノートを取り出した。
「それじゃあルキファスさん。あたしの質問に答えていって。それを元にあたしがプロフィールを作成するから」
「全く分からんが、まあ好きにしろ」
ご機嫌取り用のカップ麺が功を奏したのか、ルキファスは大人しく応じた。
「それではルキファスさん。お名前は?」
「ルキファスだ。知ってるではないか」
「一応形式なのっ。えー、年齢は?」
「前にも言ったろ。覚えてなどおらん。大体800······ああ、封印されていた期間を合わせれば2800歳ほどか」
「ふむふむ。えー、それではご出身は?」
「深淵だ。ゼグルの深淵の深奥。かつて俺の居城があった場所だ」
「おっと、新しいネタ来たわね。なるほど、じゃあここは立ち入り禁止の禁忌ダンジョンの一番深い所って事にしておこっ」
奇しくも、現代では実際に立ち入り禁止のダンジョンの最深部となっている。
「えー、それじゃあ次はー······うーん、そうねえ。あっ、独身? それとも結婚してる?」
「あ、それ気になる」
リヴルとラヴィは好奇心の満ちた目でルキファスを見た。
当の本人は呆けたような顔をした。
「結婚? ああ、結婚か」
ルキファスは少し首を捻り、頭を横に振った。
「結婚はしてない」
「え、意外。そこは『魔王には結婚などという概念はなーいっ! がーっはっはっは!』とか言うかと」
「代わりに妾が二十人程居たが」
「めかけ? めかけって何?」
「子を産ませるための女だ」
「サイテーっ!」
「に、二十人もですか?」
あくまで設定の話······のつもりで聞いていたはずの姉妹であったが、やはり乙女にはデリケートな話だったのか異様、いや異質な食い付きを見せた。
「結婚もしないで奥さんが二十人も居たの?」
「いや、妻ではない。妾だ。そもそも俺は妾さえも要らんかったのだがな。だが、万一俺が早死にした時のために子を持つべきだと進言され、子を孕む者を何人か選んだ」
「サイテー! 女の子の事をなんだと思ってんのよこらあっ!」
「は、孕ませる······」
二人がなぜ過剰な反応をするのか理解出来ない魔王。まだ王や支配者の存在した大昔などの封建制度の時代では妾を持つ事は珍しくはなかったが、現代では受け入れられない考えであった。
ヒートアップした怒りを鎮めて息をつくリヴル。
「ま、まあ。ルキファスさんだって男の人だもんね。うん、理解してあげよう。きっと綺麗な女性とたくさん愛を紡いだんだねー」
「愛などない。用が済んだら会う事もない。と言うか、誰も名前も顔も覚えてない」
「ほんっとサッイッテー!!」
「お、お姉ちゃん落ち着いて。設定の話だよ。どうしてこんな、え、エッチな設定かは分かんないけど」
「記憶喪失の割には凝った設定じゃん! 明らかに願望が含まれてるわ! なんで男ってみんなしょーーーもない願望ばっか持つんだろう!?」
とまあ。
何やら譲れない物もあったようだが、こうしてルキファスの設定(?)を元にプロフィールを作成していく姉妹なのであった。
その後、紆余曲折ありながらも、リヴルは細かな質問をしていき、それらしいプロフィールを造り上げた。
「出来たー! ザ・魔王プロフィール! あの恐ろしき神話の魔王の赤裸々な履歴がこのノートに修められたのだ!」
「赤裸々というか、恥ずかしいのもあったけどね······」
ノートを掲げて満足そうに頷くリヴル。
「それでは~······はいっ、魔王様」
「?」
差し出されるノート。それを手に取るルキファス。
「これをどうするのだ」
「内容の確認よ。自分で見てみて」
「ふむ······」
魔王本人による監修が始まった。
お疲れ様です。次話に続きます。




